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第十六章 地獄の最前線
第348話 手の平返し
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「ども。お取り込み中失礼します」
フリードリヒの怒りという名の嵐が多少、静まった所で、病室の引き戸がゆっくり開けられ、褐色の肌に黒髪に黒衣含め全身黒尽くめな格好をしたウミヘビ、タリウムが顔を出す。
実は最初からフリードリヒと同行していたのだが、病室へ入れば彼の雷が落ちるのは目に見えていたので、怒声が止むまで廊下で待機していたのだ。
「タリウムも来てたのか。フリードリヒさんがお前に同行頼むとか、珍しいな」
「いえ。俺が着いて行きたいな~って言ったら、快諾してくれまして。駄目元だったんスけど」
「そうなの?」
「ウミヘビからの頼みをおれが断る訳がないだろう」
「俺がクロール連れ出した事には怒り狂っていたのに……?」
「当たり前だ」
フリードリヒは話しながら、遠慮がちに入室してきたタリウムの前に丸椅子移動させる。
タリウムからは「いや俺だけ座るとか出来ないっスよ」と断れてしまったが、どこまでもウミヘビファーストな男である。
「国連から命じられた規則は細かいうえに、絶対的な支配力がある。それを掻い潜ってクロールを満足させられる事は難しい。連れ出すのならば、きちんと環境を整えてやらなくては」
「掻い潜って……?」
「幸いお前が引き起こした騒動で死者は出なかったのと、モルヒネがあのペ、何だったか。ともかく気狂い共の気を鎮めるという素晴らしい活躍をしてくれた為に、国連は口出しをしてこないだろう」
(もしかしてフリードリヒさん、ペガサス教団の名前覚えてない?)
「だが、それは運が良かっただけだ。あの馬鹿共は常に付け入る隙を虎視眈々と狙っている。ウミヘビの所有権の強取、または廃棄によるラボの戦力減少をな」
そう語るフリードリヒの言葉から思い起こされるのは、アポイントもなしに人工島アバトンへやってきたマイク達国連警察である。
しかもマイクは帰り際、モーズとフリーデンの前で「付け入る隙が出来たと思った」と口にしていたのだ。その事からも、ラボと国連には確執があると察せられる。
「忌々しい上層部め。いつか皆殺しにしてやる」
「フリードリヒさん、病棟でそういった発言は控えて欲しいのだけれど」
「黙れ鳥頭」
尤もパラス感染病棟院長という、国連の関係者とも言えるロベルトにも暴言を吐くフリードリヒの最悪極まりない態度は、フリーデンもどうかと思うが。
「あの、フリーデンさん」
その時、タリウムがおずおずと言った様子でフリーデンに声をかけて来た。
「モーズさん出掛けているって話していましたけど、もしかしてセレンさんも?」
「おう、そうだぜ。他のウミヘビはロベルト院長が言ってた通り、附属寮の部屋に居るよ」
「今セレンさんに連絡取れますか? 俺さっき、廊下で電話かけたりメールとか送ってみたんスけど、反応なくって」
「反応がない? もしかしてオートに任せないで、自分で運転してるのか? まいいや、じゃあひとまず俺から……。あ、俺いま端末ないんだった……。フリードリヒさん、お願いできます?」
「なんでおれが」
「駄目っスかね?」
「駄目ではない」
タリウムに請われたフリードリヒは直ぐに携帯端末を手に取り、セレンへ電話をかける。
しかし応答はない。
「出ないな」
規則に従順なセレンがクスシからの着信を無視するなどまずないにも関わらず、電話が繋がる事はなかった。
もしかしたらセレンは今、手が離せないのかとフリーデンは考え、フリードリヒに(タリウム経由で)今度はモーズへ電話をかけて貰ったものの、そちらも出ない。
「えっ、待て待て。2人とも出ないとかおかしいだろ。考えたくねぇけど、事故に遭ったのか……!?」
嫌な予感がしたフリーデンは(タリウム経由で)フリードリヒに頼み込み、携帯端末の画面にセレンとモーズの現在位置を映し出して貰う。ラボから支給される腕時計型電子機器に内蔵されたGPSによって、ウミヘビとクスシはいつでも現在位置がわかるようになっているのだ。
そうしてGPSが指し示してくれた2人の現在位置は、パラス感染病棟の駐車場であった。
「は? 駐車場……? えっとロベルト院長、駐車場で事故起きたりしましたか?」
「事故が起きたという話は聞かないね。少し待ってね」
ロベルトは自身の目の前にホログラム画像を投影すると、駐車場の監視カメラ映像を複数映し出し現状の把握に努める。
その結果、駐車場は事故も事件も起きておらず、平和そのものとわかった。
「うん、やっぱり何も起きていない。モーズくん達の姿もないね」
「ありがとうございます、ロベルト院長」
また、ロベルトが見せてくれた監視カメラ映像から駐車場にはラボの車が一台、映っているのがわかった。モーズが人工島アバトンから乗って来た車である。
ただし、フリーデンが乗ってきた方の車はない。駐車場の何処にも。
「出発してはいる、みたいですかね?」
「少し遡ってみようか」
ロベルトは監視カメラ映像を巻き戻し、車がいつなくなったのかを確認する。
遡ること一時間前。その時点ではラボの車は二台とも、横に並んで駐車場に停められていた。そこにモーズとセレンが病棟の方からやって来て、2人はモーズが乗ってきた方の車に乗り込む。
しかし少しして、セレンが助手席から降りてきた。次いで運転席へと回り、ドアを開けモーズを抱えて下ろし、彼と共にフリーデンが乗ってきた方の車へ乗り込む。
そのまま車は発車。駐車場の外へ出て行ってしまった。この事から、携帯端末や腕時計型電子機器は残された車に置いてあると察せられる。
「……え。端末全部置いて、音信不通にしてる……? 探知も切って……?」
それはフリーデンがアパタイトの元へ向かおうと、人工島アバトンから出る際に行った事と同じである。
自分を追って来れないよう、あらゆる探知手段を阻害した。車も位置情報が割れないよう細工をした。その細工をセレンに使われてしまっている。
モーズの意識を奪った上で。
ただならぬ事態にフリーデンはベッドから飛び降りようとした。が、激しく動いた事により肩と腹部から激痛が走り、ベッドの上でうずくまってしまう。
「フリーデンくん、起きてはいけない! 傷口が開いてしまうよ!」
「けど、モーズがどっか連れて行かれたんですよ……!? セレンが何しようとしているか、全くわからねぇし……! っ、ぐぅ……!」
「フリーデンくん! 駄目だ、大声を出しては!」
ロベルトに宥められながら、フリーデンはベッドへ横にさせられた。声を張り上げる事さえ、今のフリーデンには難しい。
けれどこのままモーズを、友達を放ってはおけない。よってフリーデンは今この場で動けるクスシ、フリードリヒに縋った。
「フリードリヒさん! セレンを追ってくれませんか!? 行方をくらましたんです、心配でしょう!?」
「セレンならばそのうち帰ってくるだろう。遅くなるようなら迎えに行くが」
「そんな悠長なこと言わないでくださいよ! その間にモーズに何かあったらどうするんですか!」
「餓鬼の生死など知らん」
「フリードリヒさん!」
モーズ(に関わらず人間全般)の関心が希薄なフリードリヒは、フリーデンが幾ら懇願しても聞き入れる事はなかったが――
「フリードリヒさん。俺、セレンさんに会いたくって同行を申請したんスけど……。やっぱ駄目、ッスかね」
「行くか」
タリウムが一つお願いすれば、ガラリと態度を変えたのだった。
▼△▼
次章より『迷子の子供達編』、開幕。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
『地獄の最前線』これにて完結です。
フリーデンの掘り下げを後回しにしていたのは、モーズとの友情を育んだ後に書きたかったからという。またモルヒネの偶像っぷりも書きたかったので書けてよかった。
次章ではセレンの掘り下げをがっつり行う予定です! 1話目から出ているセレンのメイン章にようやく辿り着けて感無量です~!
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「当たり前だ」
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「国連から命じられた規則は細かいうえに、絶対的な支配力がある。それを掻い潜ってクロールを満足させられる事は難しい。連れ出すのならば、きちんと環境を整えてやらなくては」
「掻い潜って……?」
「幸いお前が引き起こした騒動で死者は出なかったのと、モルヒネがあのペ、何だったか。ともかく気狂い共の気を鎮めるという素晴らしい活躍をしてくれた為に、国連は口出しをしてこないだろう」
(もしかしてフリードリヒさん、ペガサス教団の名前覚えてない?)
「だが、それは運が良かっただけだ。あの馬鹿共は常に付け入る隙を虎視眈々と狙っている。ウミヘビの所有権の強取、または廃棄によるラボの戦力減少をな」
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「フリードリヒさん、病棟でそういった発言は控えて欲しいのだけれど」
「黙れ鳥頭」
尤もパラス感染病棟院長という、国連の関係者とも言えるロベルトにも暴言を吐くフリードリヒの最悪極まりない態度は、フリーデンもどうかと思うが。
「あの、フリーデンさん」
その時、タリウムがおずおずと言った様子でフリーデンに声をかけて来た。
「モーズさん出掛けているって話していましたけど、もしかしてセレンさんも?」
「おう、そうだぜ。他のウミヘビはロベルト院長が言ってた通り、附属寮の部屋に居るよ」
「今セレンさんに連絡取れますか? 俺さっき、廊下で電話かけたりメールとか送ってみたんスけど、反応なくって」
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もしかしたらセレンは今、手が離せないのかとフリーデンは考え、フリードリヒに(タリウム経由で)今度はモーズへ電話をかけて貰ったものの、そちらも出ない。
「えっ、待て待て。2人とも出ないとかおかしいだろ。考えたくねぇけど、事故に遭ったのか……!?」
嫌な予感がしたフリーデンは(タリウム経由で)フリードリヒに頼み込み、携帯端末の画面にセレンとモーズの現在位置を映し出して貰う。ラボから支給される腕時計型電子機器に内蔵されたGPSによって、ウミヘビとクスシはいつでも現在位置がわかるようになっているのだ。
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