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第九章 わたしは、あなたの子どもを、望んでいます
『私』だけを見て*
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初夏の午後。
ラシェルの二十一歳の誕生日のために、王妃から贈り物が用意されていた。
王妃の離れの扉を開けた瞬間、濃密な薔薇の香りが鼻腔を刺激する。
白い陶器の皿には蜂蜜菓子と果実のタルト。テーブルにはワインのピッチャーと銀の燭台が置かれ、部屋中に色とりどりの薔薇が咲いていた。
あまりの美しさに、ラシェルは思わず目を見開く。
「……これ……王妃様の、心遣いですね」
「……凄い薔薇だね……」
ホープと一緒に、そっと扉を閉めながら、ラシェルは頬を染めて微笑んだ。
だが、漂う香りはただの薔薇ではなかった。
濃密な甘い香りが、ふたりの距離をそっと溶かしていくような。
ホープとラシェルは、気が付けば、指が触れ、髪を撫で、頬を包んでいた。
唇が重なった瞬間、時間の流れが静かにほどけていく。
熱が、体の奥に流れ込む。
舌が触れ、離れ、また求め合う。
抑えきれない衝動に突き動かされるまま、ふたりは寝台へと身を沈めた。
脱いだ衣服は、そのまま床へと落とされる。
肌が触れ合い、重なり合った呼吸は浅い。
愛撫は熱を孕みながらも深く、静かに続いていく。
夜薔薇の香りに酔わされ、胸の奥が疼くたび、心は満たされていった。
「……ラシェル」
ホープが自分の名を呼ぶ時の声が好きだった。
公爵令嬢でも、悪魔の妹でもない。
――ただ『ラシェル』として呼ばれる、その響きが、身体の奥に甘く染みわたっていく。
「……んっ……ホープ……」
ラシェルの声は囁くように、甘く熱を帯びていた。
今日は、何故か、ホープを求める気持ちを隠しきれない。
ラシェルはそっとホープの胸を押し、迷いなくその上に跨る。
裸のまま、押し倒したホープを見下ろすその姿は、静かな炎のように、強く、美しかった。
形の整った豊かな胸も、繊細にくびれた腰も、まるで違う世界のもののように、神々しい。
ホープの手が、腹の上に跨がるラシェルの太ももにそっと触れる。
部屋に漂う濃密な薔薇の香りが、ふたりを包む。
ラシェルの体は熱に支配され、自分自身をどこか他人のように感じていた。
ホープの上で、ゆっくりと、自らの意思で彼を受け入れる。
その瞬間、ホープの喉が震え、小さな声が漏れる。
「……っ、ラシェル……っ」
ラシェルは腰を深く沈めると、ゆっくりと動かし始めた。
「……ラシェルっ、ダメだよ……そんな……君が……」
ホープの体がびくりと跳ねた。その感触が、ラシェルの奥にも甘く響く。
「ホープ……好きよ。ねぇ、私だけを見て。ラヴァール家の娘でも、ヴィンセントの妹でもない、『私』だけ……」
それは、ずっと心の奥に秘めていた言葉だった。
ホープがラシェルの顔を見つめる。
「うん……ラシェル……『君』を、見てるよ」
甘く高鳴るホープの声を引き出したくて、わざと少し動きを止め、ゆっくり焦らしてみる。
彼が、愛おしい。
痛みよりもずっと強く、胸に満ちるこの想いが、全身を包む。
ラシェルがさらに身を沈めると、ホープの背が僅かに反った。
「……っ……く、……ぁ……」
喉奥から漏れる、堪え切れない声。
その震えが、ラシェルの身体にも伝わる。
ホープの両手は、耐え切れずにラシェルの腰を抱く。
愛おしさと欲望が、体の中をどこまでも広がっていく。
熱い。
でも、もっと――触れていたい。
──ああ、この声も、この熱も。
まるで、落ちていくようだった。
理性も、言葉も、どこかへ遠のいていく。
「ね……、ホープ……気持ち、いい?」
「……うん……もう……君でいっぱいで……どうにかなりそうだよ……」
そう呟いたホープに、ラシェルは艶めいた笑みを浮かべる。
腰を揺らしながら、ラシェルはそっとホープの手を取って、自分の胸元に導く。
「触れて……あなたの好きなところ、どこでも……」
ホープの手が、恐れるように胸に触れる。
その指先が震えていて、それがまた可愛くて、くすぐったくて、愛しかった。
「……ラシェル……こんなにされたら、すぐ……終わりそう」
「いいの……好きにして」
ホープの瞳が潤み、ラシェルを見つめる。
「ラシェル……ほんとに……もう、限界……っ」
そう言うと、ホープはラシェルを強く引き寄せた。
次の瞬間には、ラシェルを抱きしめ、腰を突き上げる。
ホープの中にある感情の全てが、今、自分に注がれている――そう思えた。
濃密な熱と熱が、ひとつに混ざり合うような感覚。
ラシェルの内側で何かが波打ち、甘く痺れたような余韻が全身に広がっていく。
「……ホープ、好きよ……」
耳元で囁くと、ホープが微笑みながら、ラシェルを柔らかく抱きしめる。
「……僕も……ラシェル、君が……好きだよ」
重なったまま、ふたりはしばらく動けなかった。
汗ばんだ肌と肌がぴたりと張り付いて、互いの鼓動が胸の奥で響いていた。
* * * * *
部屋の中には、まだ微かに薔薇の香りが漂っていた。
床に脱ぎ捨てていた服を拾い、ホープはシャツの裾を整えている。
ラシェルはその様子を、寝台で頬杖をついて見ていた。
「……ボタン、賭け間違ってますよ」
くすくすと笑いながら、ラシェルが起き上がる。
シーツを体に巻いて近くに来たラシェルに、ホープは照れくさそうに視線を逸らした。
「今でも、苦手なんだよね。本物のボタンって……」
「偽物のボタンなんてあるんですか??」
「アレー村の風習なのかな。今度、教えるよ」
首を傾げながら、ラシェルはホープの胸元へ手を伸ばし、一つずつボタンを留め直していく。
ホープの胸に、ラシェルの指先の温もりが軽く触れて、くすぐったさと甘さが入り混じる。
「はい。これで完璧です」
「ありがとう。君って、意外と世話焼きだよね」
「意外?」
「いや、貴族のお嬢様って、こういうの自分でしないんだって思ってたから」
「それは偏見です。それに、身分なんて関係なくて……」
ラシェルは、ふと真顔になり、小さな声で続けた。
「誰だって……好きな人には、何かしてあげたいって、思うでしょ?」
その一言に、ホープの動きが止まる。
不意を突かれたように目を見開き、しばらくラシェルの蒼い瞳を見つめた。
やがて、照れくさそうに視線を逸らす。
「うん。ぼくも、君に何でもしてあげたい」
迷いもなく、躊躇いもなく答える。
すると、ホープの言葉に、ラシェルは真顔で言ってみる。
「じゃあ、私の騎士として、忠誠を誓って」
王に忠誠を誓った身では、流石に『心の中だけでも君に忠誠を誓う』とも言えず、ホープは思わず困惑する。
「……愛の、試練、なのかな……」
ホープの困った顔を見て、ラシェルはくすくすと笑う。そういう誠実なところにも惹かれている。
そして、ホープの手を握り、指を絡める。
その手は温かくて、大きくて――でも、今は自分のものであることが何より愛しい。
「わざとですよ」
ラシェルはふふっと笑う。
美しいラシェルの小悪魔的な笑顔に、ホープも一緒に笑顔になった。
ラシェルの二十一歳の誕生日のために、王妃から贈り物が用意されていた。
王妃の離れの扉を開けた瞬間、濃密な薔薇の香りが鼻腔を刺激する。
白い陶器の皿には蜂蜜菓子と果実のタルト。テーブルにはワインのピッチャーと銀の燭台が置かれ、部屋中に色とりどりの薔薇が咲いていた。
あまりの美しさに、ラシェルは思わず目を見開く。
「……これ……王妃様の、心遣いですね」
「……凄い薔薇だね……」
ホープと一緒に、そっと扉を閉めながら、ラシェルは頬を染めて微笑んだ。
だが、漂う香りはただの薔薇ではなかった。
濃密な甘い香りが、ふたりの距離をそっと溶かしていくような。
ホープとラシェルは、気が付けば、指が触れ、髪を撫で、頬を包んでいた。
唇が重なった瞬間、時間の流れが静かにほどけていく。
熱が、体の奥に流れ込む。
舌が触れ、離れ、また求め合う。
抑えきれない衝動に突き動かされるまま、ふたりは寝台へと身を沈めた。
脱いだ衣服は、そのまま床へと落とされる。
肌が触れ合い、重なり合った呼吸は浅い。
愛撫は熱を孕みながらも深く、静かに続いていく。
夜薔薇の香りに酔わされ、胸の奥が疼くたび、心は満たされていった。
「……ラシェル」
ホープが自分の名を呼ぶ時の声が好きだった。
公爵令嬢でも、悪魔の妹でもない。
――ただ『ラシェル』として呼ばれる、その響きが、身体の奥に甘く染みわたっていく。
「……んっ……ホープ……」
ラシェルの声は囁くように、甘く熱を帯びていた。
今日は、何故か、ホープを求める気持ちを隠しきれない。
ラシェルはそっとホープの胸を押し、迷いなくその上に跨る。
裸のまま、押し倒したホープを見下ろすその姿は、静かな炎のように、強く、美しかった。
形の整った豊かな胸も、繊細にくびれた腰も、まるで違う世界のもののように、神々しい。
ホープの手が、腹の上に跨がるラシェルの太ももにそっと触れる。
部屋に漂う濃密な薔薇の香りが、ふたりを包む。
ラシェルの体は熱に支配され、自分自身をどこか他人のように感じていた。
ホープの上で、ゆっくりと、自らの意思で彼を受け入れる。
その瞬間、ホープの喉が震え、小さな声が漏れる。
「……っ、ラシェル……っ」
ラシェルは腰を深く沈めると、ゆっくりと動かし始めた。
「……ラシェルっ、ダメだよ……そんな……君が……」
ホープの体がびくりと跳ねた。その感触が、ラシェルの奥にも甘く響く。
「ホープ……好きよ。ねぇ、私だけを見て。ラヴァール家の娘でも、ヴィンセントの妹でもない、『私』だけ……」
それは、ずっと心の奥に秘めていた言葉だった。
ホープがラシェルの顔を見つめる。
「うん……ラシェル……『君』を、見てるよ」
甘く高鳴るホープの声を引き出したくて、わざと少し動きを止め、ゆっくり焦らしてみる。
彼が、愛おしい。
痛みよりもずっと強く、胸に満ちるこの想いが、全身を包む。
ラシェルがさらに身を沈めると、ホープの背が僅かに反った。
「……っ……く、……ぁ……」
喉奥から漏れる、堪え切れない声。
その震えが、ラシェルの身体にも伝わる。
ホープの両手は、耐え切れずにラシェルの腰を抱く。
愛おしさと欲望が、体の中をどこまでも広がっていく。
熱い。
でも、もっと――触れていたい。
──ああ、この声も、この熱も。
まるで、落ちていくようだった。
理性も、言葉も、どこかへ遠のいていく。
「ね……、ホープ……気持ち、いい?」
「……うん……もう……君でいっぱいで……どうにかなりそうだよ……」
そう呟いたホープに、ラシェルは艶めいた笑みを浮かべる。
腰を揺らしながら、ラシェルはそっとホープの手を取って、自分の胸元に導く。
「触れて……あなたの好きなところ、どこでも……」
ホープの手が、恐れるように胸に触れる。
その指先が震えていて、それがまた可愛くて、くすぐったくて、愛しかった。
「……ラシェル……こんなにされたら、すぐ……終わりそう」
「いいの……好きにして」
ホープの瞳が潤み、ラシェルを見つめる。
「ラシェル……ほんとに……もう、限界……っ」
そう言うと、ホープはラシェルを強く引き寄せた。
次の瞬間には、ラシェルを抱きしめ、腰を突き上げる。
ホープの中にある感情の全てが、今、自分に注がれている――そう思えた。
濃密な熱と熱が、ひとつに混ざり合うような感覚。
ラシェルの内側で何かが波打ち、甘く痺れたような余韻が全身に広がっていく。
「……ホープ、好きよ……」
耳元で囁くと、ホープが微笑みながら、ラシェルを柔らかく抱きしめる。
「……僕も……ラシェル、君が……好きだよ」
重なったまま、ふたりはしばらく動けなかった。
汗ばんだ肌と肌がぴたりと張り付いて、互いの鼓動が胸の奥で響いていた。
* * * * *
部屋の中には、まだ微かに薔薇の香りが漂っていた。
床に脱ぎ捨てていた服を拾い、ホープはシャツの裾を整えている。
ラシェルはその様子を、寝台で頬杖をついて見ていた。
「……ボタン、賭け間違ってますよ」
くすくすと笑いながら、ラシェルが起き上がる。
シーツを体に巻いて近くに来たラシェルに、ホープは照れくさそうに視線を逸らした。
「今でも、苦手なんだよね。本物のボタンって……」
「偽物のボタンなんてあるんですか??」
「アレー村の風習なのかな。今度、教えるよ」
首を傾げながら、ラシェルはホープの胸元へ手を伸ばし、一つずつボタンを留め直していく。
ホープの胸に、ラシェルの指先の温もりが軽く触れて、くすぐったさと甘さが入り混じる。
「はい。これで完璧です」
「ありがとう。君って、意外と世話焼きだよね」
「意外?」
「いや、貴族のお嬢様って、こういうの自分でしないんだって思ってたから」
「それは偏見です。それに、身分なんて関係なくて……」
ラシェルは、ふと真顔になり、小さな声で続けた。
「誰だって……好きな人には、何かしてあげたいって、思うでしょ?」
その一言に、ホープの動きが止まる。
不意を突かれたように目を見開き、しばらくラシェルの蒼い瞳を見つめた。
やがて、照れくさそうに視線を逸らす。
「うん。ぼくも、君に何でもしてあげたい」
迷いもなく、躊躇いもなく答える。
すると、ホープの言葉に、ラシェルは真顔で言ってみる。
「じゃあ、私の騎士として、忠誠を誓って」
王に忠誠を誓った身では、流石に『心の中だけでも君に忠誠を誓う』とも言えず、ホープは思わず困惑する。
「……愛の、試練、なのかな……」
ホープの困った顔を見て、ラシェルはくすくすと笑う。そういう誠実なところにも惹かれている。
そして、ホープの手を握り、指を絡める。
その手は温かくて、大きくて――でも、今は自分のものであることが何より愛しい。
「わざとですよ」
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