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1章 BIG3
一幕A 『超人特区』
しおりを挟むそれが現れたのは丁度百年前の事だった。
今や世界各国の教科書にも残る、歴史的事件。百年前に起きた未曾有の大災害。その時に『彼』はその身ひとつで現れた。
身体ひとつで災害を静め、多くの人々を救助し、世界の終わりとも思われた災害を止めた男。
姿形は人間そのもの。しかし明らかに人を超えた存在。
――人々は彼を畏敬の念を込めて『超人(スーパーマン)』と呼んだ。
誰もが知るその男、『超人アダム』。彼の出現を皮切りに、世界中には次々と『人ならざる人』が出現した。
人を『超』えた身体能力を誇る者。人智を『超』えた頭脳を見せる者。そして、『超』常的な現象を引き起こす者。
『人を超えた人』、彼らは『超人』と呼ばれ、新たなる人類として世界中に認知されるようになった。
超人アダムの出現から百年経った今、『超人』は尚も増え続けている。
「へぇ、そうなんだ」
「何すか旦那。今じゃ小学校で習う内容っすよ」
灰色の髪の男は、ぼりぼりと乱れた髪を掻きむしり、にへらと笑った。
手には『超人特区』のガイドブックが握られており、灰色の髪の男が開いていたのは『超人とは』という始めのページだ。
彼が『超人特区』の観光局で貰ったものであり、彼を先導している赤帽子の男はのガイドである。
「俺っち小学校とか行ってないからねぇ。それよりこの『超人特区』ってのが超人が暮らすのにいいって聞いてきたんだけども、どうやっていいんだい?」
「へぇ、移住希望の方? もしかしなくても超人さん?」
「超人も超人、超がつくほどの超人よ」
「超超人ってか。そいつは超凄いぜ旦那」
からからと笑いながら観光局の男は胸ポケットの手帳を取り出す。
灰色の髪の男の前を歩きながら、観光局は喋り始める。
「はてさてんじゃまっ、ご案内致しますかい。さらっと喋りますんで、復習は『超人特区観光ガイド』4ページの『超人特区とは』をご参照あれ。お話は観光局職員だけども、移住の案内もしっかり熟す、観光局のカンちゃんと呼んでおくんなまし」
「カンちゃんよろしくぅ」
灰色の男が拍手をすると、ごほんと咳払いをして観光局のカンちゃんが上を見上げた。
「まずは前に聳えるビルの山。ごちゃごちゃっとしているこの巨大な島、実は『人工島』なんでありまっす」
「え! 人が造ったのかよ!」
「良い反応でござんす。正確には『超人工島』、超人の手によって造られた巨大な人工島こそが、『超人特区』なのであります」
男が顔を上げると、聳えるビル等の建造物の数々。それは段々畑のように段を成し、コンクリートの山に見える。船からも見えた、海に浮かぶ灰色の山は、確かに無機質で、一面コンクリートの足場を踏み鳴らし、男はこの島が人工島である事に初めて気付いた。
「超人ってすげえ」
「すげえ人が超人ですから。『超人特区』は、まぁなんかバームクーヘンみたいな台座をデデンと四段詰んだような造りです」
カンちゃんの実に子供向けの説明を受けて、灰色の髪の男はああと頷いた。
訪れた時に利用した小舟から見た超人特区の形を思い返す。
「確かにソフトクリームみたいな形だったなぁ」
「ソフトクリーム、言い得て妙。この前案内したお客さんは、ちょっぴり下品な例えを出してたんで心配してたが杞憂だったようで」
「……うん」
「はいやめー。偉大な超人さんの作品ですよー」
パンと手を打ちカンちゃんが手を上げる。
「天辺に聳えますは、超人特区の『区長』、『原初の超人』、偉大なる『超人アダム』のいらっしゃる『中央庁』。少し下がって上二層は、ちょっぴりお金持ちであったり、生まれがいい由緒正しき超人集う『上層』。超人特区に暮らす超人としては、いずれはあそこに昇りたいと思う、憧れの場所だったり。ちなみに、土地代はざっとこんなもん。色目を出してマーキングとかしちゃってますが今のあたくしのお給金じゃ手も足も出ません」
懐からパンフレットを取り出して、カンちゃんが男に手渡す。蛍光ペンでマーキングされた住宅の値段や土地代に、男は文字通り目を丸くした。
「ひゃあ~、無理無理。俺っち一生こんな金稼げない」
「じゃあ『下層』で十分、ってか『下』とは言うけど中の上程度の価値があるのが下二層、通称『下層』。第一層は外部の窓口って事もあって、観光地メイン。第二層は主に居住区。コンビニ、デパート、スーパーなどなど、割と揃って充実してたりなんだり。詳しくはパンフのマップを見ておくんなまし」
灰色の髪の男はマップを開いて驚愕する。
「コ、コンビニが何種類もある!」
「そこですかい。もっと驚くべきところがあると思うんすけどねぇ」
カンちゃんが周囲に視線を泳がせる。
此処は『超人』の為に造られた場所、『超人特区』。
『超人アダム』に始まり、今も増え続けている『人を超えた人』、通称『超人』。人を超えた力を持つ彼らの為に築かれたのが、何処の国にも属さないこの『超人特区』である。
ここは世界各国多くの超人が集い暮らす『超人の国』でもあり、『超人の見本市』とも呼ばれ、多くの観光客が集まる観光地でもあるのだ。
その成り立ちには『超人アダム』の様々な伝説と、語れば長い経緯があるのだが、移住してきた灰色の髪の男にとってはどうでも良い事だろう。
彼らが歩くのは、中でも並の超人が暮らすエリアであり、観光地でもあり、外部からの入り口でもある『下層』。
その中の『下層第一区観光街』に今まさに彼らはいた。
ここは外部からの入り口であり、観光案内を行う各施設の集中するエリアで、ここで各種申請を済ませてから目的に合わせて各エリアに移動するのだ。
「それじゃ旦那。居住区で住処探しの前に、まずは手続き……」
住み慣れた観光局のカンちゃんでも目を惹かれるものの多い超人特区。ほんの少し物珍しい『超能力』を持つ超人の芸に気を取られたカンちゃんが視線を隣の男に戻すと、男は既に居なかった。
「あれ!? 旦那!」
慌てて周囲を見渡せば、たたたと小走りでどこかへ向かう灰色の髪の男の後ろ姿が見える。慌てて後を追い掛けて、カンちゃんは男を呼び止めた。
「旦那! ちょっと勝手に行ったら迷子に……!」
「うっひょー! 超人特区、すっげー!」
男は港でジャグリングを披露するピエロに駆け寄る。数十本の瓶をくるくると空中で操るピエロの周りには人集りができていた。『下層第三区サーカス街』からやってきた、『ジェスター・スーパーマン・サーカス』の客引きピエロは、第一区観光街でも名物である。人間離れした曲芸は、文字通り『人間離れ』の業。それはテクニックではなく、ピエロの持つ『超能力』が成すものである。
ピエロがケラケラと笑いながら、何かをペラペラと喋った。
男がおやと首を傾げた。
「あれ? 外人さん?」
「そりゃそうですよ旦那。世界各国多種多様な人種が集う超人特区ですぜ?」
「そんな! 俺っち、英語とか喋れない!」
「だーかーら! まずは申請をして……」
「あ! あっちにべっぴんさん発見!」
「だから話を聞きなさいって!」
まるで子供だ、と呆れ顔で足の速い灰色の男の後を追う。
あれ、本当に足が速い。男は小走りなのに、全力で走るカンちゃんが見る見る内に引き離されていく。身体能力系の『超能力』か、男の足は異常なまでに速かった。
男が見つけた「べっぴんさん」とやらは、どうやら人目につかない土産屋の影の方に入っていったようで、カンちゃんの見間違えでなければ二人の男を伴い消えていったようであった。
『観光局のカンちゃん』こと、『百科事典』夜見完太郎(よみかんたろう)は、『超頭脳系超記憶』の超人である。語学堪能のマルチリンガルの彼の記憶が正しければ、あの女は……
「旦那ストップ! そいつはマズ……!」
慌てて駆け込み飛び込んだ時にはもう遅い。
やっぱりそこに居たのは「あの女」。そして、女を路地裏に連れ込んだ二人組の柄の悪い男。しまった、逃げろ。カンちゃんが灰色の髪の男の手を引こうとした時、男は目を見開いて、ぽつりと零れ落ちたように言葉を紡いだ。
「……惚れた」
「……はい?」
その一目惚れが超人特区に訪れる大事件の始まりであった。
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