超人アンサンブル

五月蓬

文字の大きさ
17 / 17
1章 BIG3

四幕B 『手始め』

しおりを挟む


 観光街が派手に賑わう。
 普段も賑やかな観光街が今日は余計に騒がしい。
 日頃、『ジェスター・スーパーマン・サーカス』の客引きピエロを始め、外部からの観光客狙いの超人達がその超能力を披露する場に、超人特区でも良く知れた顔が今日は集まっている。
 派手にドラムを掻き鳴らすのは、最近デビューしたソロの女性ドラマー『6ビート』。傍らでこの世のものとは思えない美声で、しかしとても聞くに堪えない下品な歌詞を歌う女性シンガー『マーメイド』。無重力を漂うように軽やかなステップで踊る超人ダンサー『フリップフラップ』。
 超人特区の芸能界を牛耳る『クレアプロデュース』の最近売り出し中の芸能超人達。彼らの他にもかなり有名になってきた芸能超人達が集う。

「それにしても凄いですねぇ、うららちゃん」
「凄いですねぇ」
「君、『写真撮って貰えますか?』って聞かれて、『はい』と和やかに答えたら、まさか撮る方を頼まれるだなんて……アイドルのボケ方じゃないですよ」
「そっちですか!? ってか、ほっといて下さい!」

 超人特区ではそこそこ名の知れた『アイドル』である少女が、後ろに立つ赤と黒のストライプ柄スーツを着こなす初老の男を振り返った。

「流石は『そこそこ美少女』、『庶民派アイドル』都治うらら。下手な芸人より面白い」
「『庶民派アイドル』はいいけど『そこそこ美少女』はやめて下さい!」
「でも、美少女という程ではないし……」
「腹立つけどしっくりくるからやめて下さいって言ってるんですよ! って、そういう話じゃなく!」

 ばばっと手を振り話を切る。集団の弄られ役であるアイドルは、遙か先、ビルとビルの間を飛び回る男を眺めて感嘆の息を漏らした。

「『ビッグフット』。凄いですねぇ。人間があんなにぴょんぴょん飛べるんですね」
「人間は人間でも超人ですけどね。確かに凄いですねぇ。そりゃ、プロデューサーさんも我々を一気に動員するわけだ」
「そっちもびっくりですよ。私のような中堅アイドルまでならまだしも、『フォーカス』さんやら『スーパースター』さんまで動かすなんて」
「噂じゃあの『バカップル』も動いているらしいですよ」
「マジですか!?」
「『ビッグ3』のスカウト役ですかね。まぁ、今日はデートの日だから出勤遅れるそうですが」
「相変わらずだなぁ……」

 アイドルは一際人の視線を一際集める同僚を遠巻きに眺める。
 知名度や容姿、目立つ要素は数有れど、どこかそんな要素とは別の何かで人々を引きつける異質の超人。彼らはまるで空を飛び回る超人や、それを追い交戦する怪しい集団など始めから居ないものと思わせる程に、人々の視線を集めていた。
 彼らの目的は、超人特区に居る多数の『一般人』の目を引きつける事。今、超人特区で起こっている事件を覆い隠す事にある。
 その輪から完全に外れているアイドルの元にも、人が寄ってくる。

「あのー……写真良いですか?」
「はいはい。じゃあ、カメラ貸して下さい」
「え? あ、いえ! そうじゃなく! あの……都治うららちゃんですよね? 一緒に写真撮って下さい!」
「え? 私と? マジですか!?」
「おいアイドル」

 当人達もまるで何も事件など起きていないかのように、戯ける超人特区の華達。
 ファンとの写真撮影を、不慣れな引き攣った笑顔で熟した『庶民派アイドル』都治うららは、シャッターを切った赤黒ストライプスーツの男『超人マジシャン』オバマ・スプーフの元に戻り、再び飛び回る超人を見上げた。

「しかし、我々に連絡はありませんでしたが、どうやらプロデューサーの『懐刀』も動いているようです。『ビッグ3入区』は不穏なニュースでしたが……何事もなく騒ぎは収まりそうですね。願わくば、彼らと仕事を共にしたいものです」
「それはないんじゃないですか」

 スプーフの言葉にうららはさらりと答える。ネガティブというより、さも当然といったような口振りに、スプーフは意外そうにうららを見下ろした。
 
「何故?」
「ジュディ姐さんに聞きましたもん。結構な大騒ぎになる筈って」
「あの占い師の? プロデューサーに怒られません? 確か不仲だったと思うのですが」
「いや、私はプロデューサーの確執とか知りませんし。あの人、閑古鳥状態なのに占い的中率半端じゃないんで、度々相談に行ったりするんですよ」
「いやはや、流石は庶民派アイドル。顔が広い」
「褒めても変な声しか出ませんよ。ぐへぇ」
「そういうのいいから。そうやってすぐボケ挟むからそういう仕事ばっかり来るんですよ」
「え。そうだったんですか。それよりこの前のドッキリ酷くないですか!? 私、普通に死にかけたんですけど! あ、いや。そうじゃない。ジュディ姐さんの占いの話でした」

 うららがスプーフの耳元に口を寄せる。
 彼女が語る『ジュディ姉さん』は、プロデューサークレアの配下ならば殆どが知っているクレアと不仲な超人である。故にうららも流石に大っぴらに語る事は避ける。
 その辺りの話に寛容なスプーフは、好奇心に負けて耳を傾けた。

「ジュディ姐さんの話だと、ぶつかるみたい」
「ぶつかる?」

 ちらりとビッグフットの方をうららが伺い、ひそりと囁く。
 
「『ビッグフット』と『ビッグハンド』」

 スプーフが大きく二回瞬きをした。
 うららが横目でもう一度ビッグフットを窺った。
 ビルからビルへと飛び移り、踊るビッグフットが再びビルへと着地する。
 その時、空にぽつりと浮かぶ黒い影をうららは見た。
 今、唐突に現れたのか。それとも前からそこに居たのか。
 よくよく見れば黒い影は黒い学ランのようだった。
 黒い影が白い手を伸ばす。うららの人間よりは少し優秀だが、超人としては並程度の視力にも、かろうじて分かる影の笑み。
 
「あ」

 うららが声を発した瞬間、ビッグフットが着地したビルが『凹んだ』。
 まるで段ボール箱をべこりと潰したかのように、あっさりと凹んだ。
 そのギャグのような光景を見たうららは、三度瞬きしてから、ん? と首を傾げた。
 自然と口の端がつり上がる。たらりと冷たい汗が頬を伝う。
 見てはいけないものを見てしまった事に彼女が気付くのに、十秒かかった。
 
「……ビルって凹みましたっけ」
「え? うららちゃん急に何言って……」

 スプーフも釘付けのうららの視線の方を自然に向く。そして、うららと同じように数秒黙りこくった後に、うららの方をむき直した。うららも見返す。

「おい、そこ。何してる。ぼけっとしてないで仕事に……」
「ちょっとちょっとうららちゃんにおじいちゃん。サボってないで……」

 二人の異常に気付いた同僚達がぞろぞろと集まる。集まると更に周囲の同僚が気付き集まってくる。そして、ぽかんと向ける視線に気付いて、視線の先を追う。そうやって、ぞろぞろと集まった派手な集団が、次々と固まっていく。
 視線を奪っていたメインパフォーマー達も、少しずつその様子に気付いて手を、足を、口を止めていき、多くの視線が向く先に意識を奪われていく。

 プロデューサークレアの忠実な配下であるパフォーマー達。
 彼らを起用し、大きな問題を騒いで誤魔化す。
 クレアの目論見は成功一歩手前だった。
 しかし、彼はひとつの読み違いをしていた。

 彼らは良くも悪くも生粋のパフォーマーであった。

「ビ、ビ、ビ……」

 三回「ビ」とうららが呟く。
 そして、最後にすぅっと息を吸う。
 その息づかいを察したパフォーマー達からすれば、それは最早条件反射であった。
 
「ビッグハンドだーっ!」

 クレアプロデュースのパフォーマー達同時の、綺麗に声を揃えてのリアクション。
 それも、テレビ向けのオーバーリアクション。
 念入りに訓練を重ねたのリアクション芸には当然、意識を逸らされていた観客達もびくりと弾む様に視線を動かされた。

 宙に浮かぶ小柄な少年が、嬉々として腕を振り回す。
 
 それと同時にビルがまるで爪でひっかいたかのような五本線が刻まれていく。
 遠くに浮かぶ少年は、笑い声こそ届かないが、高らかに笑う様が見えた。
 ノリで叫んでしまった事に気付き、うららが口をばっと塞ぐ。

 ・・・(てんてんてん)と沈黙が続く。
 ビッグハンドが狂喜し叫び、ビッグフットの立つビルに急降下する。
 ビッグフットとビッグハンドが交錯する瞬間、視力に優れた超人は、確かに彼の口元が何かを叫んでいるのを見た。

 今度は完全にビルが『潰れる』。
 
 騒々しさに掻き消されていた超人の暴動による爆音が届いたのを皮切りに、更なる大騒動が幕を開く。

「う、うわああああああああああああ!」

 一人の男が上げた悲鳴と共に、色とりどりの声が咲き乱れた。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...