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第1話 便器の妖怪
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「お殿様、どうされたんですか?」
酒を飲み、しゃっくりが止まらないワシに、酒を手酌する侍女が心配した顔色で覗き込む。
ワハハハ。宴じゃー、宴じゃああああああ。
目の前では、家臣たちが陽気に宴会芸を披露している。
秘技・熊の手上段の付き・円弧という掛け声とともに、ドタバタドタバタ畳の上を足踏みする音が聞こえる。
酔っぱらい演舞は陽気で楽しい。適当なことは、命取りになる戦場で、この宴会だけは、唯一、気が抜ける。。
家臣は、こちらを向いて叫ぶ。
「めでたいじゃありませんか。やっと、一国一城の主になったのですぞ。しかも、村の娘は、城にお持ち帰りし放題。これぞ、男子の夢ぞぉぉぉぉ」
言われている娘は、ボロボロな服を身に纏ったまま、家臣の手酌を行い、接待というの名のお触りも、されるがままになっていた。
家臣が居ないときに、相応の金貨を払っていることは、黙っておこう。。
頭がふらつく。
高くはないが、そこそこ綺麗な着物を着せた侍女がワシの顔色を心配する。
「大丈夫ですか?やっぱり、具合が悪いのでしょうか?」
「いやー、厠(かわや)じゃ厠(かわや)じゃ」
ワシは心配させまいと、侍女の心配を払い、すくっと立ち上がり、部屋を出るために障子貼りの扉を開ける。
宴会場を出たすぐの廊下を壁伝いに歩く。
はー、ふらふらする。
ワシは、真っ暗なので手さげ提灯を持ちながら、廊下の隅っこにある厠(かわや)に入る。
着物の帯を緩め、褌(ふんどし)を緩めて、小便をする。
はぁ。
お酒を飲んだあとに、すると、なんだか頭に血が昇ったようにフラフラする。
目元から脳天にかけて、見えない体内の熱が駆け巡る。
そんな、昇った血に反比例するように、ワシの小便は出てくる。
ビチャビチャ音がする。
小便器の入り口は真っ暗になった。底なし沼のようで、小便は、吸い込まれているようにすら感じる。
ずっと、鳴っていたビチャビチャという音が、段々奥行きのない音に変化する。
うん?
ワシは、自分が向けている便器の底に向かって、目を凝らす。
便器の底に何かいるような。。
翼を広げたコウモリが押し合い、しているのか?
小人みたいに、二人がじゃれ合っているようにも見える。
だんだん、耳に、声が入ってくる。
鮮明になってくる。
「ちょっと、押さないでよ」
ぎょっとする。今、たしかに聞こえた。
うん?
目を凝らしてみる。真っ暗な便器の底に。
ワシは立ち小便しながらも、便器の底に目を向けて、前傾姿勢になる。
何か、動いてる。
分かるぞ。分かるぞ。ワシは分かるぞ
だが、小便が止まらない。
あああ。早く、終われば、このよく分からぬ者の正体がわかるというのに。
気になる。。。。。。
しかし、ワシも便器の底に何か居るように感じるとは。
疲れが出ているのか。
「ちょっと、押さないでよ。うわあああ」
でも、確かに声が聞こえる。
洞窟の端から、声をかけられた時のよう。
うわぁ。
思わず、声が出た。
なにか人間の上半身が便器から出てきた。
うえええええ、びちゃびちゃ。
びちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃ
顔にかかる。
綺麗なお顔に。ご尊顔に。
うええええ
容赦なく注がれる小便。
「うわ、なに、うわ、臭っ」
綺麗なお顔は、小便という名の滝に打たれながらも、喋り始める。
うわわわ、なんだ。
一瞬のできごとに思考が止まっていた。
身体が遅れて、反応する。
ワシはたじろいで、ひっくり返る。
ああああ、お酒が飲みすぎて、止まらない。
ひっくり返りながらも、きれいに小便は円弧を描き、きれいな顔立ちの口元から、鼻頭、額、また鼻から、口元へと、なぞるように小便が舞を踊る。
そして、最後には、自分の着物にかかる。
うわわわ。
急いで、立ち上がり、残尿処理の為に、狭い個室の済に残りを放出する。
便器から、出てきた子にかけるわけにもいけないので、掃除は大変だが、これが正解だろう。
「うわっ、くっさ。最悪だ」
頭の後ろの方から、小便をかけてしまった相手の声が聞こえる。
ワシは、ふんどしを締め直して、気持ちばかり、表情を整え、急いで、振り返る。
うわうわ、
やっぱ、
さっきのは、嘘じゃなかった
酔いが一気に覚める。
目の前には、端正な顔立ちの女性。
額から、鬼の角が生えているのが気になる。
背中から、コウモリみたいな翼も生えているのも気になるが、
それよりももっと、気になることがある。
「べ、便器から、人が生えてる」
ワシは、女性に近づいて、観察する。
もしかして、あれを見ているのか。
この地域一帯を支配する、織田信長様にお会いしたときに、頂いた洋書に書いてあった。
たしか、、、
なんとかタウロス。
便器から、生えてる。ということは、
ベンキタウロス。
「べ、便器タウロスじゃ」
「な。私をあんな、野蛮なやつと一緒にするなぁぁぁ」
するなぁぁぁぁ。するなぁぁぁぁ。るなぁぁぁぁぁ。なぁぁぁぁぁ。
狭い個室の中を可愛らしい声が響く。
で、どうすれば、良いのじゃ。
わしは腕組みをして、便器タウロスの前に立つ。
「お前、私に臭い液かけておいて、何もないのか?」
便器タウロスは、口に入ったのか、ぺっぺと唾を吐いて嫌悪感を醸し出す。
「すまない。まさか、そなたが、便器タウロスだったとは、いつも、気づかず、便をしてしまい。すまなかった」
ワシは頭を下げる。
それは、不快だっただろうと。
「だから、便器タウロスじゃないっ、、て。まあいいか。腕、引っ張ってもらえるか?」
便器タウロスは私に綺麗な真っ白い手を差し出す。
どういうことだ。
便器は、備え付けであるのに。
私が困惑していると、便器タウロスが怒る。
「いいから、早く抜いてって」
「いや、だって。ここは備え付けの便器じゃ。きっと、そなたは引っ張られるだけで、痛い思いをするぞ」
ワシが真面目に、声をかけているのに、便器タウロスは笑い出す。
「大丈夫。世の中のタウロスは、ケンタでも、ベンキでも、着脱式だから」
「そ、そうなのか。」
ワシは、そう言われると、便器タウロスの腕を掴んで引っ張る。
便器タウロスは、勢い良く抜けて、勢いのまま、ワシの胸に飛び込んでくる。
ふっと髪の毛から、嗅いだことのない甘い香りと、小便の香りが入り交じる。
便器タウロスは、ちゃっかり、ワシの胸に顔を押し当てて、さっきの小便を拭っているようだった。
「ふぅ」
そんな言葉とともに、ワシより少し背の低い、美少女は顔を上げる。
気づけば、彼女には、尻尾も生えていたが、もう驚きの連続で、大して驚かなかった。
強いエネルギーを感知して、狙ってきた場所がこんな臭いところとは、思いもよらなかったけど、と便器タウロスは前置きを話してから、
ワシの目をじっと見つめて、こう言った。
「あなたには、世界の魔王になってもらうわ!」
「魔王?」
何を言っているのじゃ。こいつは。
すっぽ抜けて、偉そうに。。。。
魔王という言葉は、彼女の身につけている着物を見て、考えきれなくなる。
裾に切れ目が入って、肌が見え隠れしている。
足元も、膝のあたりの着物が透けていて、膝のあたりまで肌が見えている。
これは、、着物なのか。
ワシが思わず、口に出すと、彼女は、反応する。
「着物?なにそれ。違うよ。良いから、聞いてるの?魔王になってもらうの!」
うーん。。。
ワシは、外の風がビュウビュウ鳴っている音が耳に聞こえて、気になる。
寒いから、これ着たらどうじゃ。
ワシは着ている白い夜着を脱いで、彼女の肩にかけた。
彼女はありがとう。と言って、受け取ると、
「って、臭いなこれも!」
そう言われて、受け取った服をそのまま、突っぱね返される。
「いや、お主も十分、臭いぞ」
「あー。そうだった。最悪だぁ。」
彼女は、濡れた髪を触って、匂いを嗅いて、再確認をして、怪訝な顔つきになる。
「シャワー浴びたい」
「シャワーなんじゃそれは?」
「んー。じゃあ、温かいお湯浴びたい」
「お湯?うーん。今は、夜だから、火は使いたくないのぅ。水浴びでどうじゃ」
「死ぬわっ!!」
なんじゃ。こいつは。
急に便器から出てきて、優しくしてあげたら。逆に怒る。
楽しい宴の日なのに。。
なんなんじゃ。
というか、ほんとに、なんなんじゃ。
鬼の角に、しっぽに、コウモリの尻尾。
ワシは、夢でも見ているのか。
「はぁ」
ワシは、あきれて、ふんどしのまま、厠(かわや)を出る。
寒い。
酒が飲んで、しばらく経ったせいか、体が冷える。
とぼとぼ、冷たい廊下を歩く。
裸足で、地面が冷たく感じる。
障子からは、さっきまで、宴会をしていた場所から光が漏れている。
家臣たちの酔っ払う、楽しげな声も聞こえてくる。
変な体験をした。
ワシも年か。
ここまで、来るのに。時間をかけすぎた。
やっとのことで、一国一城。
築いた城は、山城で優雅の欠片もない。タダの要塞。
昔、共に暮らした、隣家の幼馴染も、成人の日に戦火に散り、
将来を約束した想い人も、運が悪く遭遇した盗賊にレイプされた上に、殺された。
もう、親父が死んだ歳に近づいた。
夢は道半ば。
まだまだ、やれるだろうか。好条件で、誰かの配下に下るか。
独立を貫くのか。
はぁ。
ため息をついたときに、後ろから、袖を掴まれる。
「助けてほしいの」
絞り出したような、か弱い声が、静かな廊下に染み渡る。
冷たい空気の中で響く声は、さきほどまで騒ぎ立てていた声が嘘かのように、静かに落ち着いていて澄んでいた。
「わかった」
ワシは、自らの魂に再び、誓うように答える。
「へ、」
彼女は、ワシの反応が意外だったようで、思わず、拍子抜けた様な返事をする。
「どこに、向かえば良い?」
ワシは、彼女の方を振り向いて、質問する。
なんだか、やる気が湧いてきた。
親父が生きていた寿命まで、あと数年。
やれるとこまで、やってやろう。
駄目だったら、幼馴染のお墓に帰るだけだ。
「えっと、私達の世界。異世界」
よし、わかった。
どこに行けばいい?
「さっきの便器!」
よし、わかった。
ワシは、宴の会場へ勢いよく戻る。
「お前ら、戦じゃ」
ワシは意気揚々と、障子をあけて、そう、高らかと宣言する。
「どうしたんですか、主。でも、なんだか、体調良くなられたみたいですね」
「ワシは異世界に行く。新たな、戦場ぞ。」
そう、あらたな戦場。
思わず、武者震いと、拳が震える。
やる気がみなぎる。
ワシは、急に便器で出会った、この年端もいかない、彼女を助けるために。もう一度、この命を賭ける。
「ワシは、この命を懸ける。お前らも、飲んだくれてないで、ワシについてこい」
「おおおおお」
ワシの掛け声に、家臣たちは呼応する。
「いくぞ。」
ワシはそう言うと、勢いのままに、宴会場にあった、護身用の短刀を手に取り、厠へ向かう。
もう、何も怖くなかった。
この先、何が起ころうとも、覚悟はできていた。
今なら、織田信長と一騎打ちする覚悟もある。
命を賭けろ。
拳を挙げろ。
ワシは、彼女が出てきた便器に、体を投げ入れる。
不思議と、決断をしてしまえば、かんたんだった。
体は、宙を浮くようにフワリと、感じたことない心地に包まれる。
「あああ。チョット待って、まだ説明が。。」
え。
ワシの意識が暗闇に沈む前に
便器タウロスの呼び止める声が聞こえた。
酒を飲み、しゃっくりが止まらないワシに、酒を手酌する侍女が心配した顔色で覗き込む。
ワハハハ。宴じゃー、宴じゃああああああ。
目の前では、家臣たちが陽気に宴会芸を披露している。
秘技・熊の手上段の付き・円弧という掛け声とともに、ドタバタドタバタ畳の上を足踏みする音が聞こえる。
酔っぱらい演舞は陽気で楽しい。適当なことは、命取りになる戦場で、この宴会だけは、唯一、気が抜ける。。
家臣は、こちらを向いて叫ぶ。
「めでたいじゃありませんか。やっと、一国一城の主になったのですぞ。しかも、村の娘は、城にお持ち帰りし放題。これぞ、男子の夢ぞぉぉぉぉ」
言われている娘は、ボロボロな服を身に纏ったまま、家臣の手酌を行い、接待というの名のお触りも、されるがままになっていた。
家臣が居ないときに、相応の金貨を払っていることは、黙っておこう。。
頭がふらつく。
高くはないが、そこそこ綺麗な着物を着せた侍女がワシの顔色を心配する。
「大丈夫ですか?やっぱり、具合が悪いのでしょうか?」
「いやー、厠(かわや)じゃ厠(かわや)じゃ」
ワシは心配させまいと、侍女の心配を払い、すくっと立ち上がり、部屋を出るために障子貼りの扉を開ける。
宴会場を出たすぐの廊下を壁伝いに歩く。
はー、ふらふらする。
ワシは、真っ暗なので手さげ提灯を持ちながら、廊下の隅っこにある厠(かわや)に入る。
着物の帯を緩め、褌(ふんどし)を緩めて、小便をする。
はぁ。
お酒を飲んだあとに、すると、なんだか頭に血が昇ったようにフラフラする。
目元から脳天にかけて、見えない体内の熱が駆け巡る。
そんな、昇った血に反比例するように、ワシの小便は出てくる。
ビチャビチャ音がする。
小便器の入り口は真っ暗になった。底なし沼のようで、小便は、吸い込まれているようにすら感じる。
ずっと、鳴っていたビチャビチャという音が、段々奥行きのない音に変化する。
うん?
ワシは、自分が向けている便器の底に向かって、目を凝らす。
便器の底に何かいるような。。
翼を広げたコウモリが押し合い、しているのか?
小人みたいに、二人がじゃれ合っているようにも見える。
だんだん、耳に、声が入ってくる。
鮮明になってくる。
「ちょっと、押さないでよ」
ぎょっとする。今、たしかに聞こえた。
うん?
目を凝らしてみる。真っ暗な便器の底に。
ワシは立ち小便しながらも、便器の底に目を向けて、前傾姿勢になる。
何か、動いてる。
分かるぞ。分かるぞ。ワシは分かるぞ
だが、小便が止まらない。
あああ。早く、終われば、このよく分からぬ者の正体がわかるというのに。
気になる。。。。。。
しかし、ワシも便器の底に何か居るように感じるとは。
疲れが出ているのか。
「ちょっと、押さないでよ。うわあああ」
でも、確かに声が聞こえる。
洞窟の端から、声をかけられた時のよう。
うわぁ。
思わず、声が出た。
なにか人間の上半身が便器から出てきた。
うえええええ、びちゃびちゃ。
びちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃ
顔にかかる。
綺麗なお顔に。ご尊顔に。
うええええ
容赦なく注がれる小便。
「うわ、なに、うわ、臭っ」
綺麗なお顔は、小便という名の滝に打たれながらも、喋り始める。
うわわわ、なんだ。
一瞬のできごとに思考が止まっていた。
身体が遅れて、反応する。
ワシはたじろいで、ひっくり返る。
ああああ、お酒が飲みすぎて、止まらない。
ひっくり返りながらも、きれいに小便は円弧を描き、きれいな顔立ちの口元から、鼻頭、額、また鼻から、口元へと、なぞるように小便が舞を踊る。
そして、最後には、自分の着物にかかる。
うわわわ。
急いで、立ち上がり、残尿処理の為に、狭い個室の済に残りを放出する。
便器から、出てきた子にかけるわけにもいけないので、掃除は大変だが、これが正解だろう。
「うわっ、くっさ。最悪だ」
頭の後ろの方から、小便をかけてしまった相手の声が聞こえる。
ワシは、ふんどしを締め直して、気持ちばかり、表情を整え、急いで、振り返る。
うわうわ、
やっぱ、
さっきのは、嘘じゃなかった
酔いが一気に覚める。
目の前には、端正な顔立ちの女性。
額から、鬼の角が生えているのが気になる。
背中から、コウモリみたいな翼も生えているのも気になるが、
それよりももっと、気になることがある。
「べ、便器から、人が生えてる」
ワシは、女性に近づいて、観察する。
もしかして、あれを見ているのか。
この地域一帯を支配する、織田信長様にお会いしたときに、頂いた洋書に書いてあった。
たしか、、、
なんとかタウロス。
便器から、生えてる。ということは、
ベンキタウロス。
「べ、便器タウロスじゃ」
「な。私をあんな、野蛮なやつと一緒にするなぁぁぁ」
するなぁぁぁぁ。するなぁぁぁぁ。るなぁぁぁぁぁ。なぁぁぁぁぁ。
狭い個室の中を可愛らしい声が響く。
で、どうすれば、良いのじゃ。
わしは腕組みをして、便器タウロスの前に立つ。
「お前、私に臭い液かけておいて、何もないのか?」
便器タウロスは、口に入ったのか、ぺっぺと唾を吐いて嫌悪感を醸し出す。
「すまない。まさか、そなたが、便器タウロスだったとは、いつも、気づかず、便をしてしまい。すまなかった」
ワシは頭を下げる。
それは、不快だっただろうと。
「だから、便器タウロスじゃないっ、、て。まあいいか。腕、引っ張ってもらえるか?」
便器タウロスは私に綺麗な真っ白い手を差し出す。
どういうことだ。
便器は、備え付けであるのに。
私が困惑していると、便器タウロスが怒る。
「いいから、早く抜いてって」
「いや、だって。ここは備え付けの便器じゃ。きっと、そなたは引っ張られるだけで、痛い思いをするぞ」
ワシが真面目に、声をかけているのに、便器タウロスは笑い出す。
「大丈夫。世の中のタウロスは、ケンタでも、ベンキでも、着脱式だから」
「そ、そうなのか。」
ワシは、そう言われると、便器タウロスの腕を掴んで引っ張る。
便器タウロスは、勢い良く抜けて、勢いのまま、ワシの胸に飛び込んでくる。
ふっと髪の毛から、嗅いだことのない甘い香りと、小便の香りが入り交じる。
便器タウロスは、ちゃっかり、ワシの胸に顔を押し当てて、さっきの小便を拭っているようだった。
「ふぅ」
そんな言葉とともに、ワシより少し背の低い、美少女は顔を上げる。
気づけば、彼女には、尻尾も生えていたが、もう驚きの連続で、大して驚かなかった。
強いエネルギーを感知して、狙ってきた場所がこんな臭いところとは、思いもよらなかったけど、と便器タウロスは前置きを話してから、
ワシの目をじっと見つめて、こう言った。
「あなたには、世界の魔王になってもらうわ!」
「魔王?」
何を言っているのじゃ。こいつは。
すっぽ抜けて、偉そうに。。。。
魔王という言葉は、彼女の身につけている着物を見て、考えきれなくなる。
裾に切れ目が入って、肌が見え隠れしている。
足元も、膝のあたりの着物が透けていて、膝のあたりまで肌が見えている。
これは、、着物なのか。
ワシが思わず、口に出すと、彼女は、反応する。
「着物?なにそれ。違うよ。良いから、聞いてるの?魔王になってもらうの!」
うーん。。。
ワシは、外の風がビュウビュウ鳴っている音が耳に聞こえて、気になる。
寒いから、これ着たらどうじゃ。
ワシは着ている白い夜着を脱いで、彼女の肩にかけた。
彼女はありがとう。と言って、受け取ると、
「って、臭いなこれも!」
そう言われて、受け取った服をそのまま、突っぱね返される。
「いや、お主も十分、臭いぞ」
「あー。そうだった。最悪だぁ。」
彼女は、濡れた髪を触って、匂いを嗅いて、再確認をして、怪訝な顔つきになる。
「シャワー浴びたい」
「シャワーなんじゃそれは?」
「んー。じゃあ、温かいお湯浴びたい」
「お湯?うーん。今は、夜だから、火は使いたくないのぅ。水浴びでどうじゃ」
「死ぬわっ!!」
なんじゃ。こいつは。
急に便器から出てきて、優しくしてあげたら。逆に怒る。
楽しい宴の日なのに。。
なんなんじゃ。
というか、ほんとに、なんなんじゃ。
鬼の角に、しっぽに、コウモリの尻尾。
ワシは、夢でも見ているのか。
「はぁ」
ワシは、あきれて、ふんどしのまま、厠(かわや)を出る。
寒い。
酒が飲んで、しばらく経ったせいか、体が冷える。
とぼとぼ、冷たい廊下を歩く。
裸足で、地面が冷たく感じる。
障子からは、さっきまで、宴会をしていた場所から光が漏れている。
家臣たちの酔っ払う、楽しげな声も聞こえてくる。
変な体験をした。
ワシも年か。
ここまで、来るのに。時間をかけすぎた。
やっとのことで、一国一城。
築いた城は、山城で優雅の欠片もない。タダの要塞。
昔、共に暮らした、隣家の幼馴染も、成人の日に戦火に散り、
将来を約束した想い人も、運が悪く遭遇した盗賊にレイプされた上に、殺された。
もう、親父が死んだ歳に近づいた。
夢は道半ば。
まだまだ、やれるだろうか。好条件で、誰かの配下に下るか。
独立を貫くのか。
はぁ。
ため息をついたときに、後ろから、袖を掴まれる。
「助けてほしいの」
絞り出したような、か弱い声が、静かな廊下に染み渡る。
冷たい空気の中で響く声は、さきほどまで騒ぎ立てていた声が嘘かのように、静かに落ち着いていて澄んでいた。
「わかった」
ワシは、自らの魂に再び、誓うように答える。
「へ、」
彼女は、ワシの反応が意外だったようで、思わず、拍子抜けた様な返事をする。
「どこに、向かえば良い?」
ワシは、彼女の方を振り向いて、質問する。
なんだか、やる気が湧いてきた。
親父が生きていた寿命まで、あと数年。
やれるとこまで、やってやろう。
駄目だったら、幼馴染のお墓に帰るだけだ。
「えっと、私達の世界。異世界」
よし、わかった。
どこに行けばいい?
「さっきの便器!」
よし、わかった。
ワシは、宴の会場へ勢いよく戻る。
「お前ら、戦じゃ」
ワシは意気揚々と、障子をあけて、そう、高らかと宣言する。
「どうしたんですか、主。でも、なんだか、体調良くなられたみたいですね」
「ワシは異世界に行く。新たな、戦場ぞ。」
そう、あらたな戦場。
思わず、武者震いと、拳が震える。
やる気がみなぎる。
ワシは、急に便器で出会った、この年端もいかない、彼女を助けるために。もう一度、この命を賭ける。
「ワシは、この命を懸ける。お前らも、飲んだくれてないで、ワシについてこい」
「おおおおお」
ワシの掛け声に、家臣たちは呼応する。
「いくぞ。」
ワシはそう言うと、勢いのままに、宴会場にあった、護身用の短刀を手に取り、厠へ向かう。
もう、何も怖くなかった。
この先、何が起ころうとも、覚悟はできていた。
今なら、織田信長と一騎打ちする覚悟もある。
命を賭けろ。
拳を挙げろ。
ワシは、彼女が出てきた便器に、体を投げ入れる。
不思議と、決断をしてしまえば、かんたんだった。
体は、宙を浮くようにフワリと、感じたことない心地に包まれる。
「あああ。チョット待って、まだ説明が。。」
え。
ワシの意識が暗闇に沈む前に
便器タウロスの呼び止める声が聞こえた。
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