【完結】天国の扉

藤井 紫

文字の大きさ
18 / 265
第一章 奴隷皇子と亡命の魔女

皇族の奴隷(2)

しおりを挟む
「サンドラ……?」
「ファールーク皇国の皇都よ。ご存じないのかしら?」
「ファ…ルーク……? じゃあ、ここは暗黒大陸モリスなの?」
「そうです」
 ジェードは驚いて言葉を失った。
 中心の地を越えて、暗黒大陸モリスまで来てしまっていたのだ。
 ジェードが学校で見た地図は聖地オス・ローのある中央の地までしか載っていない。そこより左側の暗黒大陸モリスは、途切れて載っていないのだ。
「正しくは西大陸モリスですけれどね」
 リューシャの声に怒気が含まれた気がした。
「あなたは一体何者なの? ヴァロニア人だとは聞いているけれど」
「わ、わたしは……巡礼者です」
 ジェードは羊飼いと言ったほうが良いのかと迷いながら答えた。
「巡礼ですって? オス・ローは二百年前にヴァロニアとシーランドの戦争の所為で崩壊したというのに」
 女性が言うことは、ジェードが学校で習ったことと違う。
「……聖地で戦争をしたのは、シーランドと、ファールークでしょ?……」
 ヴァロニアは関係ないはずだ。
 リューシャはジェードを見て眉をしかめた。心なしか口調もきつくなりジェードを問い詰める。
「中央の地はファールークの領土です。現在も調停でヴァロニアからの国境超えは禁じられているのを知ってのこと?」
「そんなこと……知らないわ」
「自国民に御触れが行き渡らないほど、ヴァロニアでは王族が疲弊しているということね」
 リューシャの言っていることは、ジェードにはまったくわからないことだった。王族が疲弊しているなど、村で暮らしていくには関係のないことだ。村を治める領主の話さえも、噂でしか聞いたことがない。
「では巡礼に来たというのなら、同行者は? 誰かと一緒に来たのでしょう? その者たちは何処へ行ったの?」
「同行者は、いません……。わたし一人で来たから」
 その答えを聞いたリューシャはため息をもらし、疑いの眼差しをジェードに向けた。
 疑われていることに、ジェードは少し胸が苦しくなった。一人で来たのは真実だ。だが、ヴァロニアから追い出された理由はわからない。
「では、聖地で一体何があったのですか?」
「せ、聖地で……」
「あなたはハリーファ殿下にお会いしたでしょう? 何があったのです」
 その問いかけに、ジェードは聖地であったことを思い出した。
 聖地で天使と出会い、金色の髪の少年を殺すという自分の天命を教えられたのだ。その後、生まれて初めて見た金色の髪の少年によって、砂色の世界は真っ赤に染められていった。
 聖地で最後に見た光景が脳裏によみがえる。
 ジェードは恐ろしい光景を思い出し、あの時恐怖で出せなかった言葉がもれた。
「いや……、嫌……」
 そんなジェードの様子に、リューシャは少し辛そうな表情を見せた。
「……もう良いわ。少しお休みなさい」
 そう言って、女性はジェードの手を引いてベッドに座らせた。
「落ち着いたら、わたくしには本当のことを話して頂戴。悪いようにはしないわ」
 先程までのきつい口調とは変わって、リューシャはジェードの手を取ったまま、同情するようにほほえんだ。まるで天使のようなほほえみだ。ジェードには、聖地で少年を殺すように言ってきた【天使】よりも天使のようだ。
 ジェードはリューシャにすがりつくように抱きついた。
「……殺されるわ……」
 聖地で最後に見た光景が頭の中にくり返される。金色の髪の少年が敵意をむき出しにジェードをにらみつけている。
「え……?」
「……三人とも、あの子が殺したのよ」
「あなた、何を言っているの?」
「ここに連れてこられた時に、大人の死体があったのを見たでしょ! あれは全部あの子が殺したのよ!」
「あの子って……。ハリーファ様……ですか?」
 リューシャの口からハリーファの名を聞いて、ジェードは両手で耳をふさぎ目を閉じてうずくまった。
 リューシャは、信じられないと言うように頭を横にふり、眉をしかめてジェードを見つめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星
恋愛
蓮見千歳(はすみちとせ)は、血の繋がりのない叔父、遼平に少しでも女性として見てもらいと、幼い頃から努力を続けてきた。 そして、大学卒業を果たし千歳は、念願叶って遼平の会社で働き始めるが、そこには幼馴染の晴臣(はるおみ)も居た。 千歳が遼平に近づくにつれ、『一途な想い』が複雑に交錯していく。 第14回恋愛小説対象にエントリーしています。 ※別タイトルで他サイト様掲載作品になります。 番外編は現時点でアルファポリス様限定で掲載しております。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

神様の許嫁

衣更月
ファンタジー
信仰心の篤い町で育った久瀬一花は、思いがけずに神様の許嫁(仮)となった。 神様の名前は須久奈様と言い、古くから久瀬家に住んでいるお酒の神様だ。ただ、神様と聞いてイメージする神々しさは欠片もない。根暗で引きこもり。コミュニケーションが不得手ながらに、一花には無償の愛を注いでいる。 一花も須久奈様の愛情を重いと感じながら享受しつつ、畏敬の念を抱く。 ただ、1つだけ須久奈様の「目を見て話すな」という忠告に従えずにいる。どんなに頑張っても、長年染み付いた癖が直らないのだ。 神様を見る目を持つ一花は、その危うさを軽視し、トラブルばかりを引き当てて来る。 *** 1部完結 2部より「幽世の理」とリンクします。 ※「幽世の理」と同じ世界観です。 2部完結 ※気まぐれで短編UP

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

処理中です...