毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
329 / 600
第十五章 平和が終わる日

第320話 地獄の入り口

しおりを挟む
 クスシの寄宿舎2階、フリーデンの自室。
 その中に駆け込んだフリーデンは作業机に飛び付くと、パソコンを立ち上げ、同時にホログラム画面を複数、部屋の中に投影する。
 次いでここ数日のペガサス教団に関するニュースを片端から検索した。

「ペガサス教団。アパタイト。洗礼名。ステージ6。《ウロボロス》。動く死体」

 そこに今までの調査で判明している結果を継ぎ接ぎし、アパタイトと名乗るペガサス教団の女性と繋ぎ合わせる。
 ガリ。作業机の木製板に、フリーデンは爪を立てた。次いでミシミシと軋んだ音が聞こえてきそうな程、奥歯を噛み締めたが、深く深く深呼吸をする事によってどうにか気持ちを落ち着かせる。
 そして落ち着いている内にと、フリーデンは携帯端末を手に取ると通信アプリを起動し、クロールへ、連絡を取った。

「クロール、今ちょっと話いいか?」
『ええ! 勿論!』

 フリーデンからの着信に直ぐに出たクロールは、嬉々とした声音で呼び掛けに答える。

「なぁクロール。お前、前にさ、パラチオンとの戦闘の報酬で『遠征の同行』を希望してたよな?」
『はい! もしかして遠征の予定ができたのですか? 俺はいつでもお供できますよ!』
「なぁ、その遠征さ。……帰って来れなくなっても、いいか?」

 帰って来られない。
 ウミヘビがここ人工島アバトンに戻れないと言う事は、死を意味するも同じである。
 ウミヘビの生活、それどころか命が保証されているのは、人工島アバトンの中だけなのだから。

『えぇ、えぇ! 俺は地獄の底までお供しますよ。フリーデン先生』

 だがそれでもクロールは一も二もなく承諾し、リスクしかない提案の全てを、受け入れた。

 ◇

 太陽が海へ沈み、すっかり暗くなった夜。
 寄宿舎の自室へ戻ったモーズは、慌てた様子でシミュレーションルームを出たまま戻ってこなかった、フリーデンの事が気になっていた。

(いつになく落ち着かない様子だった。明日、話を聞けるだろうか……)

 ベッドの上に腰をおろし、ひとまず今日は休もうと白衣を脱ぎかけたその時、
 ジリリリリッ!
 スピーカーから部屋中に、警報が鳴り響いた。

『ウミヘビが制限区域から脱走いたしました! ウミヘビが制限区域から脱走いたしました! 繰り返します、ウミヘビが制限区域から……!』

 そのまま機械音声が放送され、ウミヘビが規則を破り定められた区域から逃げ出した事を伝えてくる。

「ウミヘビが、制限区域の外に……?」

 燐が飛行機に乗り込み、密航した際も今のように警報が鳴り響いたのだろうか。なんて考えながらモーズは白衣のポケットから携帯端末を取り出し、規則を破ったウミヘビが誰なのか確認をする。

「クロール!?」

 端末には「クロールが許可なくネグラの外へ出た」という旨の通知が届いていて、モーズはぎょっとした。
 クロールはウミヘビの中でも乱暴者で、トラブルを起こしがち、というのがラボの見解で、制限区域ことネグラの外へ出る事は基本的に許されていない。
 また、彼は腐食性の毒素を持っている。衝動のまま破壊行動を取られたら大変である。モーズは自室を飛び出し、フリーデンが使う隣室のインターホンを鳴らした。

「フリーデン! クロールが外に出てしまったと言う警報が出ている! 彼は君を慕っているんだ、君なら連れ戻せる! フリーデン、フリーデン……っ!」

 クロールはフリーデンを先生と呼び慕い、フリーデンの言葉ならば従順に従う。
 フリーデンさえ力を貸してくれたら、この騒動は直ぐに収まるはずだ。

「……フリーデン?」

 そう思っていたのに、フリーデンの応答はなかった。平素ならばこの時間は部屋で休んでいるというのに、とモーズはいつもと違う雰囲気に戸惑いつつ、携帯端末を手にしフリーデンに通話をかけようとした。
 が、その前にフリッツから連絡が飛んできた。

『モーズくん! フリーデンくんは部屋にいるかい!?』

 通話に出た途端、フリッツの非常に焦った声がモーズの耳に叩き込まれる。
 ただならぬ気配に、モーズは直ぐに緊急解錠をしフリーデンの部屋の中へ駆け込んだ。
 だが部屋の中には人一人おらず、家主であるフリーデンの姿は影も形もなかった。

「フリッツ、フリーデンがいない……!」
『いけない! クロールを連れ出したのはフリーデンくんだ! しかも車を使って島外に出た! 直ぐに追わないと!』
「フリーデンが……!? 何故だ、何故いきなりそんな事を……っ!」
『わからない! でも無許可でウミヘビを連れ出すのは規則違反中の規則違反! しかもよりによって、行動範囲が厳重に定められているクロールくんだなんて……! そんな事をしたら、クロールくんが廃棄対象になってもおかしくない! フリーデンくん自身だって、厳罰を避けられない!』

 通話越しに聞こえるフリッツの危機迫った声は、

『ウミヘビの機密を守る為にも、口封じを、される可能性がある』

 最悪の結末を、モーズに示唆した。
 血の気が引き、背筋が冷えていく。
 衣服や紙の資料を収納に納めきれず、床やベッドの上に散乱しているという、生活感を感じられるフリーデンの自室。だがよく見ると貴重品やリュックなど、外出時に使う荷物が消えている。
 それはフランチェスコが居なくなってしまった日を、思い出す光景だった。
 当たり前のように、それこそ空気のように常に共に居た昔馴染みが、煙のように消えてしまった光景。

 ドクンッ

 心臓の音が、嫌に大きく聞こえた。
 直後、モーズは扉を蹴破る勢いで部屋を出る。

「フリッツ。私が、フリーデンを追う」
『えっ? いや、待ってくれ! 君が外に出るのは危険だ! そもそもフリーデンくんがどこに向かったのか、特定しないと……っ!』
『モーズ先生、クロールが脱走してしまったそうですね。フリーデンさんが連れ出したとか』

 不意にフリッツとの通話に割って入ってきたのは、至極落ち着いた声音で話すセレンだった。

『勿論、先生は追いかけるんですよね? 是非、私を同行させてください! お役に立ってみせますよ、モーズ先生!』
『ちょっと、セレンくん!? 何を勝手に話を進めているんだい!? それにさっきも言ったけれど、携帯端末や車の位置情報を切られていて、場所の特定が……っ』
「助かる。直ぐに港に来てくれ」
『モーズくん!?』

 冷静に状況を分析しようとしてくれるフリッツに申し訳ないと思いつつ、モーズはエレベーター搭乗からのエントランスへと降ったと同時に、港に向け、走り出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて490万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき90万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

キメラスキルオンライン 【設定集】

百々 五十六
SF
キメラスキルオンラインの設定や、構想などを保存しておくための設定集。 設定を考えたなら、それを保存しておく必要がある。 ここはそういう場だ。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

処理中です...