毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
233 / 600
第十一章 キノコの国のアリス編

番外編 タロット占い

しおりを挟む
 この番外編は、琴葉 刀火著作
『Web小説の主人公、占ってみた! ~波乱万丈です! タロットで紹介する主人公とその物語~』https://kakuyomu.jp/works/16818093077936178172
 にて、主人公であるモーズを占って貰った結果を元に執筆したお話です。
 占いの詳細はリンク先にあるので、よかったら先にリンク先を読んでね。


 ◇

 西暦2320年、5月。早朝。
 パラス国のエールコレ街道沿いに建てられたアパート、その中の210号室。
 そこからフェイスマスクで顔を覆った若い医師、モーズが外へ出る。
 向かう先は勤務先である感染病棟だ。

(最近、トーマスさんの来院頻度が下がってきている。そろそろ入院の勧めと……安楽死とコールドスリープの件を、話さなくてはならないというのに。しかし私もまだ、可能性を諦めたくない。どうにか手を考えなくては)

 彼の近頃の悩みは、仕事の忙しさを理由に来院を渋っている自身の担当患者、トーマスである。
 彼の珊瑚症の進行具合は酷く、ステージ4に近い。次に来院した時には入院を勧めざるを得ない。彼もそれを薄々わかっているから病棟に来ないのかもしれない。
 しかし来院をしなくとも、治療経過を示した『自分は正気である』という証明たる診断書の更新を怠れば、いずれ行政から強制措置が取られる。
 よくて拘束、悪くて射殺。その後は焼却処分。
 それが嫌ならば、近い内に来院するはず。

(先週、オフィウクス・ラボが製薬した新薬の発表があった。その薬の投薬を検討するか。だがパラス感染病棟うちが入手できるのはいつ頃……)
「お兄さん、そこのお兄さん」

 頭の中でぐるぐると思考を巡らせながら歩いていると、不意に声が聞こえてきて、足を止める。若い女性の声だ。
 一体どこからとモーズが辺りを見回してみると、ビルとビルの間、狭い路地を塞ぐように置かれた黒いテーブルの奥に、ローブを纏った女性が座っている。
 銀の刺繍が施された宵闇色のフェイスベールを付け、浮世離れした神秘的な装いをした彼女の手には、タロットカード。
 占い師だと、モーズは直ぐに察する事ができた。

「何だろうか? すまないが、私はこれから仕事で……」
「お兄さん、囚われているものがあるね? ずっとずっと昔に、出会ったものに。けれどそれが、貴方の原動力になっている」

 告げられた占い師の言葉に、モーズの肩がぎくりと強張る。
 ずっと昔に出会った、囚われているもの。原動力。
 脳裏に浮かぶのは、昔馴染みのフランチェスコだ。

「思い当たる所、あったかい?」

 そう言って、占い師は逆さまのカードを見せてきた。そこに大きく描かれているのは、甲冑を着込み白馬に跨った――骸。
 死神デスのカード。

「一枚目に出るカードは人の根本、問題の原因、過去の出来事を示していてね」
「……私に死相でも、出ていると?」
「死神という名が付いてはいるが、このカードの持つ意味は『死』そのものではないんだ。正位置なら『終わり』を暗示する。反対に、今回出た逆位置は『だらだらと続く、諦らめきれない、長く続く苦しみ』を――」
「私は、占いを頼んだ記憶は、ないのだが」

 内心、動揺しながらも、モーズは勝手に占いの結果を語る彼女の言葉を遮る。

「お代はいらないよ。ただあまりにも面白い結果が出たから、伝えたくなってしまってね」
「面白いと言われてもだな、それを聞く義理は……」
「二枚目はこいつだ。カップの2」

 モーズを無視し、占い師は次のカードを見せてくる。
 描かれているのは各々カップを持って向き合う男性と女性。その2人の間には、木の枝に絡まる2匹の蛇がいる。
 蛇。
 咄嗟に、蛇遣い座オフィウクスが思い浮かんだ。

「二枚目は現在か、間もなく起きる出来事などが示される」
「……。いや、まさか、そんな事……」

 つい先程、思考していたオフィウクス・ラボ。珊瑚症の研究に特化した研究所。そこへの入所はモーズが目指している所だが、ラボは機密だらけの特殊な組織。
 具体的な入所方法も不明で、感染病棟勤務一年にも満たないただの若造が、すんなり入れるとは思えない。

カップの2は『相棒、パートナー』を示すカードでね。恋愛に関係する事が多い」

 占い師の解説からしても、ぬか喜びだとわかる。仕事や転職に関するカードではなく、恋愛に関するカードとなれば、ラボは無関係だろう。
 そしてモーズは仕事と研究に忙殺され、恋人を作る暇などない。このカードとは縁が薄いように思えた。

(所詮は占い。として一線を引き、下手に心酔せず、背中を押して貰う程度に留めておく方が健全……)
「けど、仕事などの相棒も指す事があるよ」
「……。相棒……」
「きっと近い内に、貴方を手助けしてくれる人が現れる。またその人にとっても、貴方は大切な人物となる」

 フランチェスコの行方を探し各国を転々としてきたモーズに、相棒などできる気がしない。
 そもそもモーズに残された時間は、あと僅か。その短い時間で果たして関係を深められるのか、甚だ疑問であった。
 やはり自分はカップの2のカードとは縁が薄い。モーズはそう結論付けた。

「このカード、医師である貴方にぴったりだよ。医療の象徴である『ヘルメスの杖』が描かれているし、杖に巻き付いた2匹の蛇はまるで……」
「そろそろ、いいだろうか? 確かに面白い話だったが、仕事の時間が差し迫っていてね」
「あぁっ! もう少しだけ付き合っておくれ。これで最後だ」

 カップの2のカードを手に、興奮気味に話す占い師の前から立ち去ろうとしたモーズであったが、どうしてもと引き留められてしまい、最後のカードを見せられた。
 正位置の皇帝エンペラー
 名の通り、王冠を被り、玉座に腰を下ろした男性が描かれたカードだ。

「三枚目に出たカードは未来の出来事を示す。今後の参考にしておくれ」
「そうか」
「意味は決断力、行動力、実行力、我が道を行く。そして、英雄」
「『英雄』……」

 自分に行動力や実行力があるのは、モーズも多少は自覚している。
 珊瑚症の治療薬を見付ける。フランチェスコを探し出す。それらを達成するには、立ち止まっている時間などないからだ。
 しかし最後に告げられた『英雄』は何だか自分らしくない。あまりに仰々しい。

(タロットカードには多くの意味が込められているのだし、全てを自分の結果として当て嵌めて考える事はないか)
「三枚目にこのカードが出ている貴方は、きっととてつもなく大きなことを成すだろうね。ひょっとすると、『英雄』なんて呼ばれるかも」
「私が? まさか」

 自分から最も程遠い。と思っていた意味をピンポイントでピックアップしてきた占い師に、モーズは思わず失笑してしまう。

「確かに私は私にできる事を成して行きたいとは考えているが、英雄だなんて。そんな柄ではないな」
「そうかい? この皇帝エンペラーにはある英雄の怪物退治の物語が組み込まれているんだ。不死殺しの鎌と、戦女神から与えられた防具で武装し、不死の怪物を打ち取った英雄のね」
「怪物退治? しかも不死の? 神話の出来事か。ますます私らしくない」
「ぴったりだよ」
 
 そう言って、占い師は目を細め不敵に笑った。
 空想ファンタジーに浸る事なく勉学に打ち込んできたモーズに神話を当て嵌められても、困惑する他ないが。

「そう思うに至った理由はわからないが……いい息抜きにはなったな。折角だ、払おうか」
「だからお代はいらないよ。ほら、お兄さんお仕事があるんだろう? 行った行った」
「えぇ……。話を聞かせるだけ聞かせて追い払うとは……」

 占いを伝え終えた占い師は手をシッシッと払うジェスチャーをしてきて、モーズを遠去けにかかった。
 先に引き留めたのは占い師だというのに、何だか理不尽である。
 釈然としない思いを抱きつつ、始業時間が迫っているのは事実なので、モーズは彼女に軽く別れを告げてから再び病棟へ向け歩き出す。

(……あれ。そういえば、私は彼女に自分の職業を伝えていただろうか?)

 自分が医師である事は当たり前過ぎてスルーしてしまっていたが、通勤時のモーズの服装はスーツ。医者と見た目でわかる要素はない。感染対策用のフェイスマスクから、感染意識が高い職業だと思ったのだろうか。という考えも浮かんだが、フェイスマスクだけで医者と断言はできまい。
 しかし彼女は自信満々だったと言うか、当然の事のようにモーズを『医師』だと認識していた。もしかしたらフェイスベールの下は、モーズが診たことのある患者の顔をしていたのかもしれない。
 どれもこれも憶測の域を出ないが。

(考えていても仕方がない。さぁ、仕事だ。切り替えなければ)





「あぁ、本当にぴったりなカードが出てくれた」

 背中が遠退いていくモーズを一瞥した後、占い師は再び手元のカードへ視線を移す。

「病という終われない苦しみに」

 一枚目、逆位置の死神デス

「共に『珊瑚怪物』と戦う、ウミヘビとクスシヘビを思い起こさせる2匹の蛇に」

 二枚目、正位置のカップの2。

「後に王様となった英雄ペルセウス」

 三枚目、正位置の皇帝エンペラー

「……またロシアでは、『皇帝の宝石』と呼ばれている宝石がある。日中の陽の元ではエメラルドのように、夜の明かりの元ではルビーのように、光によって色が変わる宝石。その宝石は、発見された当時の皇帝の名前を付けられた……」

 ――アレキサンドライト――

「果たして彼は『英雄の医師』となるのか、『皇帝の石』となってしまうのか。はたまた未だ占いには示されない第三の道を歩むのか……。楽しみだねぇ、とても」

 くつくつと喉を鳴らし、ほくそ笑む占い師。
 その次の瞬間には、彼女は路地裏から姿を消していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...