毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第九章 《植物型》攻略編

第170話 ホラーゲーム

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「フリーデン。パウルさんからの命とはいえ、私に付き合って貰う必要はない」

 共同研究室を出てそのままエントランスに降り、ラボの外に向かう最中、モーズはフリーデンに「見送りはここまででいい」と伝えていた。
 しかしフリーデンは踵を返す事はしなかった。

「いいって、いいって。俺も休み貰ったようなもんだし、もう遊んじゃおうぜ~っ!」
「遊ぶ……。そういえば先々週、ウミヘビ達との飲み会でバーチャルゲーム大会をするという話が出ていたな」
「えっ!? 何だその愉快そうな企画!!」

 ゲームという話題にすかさず食い付くフリーデン。

「セレンに『遊びを覚えろ』というアドバイスを頂いた折りに出た案でな。ウミヘビ達と訓練場の卵型機器カプセルを使ったバーチャルゲームをしようと」
「やろうやろう! 今やろうぜ! レッツ、ネグラだ!」
「しかしニコチンの土産が未だに買えていないし、ペンタクロロには酒を奢って欲しいとせがまれているし、ネグラに行くのは少し躊躇してしまうな……。そもそも私はバーチャルゲームをプレイした経験がない」
「マジか~。じゃあ今日は俺と! ゲームしようぜ?」

 フリーデンは返事を待たずにはしゃいだ様子でモーズの手を握り、若干急かしながら、足早にラボの外て出る。
 そして2人は寄宿舎の上階にある遊技室へと向かった。

 ◇

 遊戯室にはビリヤード台やダーツの的、ボーリングの他、ネグラの訓練場にある物と同じ卵型機器カプセルが置かれていて、フリーデンはそれを用いてバーチャルゲームをしようと提案をしてくれた。
 遊戯室の卵型機器カプセルには、デフォルトでインストールされているゲームが幾つかあった。モーズと共に卵型機器カプセルの椅子に座ったフリーデンは、その内の1つを選択する。

 そのゲームは、街の至る所に潜みプレイヤーを見かけたら襲ってくるゾンビを残弾に限りのある拳銃で撃ちながら、街のどこかにあるという『至高の宝石』を探し出すという、ホラーアドベンチャーゲームだった。
 宝石の配置はランダムで運も絡み、なおかつプレイヤー同士の戦闘、つまりPVPありの争奪戦。しかもただ宝石を入手しただけでは終わらず、規定の場所に納めなければクリアとならない。
 宝石を探すのは他のプレイヤーに任せ、ゴール地点となる格納庫で待ち伏せするのも戦略のうち。
 しかし今回、プレイヤーとして参加しているのはモーズとフリーデンのみで、残りの参加者は全てAI精度の低いNPC。待っていても宝石はやって来ない。
 よってプレイヤーはマップの至る所にあるアイテムボックスを探し物資を補給しつつ、積極的に探索をする事が推奨されている、らしい。

 今回は2人でクリアしようと協力プレイモードを選択した後にフルダイブ処理を済まし、アメリカの夜の繁華街を模したステージ、そこのマップ端に当たるビルの壁や足元に鼠と虫が這う路地へ転送スポーンしたモーズとフリーデン。
 仮想空間とはいえ、あまり衛生的ではなく不快感を覚える場所だ。しかもあちらこちらからゾンビの呻き声が聞こえてうるさい。
 モーズはスポーン位置からさっさと進もうとする。だがフリーデンの足が止まっている事に気付き、彼の方を向いた。

「フリーデン? どうした、ゲームはもう始まっているぞ」
「モーズ悪い。俺リタイアするわ」
「開始早々に何故……!?」
「だって想像以上に夜のゾンビ街怖くってぇ……」
「災害現場では感染者を相手に死線を潜っているのに?」
「ゲームのゾンビは驚かせてくるのに全力じゃん! もう呻き声からして怖いわっ!!」
「ホラーゲームなのだから当然だろう」
「もっと平和的なゲームチョイスすりゃよかった……っ!」
「そうだ、これは君が選んだゲームだ。だから一度ぐらいクリアしろ。行くぞ」
「無慈悲っ!」

 フリーデンの腕を掴んでずるずる引き摺る形で路地から出るモーズ。
 大通りでは車が燃え、雑貨屋だか服屋だかのショーウィンドウが割られていて、あちらこちらにゾンビが徘徊する何とも荒廃した景色が広がっていた。
 2週間前に赴いた、アメリカ遠征を彷彿とさせる景色だ。

(ゲームだというのに菌床処分をしている気分になるな……。ともかく今は道を確保しなくては)

 隣でゾンビに慄いているフリーデンは放っておいて、モーズは初期装備であるピストルでショッピングモールに続く道に居たゾンビの頭を撃ち抜いてゆく。
 このステージはイージーモードなので、ゾンビはヘッドショットを一発撃ち込めば直ぐに倒れてくれた。これで安心安全に物資保管庫ショッピングモールへ向かえる。

「モーズこれプレイすんの初めてだよな……? 何でそんな小慣れているんだ……?」
「ゲーム開始前に大凡の攻略手順を教えてくれたのはフリーデンだろう? 私はその通りに動いているだけだが?」
「知っているのと実行できるのって別だと思うんだけどなぁ~」

 涙目になってモーズの後ろに隠れつつ、何だかんだピストルで援護をしてくれるフリーデン。
 今回使用しているゲームのアバターは、メイキングする手間を省く為、現実世界の容姿をそのまま投影させている。なので普段はフェイスマスクの下に隠れている、フリーデンの吊り目気味のやんちゃ顔がよく拝めた。
 年相応、より少し幼く感じるフリーデンの表情の多彩さに、モーズは珍しい物を見るようについちらちらと後ろを見てしまう。

「どうしたんだよ、モーズ。俺の顔になんか付いてる?」
「いいや。君の素顔を見るのは飲み会以来だからな、新鮮でつい」
「飲み会な~……。またやろうなぁ、バーチャル飲み会……」
「現実逃避をしてないか? いや、仮想空間を逃避しているのだから仮想逃避と言った方がいいか?」
「細かく言い直さなくていいぞ……。こんな所まで生真面目かよ……」

 そんな話をしながらショッピングモールへ辿り着いた2人は、時にゾンビから隠れて慎重に進み、時に大胆にゾンビの群れを銃撃によって突破しつつ、手堅く順調に探索をこなした。
 そうしてある程度、物資をかき集める事ができた2人はショッピングモールの家電量販店エリアで身を隠しつつ、装備の確認をする。

「ショットガンにライフルにマスケットにスナイパーライフルにマシンガンにグレネードランチャー……。これだけ揃えばステージのどの難所も攻略できるだろう。現実ならばこれだけの量の武器を持ち運ぶのは物理的にも重さ的にも無理だが、ウエストポーチ状のアイテムボックスなるものを使えば重さが加算されることもなく好きに出し入れできるとは、ゲームならではだな」
「な~前から思ってたんだけど、モーズって何か銃火器に詳しくねぇか? 扱い小慣れているし知識も変にあるし?」
「そうか? 軍医時代に教わった物しか覚えていないが……」
「フランスの軍人って銃火器のスペシャリストにされんの?」

 オーディオプレイヤーが並べられた陳列棚の陰で2人がそんな雑談を交わしていると、
 パァンッ!
 2人の間を縫うように、鉛玉が一発、棚を突き抜けて通り抜けていった。

「じゅ、銃撃……っ!?」
「フリーデン、伏せろっ!!」

 イージーモードのNPCにプレイヤーを襲うプログラミングはされていないはず、と驚いて固まってしまったフリーデンに向かって、モーズは咄嗟に覆い被さり彼を床に押さえ付けると、極限まで姿勢を低くした。
 ドパパパパパッ!
 直後、鉛玉の雨が陳列棚を蜂の巣にし、並べられていたオーディオが砕けて割れる。それらの破片がモーズ背の中に落ちてはきたが、仮想空間なので怪我も痛みもなく、またステージの装飾にダメージ判定は入らないので無事だった。あくまでこれは演出だ。
 銃撃が落ち着いた所でモーズはそろりと起き上がり、穴だらけの陳列棚の隙間から、その向こう側に立つ自分達以外のプレイヤーの姿を確認する。

「なんやぁ、外してしもたか」

 家電量販店の外、吹き抜けとなっている廊下エリアに仁王立つそのプレイヤーは、青い髪をたなびかせた、シアンであった。
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