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1章 BIG3
一幕B 『超能力』
しおりを挟む人を超えた人、『超人』。
彼らは人を超えた身体能力を持ち、人を超えた頭脳を持ち、人智を超えた事象を引き起こす。しかし、それら全ての長所を持ち合わせている超人はまずいない。
頭脳は人並みで人を超えた身体能力を持つ者もいれば、身体能力は人並みで人を超えた頭脳だけを持つ者もいる。
超人と呼ばれる彼らは万能という訳ではなく、超常的な能力をひとつ持っている、というパターンが多い(中には複数の長所、もとい『超所』を持つ者もいる)。
超常的な超人の長所は、一般的に『超能力』と呼ばれる。
大きく分けて『超能力』は三タイプ。
身体能力に現れる『超身体能力系』。頭脳、処理能力に現れる『超頭脳系』。エスパー等、超常現象を引き起こす『超常現象系』。
例えば今、超人特区『第六区便利街』を駆ける男が持つのは、人間の限界を超えた走力。自転車は勿論、並の自動車であれば置いていくスピードを誇る彼の超能力は『超身体能力系脚力優良』。全体的に優れた身体能力に合わせて脚力が頭一つ飛び出て優れている、といった能力だ。彼は足の速さには自信があった。
「クソッ……! クソッ……! ありえねぇ、ありえねぇよ……!」
『ダッシュ』と呼ばれる男超人(超人はその超能力を象徴する通り名で呼ばれる事が多い)は、息を切らさず、しかし明らかな焦りを見せて走り続けていた。まるで何かから逃げるように。何かに怯えているように。
「何なんだあいつ何なんだあいつ……! どうして、どうして『あんなに多くの超能力』を扱えるんだよ……!」
超能力は超人一人に基本ひとつ。複数持つ者も稀にいるが、それは歴史的に見てもごく少数に限られる。例えば原初の超人にして、全超人のトップに立つ『超人(スーパーマン)アダム』。彼は万能の超身体能力に、万能の超頭脳を持ち、複数の超常現象系能力も持ち合わせるという正真正銘の『超人』だ。
そこまでできる超人などそうはいない。その筈なのだ。
しかし、『奴』は違った。
「己(おのれ)の小ささが身に染みて分かったかい?」
ダッシュが足を止め、黒い空を見上げる。
声は目の前から聞こえた。ダッシュの走力をもってしても、逃れられなかったのだ。
満月を背に、腕を広げて『宙に浮かぶ』のは、黒い学生服の少年だった。
「超人『ダッシュ』。君は多くの超人の子供を誘拐し、外部の組織に売っていたそうだね。自身よりも弱い存在は良い食い物になったかい?」
ふわりと地面に降り立ち、黒い少年は冷めた笑みを浮かべる。
中学生くらいにしか見えない少年、しかし威圧感だけは異様だった。
まるで心臓を握られているような、そんな緊張にダッシュはぶるりと身震いし、引き攣った笑みを浮かべた。
「な、なぁ。み、見逃してくれよ。確かに俺は賞金首だが、や、安物だぜ? な、何なら俺の賞金額の倍額払うよ! だから命だけは……」
「へぇ。君、賞金首なのか。何だ、つまらない」
少年がふうと深く溜め息をつく。
意外な一言。
最近、『仕事』の様子を監視カメラに捉えられ、賞金首として手配された超人、ダッシュ。彼はその賞金目当てに狙われているものと思っていた。
しかし、少年はそんなものを目的としていない。
「な、なら何で俺を追って……」
「驕れる者に天罰を」
少年が自信の額に手を添える。白い手袋に包まれた手の甲には、黒い十字架が刻まれていた。
「超人は質(たち)が悪い。下手に人より優れているから思い上がる。事実、君のように裁きから逃げ果せて、大手を振ってお天道様の下を闊歩している者もいる」
額に当てた白い手が、前へとゆっくり伸ばされる。
その『手』は危ない。ダッシュの本能がそう告げていた。
「だから僕が裁くのさ。ロクに驕れる者も裁けぬ天に代わって。賞金? 興味ないね。僕は驕れる者を裁きたいだけなのだから」
驕れる者に天罰を。
白い十字架の手袋。
ダッシュは思い出す。最近、超人特区内にて話題になっていたひとつの噂を。
「ビ、ビビビ『ビッグ3』……!」
「……気に食わないね。彼らとそうやって一括りにされるのは」
少年の反応からダッシュは確信する。
「ビッグ……ハンド……!」
少年がフフ、と不敵に笑う。
右手の手袋の指先を摘まみ、ゆっくりと手袋を外していく。
そして露わになった掌を、ダッシュへと向け、呟くように小さく告げる。
「潰れろ」
ズン、と重々しい音が超人特区に鳴り響く。
少年は、『巨大な手形』の中心で、潰れた男を一瞥すると、つまらなさそうに背を向けた。
それに合わせて、ぞろぞろと、夜の闇から怪しげな集団が姿を現す。
その中で、二人の男女がまず前に出て、少年の横に並び立った。
「お疲れ様ですボス。で、どうでした? 超人特区最初の狩りの感想は」
「中々にすばしっこい奴だったッスね。これはいい『予行演習』になったんじゃないッスか?」
「馬鹿を言うな」
ぎろりと男を睨み付け、少年は深く溜め息をつく。
「僕が裁くのは、法で裁けないような、手出しのできない悪党共だ。『情報屋』を後で呼べ。指名手配犯を紹介しろと誰が言った」
「まぁ、そう言わずに。これは腕鳴らしのようなもの。只今『情報屋』も忙しく駆け回っているので勘弁してやって下さい」
「それに、例の組織以外にも、ちょっと面白い情報を仕入れて探り入れてるみたいッスよ」
軽い口調の男がにひひ、と笑って、ぽつりと言った。
「『ビッグフット』」
瞬間、少年の目の色が変わる。こら、と女が男の頭を小突く。「あ痛」と男。
少年の前では禁句となっている『ビッグフット』という名。
それを聞いた瞬間に、周囲を取り巻く集団が一斉にざわめいた。
反応は様々。驚き慌てるようなもの。どういうことだど訝しむもの。興味深そうに声を弾ませるもの。
しかし、全ての者が共通して、中央を歩く少年の顔色を窺った。
「……いるのか? 此処に。超人特区に」
「それを今調査中って話ッス!」
白い手袋をはめ直し、手袋をはめ直した手でぺたりと顔を覆う少年。隠しきれない顔の端から、つり上がった口の端が覗いていた。
歪みに歪んだ満面の笑みが、ぞくりとその場にいる全員を震え上がらせた。
「……『情報屋』に伝えろ。急ぎ、突き止めろと。最優先でだ」
「了解ッス」
そして、少年は、人知れずぽつりと呟いた。
「……待ち兼ねたよ」
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