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食虫
しおりを挟む毎朝決まった時間に電車に乗っている。始業まで余裕があるからもう少し寝ていてもいいのだけれど、この時間に乗れるようアラームをかけている。
仕事先に向かうまでのこの時間が、私にとってはかけがえのないものであることは言うまでもない。
三号車の先頭、左手の端の座席に彼女はいつも座っている。彼女は、肩に当たる辺りで整えられた髪を少し壁から離すようにして座り、カバンをを膝の上で抱えている。その美しい髪は窓から差し込む朝日によって金色に輝き、短く整えられた爪は彼女を艶めかしく際立たせている。色白の肌に品のある唇が際立って見え、それはまるでいつか見たフェルメールの絵画を思い起こさせる。
私より少し背の高い彼女は、それでも決して電車の中で目立っているわけではない。むしろ朝のラッシュの中にとても自然に溶け込んでいる。ほかの乗客と同じスーツを着て、座席一人分にきちんと収まっている。
彼女を気にする人なんて、私のほかには誰もいないだろう。それは同じ色、同じ形の花の中で、私にしか見いだされない珠玉の一輪であって、私以外にその価値を理解できる人間なんて存在するはずがない。
彼女は私によって、彼女足りえるのだ。
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