毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十四章 煙草の灰

第302話 帰国

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「長話やったねぇ。お茶飲む?」
「あぁ、ありがとう」

 マイクが談話室を退室した後。彼と入れ替わるように入室してきた柴三郎が、モーズにパックのお茶を差し出してくれた。
 受け取ったお茶をストローを用いて飲んだモーズは、「はぁ~……」と長く思い溜め息を吐き、ソファの背凭れに背中を沈ませてしまう。

「そぎゃん溜め息ばついて。幸せが逃ぐるばい」
「実は、焦りから突拍子もない事を彼に言ってしまってな……。クスシ生命終わったかもしれない……」
「なんや、なんや。喧嘩でん売った?」
「そう捉えられてもおかしくない発言をした」
「がっはははは!」

 モーズの物騒とも取れる発言に、柴三郎は手を叩いて豪快に笑った。

「ぬしも肝っ玉座っとるなぁ!」
「勢いで口に出してしまったというだけで、深く考えていた訳では……」
「ま。ラボから追い出されたら、わいがぬしを拾うちゃるばい。心配せんで」
「それは心強い。ええと確か、捨てる神あれば、という奴だったか?」
「おっ、貴方をあたば拾ゆればわいも神様か! そらよか! いつでんおいで!」
「ははは。……あ」

 少し緊張が解れた所で、モーズはとある事を失念していたのを思い出す。

「しまった。世界を跨ぐ国連警察と話せていたというのに、フランチェスコの事を訊くのを忘れていた……」
「フランチェスコ?」
「私の昔馴染みだ。行方不明のな」

 興味を持ってくれた柴三郎に向け、モーズは腕時計型電子機器を操作すると、セレンが描いてくれたフランチェスコの絵をホログラム投影する。
 柴三郎はその絵をソファの側まで来てまじまじと観察してくれたが、見覚えはなかったようで首を横に振られた。

「初めて見る顔やね」
「そうか。トルコに居たという話は聞けたのだが、それも3年前の話。私と同じくらい珊瑚症のステージが進んでいると思われるのに、一体どこに居るのやら」
「そら心配やねぇ。それじゃ、わいん方でなんかわかったら連絡するばい」
「ありがとう、柴三郎」
「よかよか。それよりモーズは病み上がりなんやけん、もう寝た方がよか。病室行こか」
「えっ」

 そこでモーズは柴三郎にぐいと腕を引っ張られて、ソファから立ち上がらされ、そのまま談話室の外へ連れ出されてしまう。

「も、もう熱は下がっている! 休むとしても寮の部屋で充分……っ!」
「昨日、体温40度超えとった人間が何言いよるったい。ぶり返すかもしれんし、病室で寝れ。そもそも、わいが来たんそん為やし」

 第一、柴三郎は患者となったモーズに外出許可を出していない。にも関わらず今朝の時点で病室から姿を消し、しかも病棟のレンタカーを借り出掛けていたのだ。態度には出ていないが内心、怒り心頭である。
 本当はレンタカーを返しに来た際に病室へ連行するつもりだったのだが、「取り調べをしたい」というマイクの要望で談話室を貸す事となり、先延ばしになってしまった。

「わ、私にはウミヘビ達を見なくてはいけない役目があってだな……!」
「ウミヘビ達は佐八郎と潔が積極的に面倒みてくれとるけんね~。ぬしゃ、寝れ」

 そうしてモーズは半ば引きずられる形で病室に逆戻りし、柴三郎監視の元がっつり休息を取らされたのだった。

 ◇

 翌日。
 モーズと青洲の体調が回復し(柴三郎はまだ入院させたがっていたが)、日本を発つ時がやってきた。
 感染病棟所有の滑走路には既にメンテナンス済みの飛行機が用意され、コックピットにはいつでも離陸できるようヒドラジンが座っている。
 あとはモーズ達が搭乗するだけだ。

「またいつでも遊びに来てくださいね~っ!」
「次は人生ゲームやりましょうね~っ!」
「ぬしらウミヘビと何ばしよったと?」

 見送りにきた佐八郎と潔、そして柴三郎に、モーズは深々と頭を下げる。

「大変、世話になった。この礼はいつか必ず返そう」
「医者が患者ん面倒診るんは当たり前やろう。恩返しばしよごたるとなら、要望は一つ。無茶ばしなすな」
「うっ。善処する……」
「顔こっち向けて言おか?」

 顔を逸らして話すモーズに、容赦なく突っ込む柴三郎。
 そのモーズの隣に立つ青洲には佐八郎と潔が詰め寄り、一方的に約束を取り付けている。

「青洲先生! 青洲先生とも次お会いした時は沢山お話したいです!」
「はいはーい! 自分も勉強させて貰いたいです! 次こそ都合付けて特殊学会行きますんでっ! 何卒っ!」
「次、次か……」

 青洲は2年前を最後に、特殊学会には参加していない。次に開かれる特殊学会にも足を運ぶつもりはなかった。
 一昨日までは。

「……考えておく」
「やった~っ!」
「言質取りましたからね先生っ!」
「こらこら、あまり青洲先生を困らすな」

 柴三郎は佐八郎と潔を青洲の前から下がらせ、無茶な要望を言わないよう嗜める。
 院長である柴三郎の前でも言いたいことを言えている。普段から風通しのよい空気が作られているとわかる。

(小生が勤務していた頃とは、随分と雰囲気が違う……)

 患者として入院したのもあって、青洲はそれを肌で感じていた。
 13年前は今ほど感染が落ち着いていなかったのもあるが、昔の院内は常に切迫した空気が流れ、医師も看護師もひりついていたものだ。しかし今の病棟は医師も看護師も、何なら患者までも明るく活発に過ごしていた。
 寮に大浴場を増設したのは柴三郎の案。という話からしても、今の雰囲気に変えていったのは間違いなく彼だろう。

 若いのに頑張っている。そう思った青洲は、何の気なしに柴三郎の頭をくしゃりと軽く撫でた後、飛行機の階段の方へ足を向けた。

「では、行くか。モーズ」
「はい、青洲さん」

 2人はウミヘビ達を連れ飛行機へ搭乗。そして危なげなく滑走路から離陸し、日本の地から飛び立っていった。

「さようなら~っ!」
「またいつか~っ!」

 佐八郎と潔は飛行機の姿が見えなくなるその時まで、大きく手を振って見送る。
 飛行機が夏の空、入道雲の先へ姿を消してしまった辺りでようやく2人は手を下ろし、病棟に戻ろうとして……柴三郎が硬直している事に気が付いた。
 実家では長男、現在は院長、更には西洋人に劣らぬ高身長という条件が合わさった柴三郎。彼は子供扱いされる事に、慣れていなかった。

「院長? 柴三郎院長~?」
「院長固まってる! レアだ! 写真写真っ!」
「くだらんことしよらんで仕事に戻らんかっ!!」

 が、流石に部下2人に携帯端末のカメラを向けられたら正気に戻り、怒鳴り散らしながらその場から解散させたのだった。
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