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1章 BIG3
一幕C 『ビッグ3』
しおりを挟む超人特区東北東『下層第六区便利街』。
変わった店が目立つこのエリアでひっそりと佇む『占いの館フォルトゥナ』の裏口に、『最下層』への入り口のひとつは存在する。
蓋を閉じられた地下への階段は、超身体能力系でも筋力に特化した超人がいて初めて開けられる事から『力(ちから)の門』と呼ばれている。
舟渡とその娘に案内されたマスクの少年は、蓋の傍に立つ大男にぺこりと頭を下げた。 娘がにこやかに男に手を差し出す。
「この人は『超身体能力系筋力優秀』の超人で、『マッスル』さんって呼ばれてるの。力比べなら巨人さんにも負けないんだ」
「うっす」
無骨な男は軽く頭を下げて、蓋に向かう。軽くひょいと持ち上げられる蓋だが、人間は当然のこと、並の超人には持ち上げられない。
開かれた階段は、深い暗闇へと続いていた。
「んじゃ、入ろ」
「暗いけど大丈夫かな」
「大丈夫! 本当は懐中電灯とかがあるといいけど、『私の眼』があれば、暗闇だろうが霧の中だろうが関係なし! 『千里眼』こと千郷愛(ちさとあい)がガイドします!」
舟渡の娘が明るく自己紹介する様子を見て、少年は困ったように苦笑した。舟渡も見慣れない娘の様子に渋い表情を見せる。どうやらマスクの少年を、愛はすっかり気に入ってしまったらしい。
「悪いな。ウチの娘が妙に懐いちまったみたいで」
「いえ、なんかこう……慣れてますので」
「ほら! 入って入って!」
慣れている、という少年は、外の世界でも超人もしくは女の子に懐かれやすかったのだろうか。モテ自慢というよりは、暗闇に消え入る表情が本当に困った様子だったので、舟渡は素直に気の毒そうに苦笑した。
「電気のスイッチはっと……あった、発見!」
「あ、電気のスイッチ探すだけなんだ……暗い中でガイドがあっても手探りで降りるのは怖いから助かるけど」
パチンとスイッチを一押し、階段の電灯がつき、長い地下への道が露わになる。
「長いね」
「まぁ、下層とそう規模の変わらない地下空間だしね。結構歩くけど大丈夫?」
「うん」
愛の先導に従い、少年と舟渡が後に続く。
階段は底が見えない程に長い。
会話が始まるのも自然な流れであった。
「千郷さんのお住まいは最下層にあるんですか?」
「うん。お父さん稼ぎが悪いから。安いんだよ、最下層の家賃」
「いやぁ、面目ない……って、コラ愛。他所様の前でする話じゃねぇだろが」
あはは、と軽く笑いあった後、再び少年が尋ねる。
「治安とか、大丈夫なんですか? 自警団がどう、とか言ってましたけど」
「柄が悪い人が多いけど、下層とそう変わらないよ。なんたって『最下層自警団』と『ベア様』がいるからね」
「……ベア様?」
自警団はともかく、聞き慣れない単語に少年が眉をひそめた。
まぁ、分からないよね、と愛が付け加える。
「ベア様……『アルフベアー』様は、最下層の統治者なの。ちょっと変わり者だけど、愉快な人だよ。ベア様が仕切ってるから、一般人と『そっちの人』との住み分けはできてる感じかな。あとは、『最下層自警団』のお陰で治安はしっかり守られてます!」
「へえ、統治者。中層の『クレア』さんとか、上層の『マリー・ブラック』さんみたいな?」
「そうそう、よく知ってるね」
「多少は勉強してきたからね。まぁ、最下層なんて流石に分からなかったけど」
超人特区には全体の管理者、特区長の『超人アダム』の下に就く形で、各層に統治者が存在する。
上層の統治者『魔女マリー・ブラック』。下層の統治者『プロデューサークレア』。そして隠された最下層の統治者『アルフベアー』。
上層、下層の統治者は外部にも公開されているが、流石に最下層の統治者までは少年も知らなかったらしい。
ふうん、と普通に納得したように、少年は頷いた。
「それと、最下層自警団って、さっき言っていた……シルクちゃん? 愛さんのお友達がいるの?」
「へぇ、ちゃんと聞いてたんだ。よく覚えてたね。そうそう。シルクちゃんって凄い強い子がいて、私のクラスメートなんだけど、他にも凄い人がたくさんで、少し悪さすればたちまちボッコボコにしちゃうんだ」
「ボッコボコ……悪い事はできないね」
「やだなぁ。虫も殺せないような顔して」
少年が苦笑する。口元はマスクで隠れているものの、確かに悪事など働けないような顔だ。舟渡もうんうんと頷くと、少年は参ったな、と更に照れ臭そうに眼を細めて頭を掻いた。
「ところで、悪い人と言えば……知ってる? 『ビッグ3入区』の噂」
一瞬、細められた少年の目がすっと開き、すぐに細く閉じられた。
愛は気付く事なく、話を続ける。
「まぁ、知ってるか。日本を代表する超大物超人犯罪者三人。同時期に活動を初めたから、全員合わせて『ビッグ3』と呼ばれてるんだよね。日本国内でも話題になってるでしょ?」
「……うん。まぁね。超人特区でもやっぱり有名なの?」
「そりゃもう。世界規模で見てもとんでもない悪党らしいからね。何をやったかを一部しか公開できない程なんでしょ?」
指折り愛が名を連ねる。
「何もかも踏み潰す『ビッグフット』。犯行現場には巨大な足跡が残っていたとか。何もかも握り潰す『ビッグハンド』。こっちは巨大な手形を残してるって。そして、最も謎の多い『ビッグマウス』。彼の殺した死体は食い殺されたような歯形があるとか、はたまた耳が潰れる程の大声で人を殺すだとか、人間を丸呑みするほど大きな口を持ってるだとか、唯一実像が見えないんだよね」
「はは……よく知ってるね。大体、あっちでもそんな噂が流れてるよ」
娘の話に舟渡も呆れたように苦笑する。少年も同じく眼を細めたが、それは呆れているというよりかは、困っているかのようにも見えた。
時折少年は気になる素振りを見せる。舟渡も気付いていたが、その時の反応は顕著であった。そんな事に気付く事もなく、愛は楽しそうに「そっか」と笑い声をあげて、そういえば、と話を続けた。
「そういえば、『ビッグマウス』は、普段は口をマスクで隠してるとか」
びくりと舟渡が肩を弾ませ、同時に少年の目がゆっくりと開いた。
愛はくすりと笑いを堪えるように、少年の方を向き、口元を指差す。
「君もマスクしてるよね。もしかして……君が『ビッグマウス』だったりして」
ふと、時折見せた少年の怪しさが舟渡の脳裏によぎった。
人目を避けている。まるで、何かから逃れる様に。
そして、ビッグ3の話題に不思議な反応を見せている。
まさか、本当に?
少年の顔を舟渡が窺ったその時、少年はするりと口につけたマスクを解いた。
「……いや、ただ風邪気味なだけですよ」
そこにあるのは普通の口。露わになった少年の顔は、素朴な感じの、特段目立つ事のないものだった。
「あはは、だよね。耳元まで口が裂けてたらどうしようかと思った。そもそも、ビッグマウスが本当に言葉通りに大口なのかは分からないんだけどね」
「こんなぱっとしないガキが、そんな大層なものの訳ないですよ。でも、確かに時期が悪かったですね。日本でもビッグ3が超人特区に移るんじゃないかって話題になってましたし」
超人特区では、ビッグ3の来襲の噂が広がり、密かに警戒態勢が敷かれていた。日本でも同様なのだろうか?
ここ最近の日本の状況を知らない舟渡は、ふと思い出す。
灰色の髪の『足を洗った』奇妙な男。あれはまさか、警備の厳重な他の移動手段を避けた、ビッグ3だったのではないか?
この少年はともかく、あの男には雰囲気があった。
ゾッと背筋を凍らせて、舟渡は少年を一瞥した。
「あ、そろそろ底が見えてきたよ」
愛が下を指差す。舟渡には見えないが、そろそろ最下層に辿り着くらしい。
すぐに目を逸らしたせいで、はっきりと確認できなかったが、舟渡は少しだけ気になった。マスクを着け直す少年の口の端が、怪しくつり上がっているように見えたのだ。
咳一つしない少年、彼は本当に風邪を引いているのか?
――勘繰りすぎか。
舟渡はあまり考えないようにして、駆け出す娘に「やめろ転ぶぞ」と忠告した。
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