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第四章 天使の子 悪魔の子
赦罪(1)
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入口の扉の音が耳に届き、ハリーファは浅い眠りから目覚めた。
――昨夜はよく眠れなかった。窓の外がだんだんと明るくなった頃、ようやくうとうとと眠りについたところだった。サライの夢を見ていた気がする。
応接のテーブルの上には、すでに朝食が並べられていた。入口の方から、ガタガタと音がするので廊下に出ると、予想通り水がめを抱えた少女の姿を見つけた。
前日の聖典の事を、ハリーファは眠れないほど気に病んでいたが、ジェードの様子は、一見していつもと変わらないように見えた。
「あ、おはよう、ハリ」
今日もジェードの黒い髪は、ハリーファが贈った櫛を使って、涼しげにまとめられている。しかし、相変わらず遅れ毛がこぼれて、どことなく幼く見えた。サライとは逆だ。
「さっき声をかけたんだけど、よく寝ていたみたいだったから」
一見元気そうに見えるジェードだったが、心の中は複雑な思いで曇っていた。
「まだ眠そうよ。顔を洗う? お水を持っていくわ」
「……昨夜、よく寝れなかった……」
昨夜眠れなかったのは、ジェードのせいだ。初めは、破いた聖典の事が気になって眠れなかったのだが、聖典を届けにジェードの部屋を訪れたあとは、ジェードの真白な肌やしどけない素足が頭から離れなかったのだ。
「ずっと起きてたの? ……もしかして、夜中、わたしの部屋に来た?」
応接に置いていたはずの聖典が自分の部屋に移動していた理由に気づいたようだ。恥ずかしいのか、最後は声が小さくなった。
「聖典を忘れていたから、届けに行ったんだが……」
ハリーファに寝姿を見られたことに、ジェードは少し頬を染めた。
「昨夜、悪かった。お前の聖典を……」
ハリーファが謝ると、ジェードはハリーファから目をそらした。
「……ううん、わたし、前からあの悪魔の絵が大嫌いだったの。でも、わたしは文字も読めないし、聖典を破ることなんて、やっぱり出来なくて……」
ジェードはそこで言葉を止めた。頭では理解できても、やはり聖典を破るという行為におびえているようだ。
「ハリに悪いことが起きないか怖いの……」
自分を殺す天命を持っているはずのジェードが、自分のことをこんなに気にかけてくれているのを感じると、温かくて不思議な気持ちになった。この感情に何と言う名前を付けたらよいのかハリーファにはわからなかった。
「ジェード、お前に文字を教えてやる。字が読めれば、絵のページは必要ないだろう?」
「文字を? 教えてくれるの?」
ジェードは黒い瞳を大きく開き、ハリーファの方を向いた。
ここ最近ハリーファは、物を贈る以外に、ジェードのためにしてやれることがないか考えていた。
「そうね。字が読めれば、挿絵はいらないし、まだ知らないところも自分で読めるようになるわ」
ぱっとジェードの顔が明るくなった。曇っていた心の中も少しずつ晴れてきたのを見て、ハリーファは安堵した。
「……わたし、ゆうべ、あの後、一人で考えてたの。あの聖典の絵なんだけど、ハリの言うとおり、正しく描かれていないんだわ」
そう言って、ジェードは心の中に黒い肌のアルフェラツの姿を思い描いていた。あの絵を描いた画家も、ジェードと同じように、本当の天使の姿は知らなかったのかもしれない。
ジェードが自分の行為の意味を理解してくれたことで、ハリーファは昨夜から抱えたままだった胸のつかえが下りた。
「天使様の絵だけじゃなくて、悪魔も黒山羊も間違いかもしれないわね」
気を取り直したジェードの言葉に、ハリーファの心臓が強く打った。ジェードの予想どおり、あの聖典は悪魔の姿も正しく描かれていない。ジェードがそのことに気づいたことに、ハリーファの顔が強張る。
――昨夜はよく眠れなかった。窓の外がだんだんと明るくなった頃、ようやくうとうとと眠りについたところだった。サライの夢を見ていた気がする。
応接のテーブルの上には、すでに朝食が並べられていた。入口の方から、ガタガタと音がするので廊下に出ると、予想通り水がめを抱えた少女の姿を見つけた。
前日の聖典の事を、ハリーファは眠れないほど気に病んでいたが、ジェードの様子は、一見していつもと変わらないように見えた。
「あ、おはよう、ハリ」
今日もジェードの黒い髪は、ハリーファが贈った櫛を使って、涼しげにまとめられている。しかし、相変わらず遅れ毛がこぼれて、どことなく幼く見えた。サライとは逆だ。
「さっき声をかけたんだけど、よく寝ていたみたいだったから」
一見元気そうに見えるジェードだったが、心の中は複雑な思いで曇っていた。
「まだ眠そうよ。顔を洗う? お水を持っていくわ」
「……昨夜、よく寝れなかった……」
昨夜眠れなかったのは、ジェードのせいだ。初めは、破いた聖典の事が気になって眠れなかったのだが、聖典を届けにジェードの部屋を訪れたあとは、ジェードの真白な肌やしどけない素足が頭から離れなかったのだ。
「ずっと起きてたの? ……もしかして、夜中、わたしの部屋に来た?」
応接に置いていたはずの聖典が自分の部屋に移動していた理由に気づいたようだ。恥ずかしいのか、最後は声が小さくなった。
「聖典を忘れていたから、届けに行ったんだが……」
ハリーファに寝姿を見られたことに、ジェードは少し頬を染めた。
「昨夜、悪かった。お前の聖典を……」
ハリーファが謝ると、ジェードはハリーファから目をそらした。
「……ううん、わたし、前からあの悪魔の絵が大嫌いだったの。でも、わたしは文字も読めないし、聖典を破ることなんて、やっぱり出来なくて……」
ジェードはそこで言葉を止めた。頭では理解できても、やはり聖典を破るという行為におびえているようだ。
「ハリに悪いことが起きないか怖いの……」
自分を殺す天命を持っているはずのジェードが、自分のことをこんなに気にかけてくれているのを感じると、温かくて不思議な気持ちになった。この感情に何と言う名前を付けたらよいのかハリーファにはわからなかった。
「ジェード、お前に文字を教えてやる。字が読めれば、絵のページは必要ないだろう?」
「文字を? 教えてくれるの?」
ジェードは黒い瞳を大きく開き、ハリーファの方を向いた。
ここ最近ハリーファは、物を贈る以外に、ジェードのためにしてやれることがないか考えていた。
「そうね。字が読めれば、挿絵はいらないし、まだ知らないところも自分で読めるようになるわ」
ぱっとジェードの顔が明るくなった。曇っていた心の中も少しずつ晴れてきたのを見て、ハリーファは安堵した。
「……わたし、ゆうべ、あの後、一人で考えてたの。あの聖典の絵なんだけど、ハリの言うとおり、正しく描かれていないんだわ」
そう言って、ジェードは心の中に黒い肌のアルフェラツの姿を思い描いていた。あの絵を描いた画家も、ジェードと同じように、本当の天使の姿は知らなかったのかもしれない。
ジェードが自分の行為の意味を理解してくれたことで、ハリーファは昨夜から抱えたままだった胸のつかえが下りた。
「天使様の絵だけじゃなくて、悪魔も黒山羊も間違いかもしれないわね」
気を取り直したジェードの言葉に、ハリーファの心臓が強く打った。ジェードの予想どおり、あの聖典は悪魔の姿も正しく描かれていない。ジェードがそのことに気づいたことに、ハリーファの顔が強張る。
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