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第五章 夜の海を揺蕩う舟のように
十八歳の誕生日
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王都ランスの市場は、新年の飾りと人々の笑い声に包まれていた。冬晴れの空の下、白い息を吐きながら、ラシェルはマントの裾を押さえて歩いていた。
「わぁ! すごく賑わってますね!」
思わずこぼれた声に、隣を歩くホープが笑う。
「この時期は特にね。新年のお祭りと、春迎えの支度と、物価が上がる前の買い出しで、全部いっぺんに来るから」
「なるほど……。でも、私、ずっと王都に居たのに、そんなことも知らずにいたんですね。市場って、歩いているだけで楽しいです」
露店には焼き栗や香草パン、彩り豊かな手袋や刺繍入りの布巾が並び、通りには笛や太鼓の音が混じる。
人の波に押されそうになりながらも、ラシェルはホープの袖をそっと握って歩いた。
すると、ホープは気がついて、はぐれないようにと、ラシェルの手をしっかりと握ってくれた。
(王妃様の……誕生日プレゼントを探すのが目的だけど)
そう思っていたのに、ついあちこちに目を奪われる。布地屋の小物や、木細工の髪飾り、銀の指輪。
そのたびにホープが立ち止まって、「好きそう?」「これどう?」と尋ねてくれるのが、なんだか嬉しかった。
「シルヴィア様には、こういう色が似合う気がするな」
ホープが指さしたのは、淡い金糸の刺繍が入った手袋。
「わあ……素敵です。でも、ちょっと高いですね」
「それだけの価値はあると思うよ。王妃様への贈り物なら」
「……はい。あの、ホープ様も……気に入ったものがあれば、ぜひ」
ふと口に出してから、ラシェルは自分で驚いた。
ホープがきょとんとこちらを見たので、慌てて視線を逸らす。
「……今日、ですよね?」
「ん?」
「ホープ様の、お誕生日」
「……あっ」
ホープは思わず笑った。
「うーん、なんで知ってるんだろ? 教えてないのに」
「去年、あんな大きな祝宴をしたのに。もう、忘れちゃったんですか?」
「あ、それで覚えててくれたんだ」
肩をすくめるホープに、ラシェルは思わず笑ってしまう。
「じゃあ今年は、内緒のお誕生日お祝いをしませんか?」
「またダンスでもする?」
「……ダンス、楽しかったです」
「踊り方……もう忘れちゃったよ。また一から教えてもらわないと」
ホープが小さく笑う。
「いつもはどんな風にお祝いしてるんですか?」
「誕生日は、母さんが家でパンを焼いてくれる。兄さんと姉さんも家に帰ってきてくれて、皆で一緒に食事をするんだ。その日だけは、狭い家なのに、蝋燭が七本も点くんだよ」
家族のことを楽しそうに話すホープの姿を、ラシェルは眩しそうに見つめた。
「今日って、ジェード様も誕生日ですよね?」
「うん。双子だからね」
「多分……どこかでお祝いしてると思うよ。ジェードも」
ラシェルは思わず口元に手を当てた。
「やっぱり、双子って不思議ですね」
「うちの村ではね、双子の場合、先に生まれたほうが下の子になるんだ」
「えっ? それって……どうしてですか?」
「お産のとき、一番に出てくる子の方が、お母さんのお腹の中で下の方に居るからだって言うんだ。だから、先に生まれたのにぼくが弟なんだよ。王都でもそう?」
「えっ、えっと……」
ラシェルは出産についてはあまり知識がなかった。自分にもあることなので、月のものを数える程度のことはわかっている。
子作りについても、王妃の専属侍女になってから、ようやく少しだけ知ったくらいだ。
赤ちゃんが生まれるところはよくわからなくて、ラシェルは顔が熱くなった。
「……ご、ごめんなさい、よく知らなくて……」
「ラシェル、顔、赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です! 戻ったら、シルヴィア様に、シーランド王国ではどうなのか、教えてもらいますねっ!」
慌ててそう言ったラシェルに、ホープは優しく笑った。
「君って、本当に可愛いよね。王宮の中で見せない顔が、ぼくは好きだよ」
思わず口をつぐんだラシェルの耳まで赤く染まっていた。
「わぁ! すごく賑わってますね!」
思わずこぼれた声に、隣を歩くホープが笑う。
「この時期は特にね。新年のお祭りと、春迎えの支度と、物価が上がる前の買い出しで、全部いっぺんに来るから」
「なるほど……。でも、私、ずっと王都に居たのに、そんなことも知らずにいたんですね。市場って、歩いているだけで楽しいです」
露店には焼き栗や香草パン、彩り豊かな手袋や刺繍入りの布巾が並び、通りには笛や太鼓の音が混じる。
人の波に押されそうになりながらも、ラシェルはホープの袖をそっと握って歩いた。
すると、ホープは気がついて、はぐれないようにと、ラシェルの手をしっかりと握ってくれた。
(王妃様の……誕生日プレゼントを探すのが目的だけど)
そう思っていたのに、ついあちこちに目を奪われる。布地屋の小物や、木細工の髪飾り、銀の指輪。
そのたびにホープが立ち止まって、「好きそう?」「これどう?」と尋ねてくれるのが、なんだか嬉しかった。
「シルヴィア様には、こういう色が似合う気がするな」
ホープが指さしたのは、淡い金糸の刺繍が入った手袋。
「わあ……素敵です。でも、ちょっと高いですね」
「それだけの価値はあると思うよ。王妃様への贈り物なら」
「……はい。あの、ホープ様も……気に入ったものがあれば、ぜひ」
ふと口に出してから、ラシェルは自分で驚いた。
ホープがきょとんとこちらを見たので、慌てて視線を逸らす。
「……今日、ですよね?」
「ん?」
「ホープ様の、お誕生日」
「……あっ」
ホープは思わず笑った。
「うーん、なんで知ってるんだろ? 教えてないのに」
「去年、あんな大きな祝宴をしたのに。もう、忘れちゃったんですか?」
「あ、それで覚えててくれたんだ」
肩をすくめるホープに、ラシェルは思わず笑ってしまう。
「じゃあ今年は、内緒のお誕生日お祝いをしませんか?」
「またダンスでもする?」
「……ダンス、楽しかったです」
「踊り方……もう忘れちゃったよ。また一から教えてもらわないと」
ホープが小さく笑う。
「いつもはどんな風にお祝いしてるんですか?」
「誕生日は、母さんが家でパンを焼いてくれる。兄さんと姉さんも家に帰ってきてくれて、皆で一緒に食事をするんだ。その日だけは、狭い家なのに、蝋燭が七本も点くんだよ」
家族のことを楽しそうに話すホープの姿を、ラシェルは眩しそうに見つめた。
「今日って、ジェード様も誕生日ですよね?」
「うん。双子だからね」
「多分……どこかでお祝いしてると思うよ。ジェードも」
ラシェルは思わず口元に手を当てた。
「やっぱり、双子って不思議ですね」
「うちの村ではね、双子の場合、先に生まれたほうが下の子になるんだ」
「えっ? それって……どうしてですか?」
「お産のとき、一番に出てくる子の方が、お母さんのお腹の中で下の方に居るからだって言うんだ。だから、先に生まれたのにぼくが弟なんだよ。王都でもそう?」
「えっ、えっと……」
ラシェルは出産についてはあまり知識がなかった。自分にもあることなので、月のものを数える程度のことはわかっている。
子作りについても、王妃の専属侍女になってから、ようやく少しだけ知ったくらいだ。
赤ちゃんが生まれるところはよくわからなくて、ラシェルは顔が熱くなった。
「……ご、ごめんなさい、よく知らなくて……」
「ラシェル、顔、赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です! 戻ったら、シルヴィア様に、シーランド王国ではどうなのか、教えてもらいますねっ!」
慌ててそう言ったラシェルに、ホープは優しく笑った。
「君って、本当に可愛いよね。王宮の中で見せない顔が、ぼくは好きだよ」
思わず口をつぐんだラシェルの耳まで赤く染まっていた。
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