毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
422 / 600
第二十章 真っ赤な嘘

第408話 真っ赤な真実

しおりを挟む
 西暦2320年9月29日、その日は歴史的な日となる。

 その宣伝文句と共に公表されたのは、オフィウクス・ラボが実施する公開臨床試験であった。対象者は珊瑚症ステージ4まで進行し、現在ラボの冷安室でコールドスリープが施されているジョン医師。
 珊瑚症が蔓延した西暦2300年当時、対策も治療法もわからない中で果敢に感染者を診ていき、寄生菌『珊瑚』を発見。
 その功績から、かつて英雄と謳われた者。

 彼を目覚めさせる施術をする。それも各メディアのカメラを入れる……正確に言うとメディア所有の自動人形オートマタ撮影機の搬入許可だが、神秘のベールに包まれていたラボの内部が外部に映されるというだけでも衝撃的なニュースである。
 そしてそれらを用い、リアルタイムで臨床試験を発信する。
 オフィウクス・ラボから大々的に発表されたこのニュースは瞬く間に世界へと広まり、子供でも知る所となった。 
 SNSには無数の反応が流れ込み、各国の医療機関や研究者、さらには宗教関係者やジャーナリストまでもが、この試験に注視する姿勢を見せる。
 期待。不安。声援。懐疑。好奇心。批判。信憑。恐怖。
 それぞれの声は異なっていても、その矛先はまるで定められていたかのように同じだ。
 熱狂も、冷笑も、祈りさえも――全てが、この一つの試みに収束していくようだった。

 9月29日きたるひに向けて。

 ◇

(いいタイミングだ)

 飛行機の中。窓際の座席で今朝買った新聞を読んでいたガーネットは、新聞の見出しに大きく書かれたオフィウクス・ラボの宣伝文句を見てほくそ笑む。

(ここでラボの信用を、地の底に落とす)

 世間の注目が集まっている今こそ、崖から突き落とす絶好のチャンスである。
 よってガーネットは飛行機がアメリカに到着次第、『計画』を直ぐに実行に移す事に決めた。ヨーロッパを経つ前、「衝動的に動かず、下調べはちゃんとしておケ」と脚本シナリオを書いた鶏血は言っていたが、それで実行が遅くなってしまってはラボに批判を集める効果も薄まってしまう。
 なるべく早く、迅速に。
 鶏血は小心者で臆病な性格な為、些か慎重すぎる所がある。事前情報は過剰なほど厚め、計画も隙なく練ったのだ。躊躇する必要などないだろう。

 そうしてガーネットはアメリカの空港に到着するや否や、車を借り荒野を走った。
 向かう先は西海岸に点在する田舎町。その内の一件。
 人里離れた土地に建つ、亡き国連警察クリスの両親が暮らす家である。ガーネットは車を近場の路肩に停めると、、配信機能を搭載した浮遊型自動人形オートマタを起動し準備を整える。
 準備を終えたガーネットは所謂カルフォニアスタイルの二階建ての住宅、その玄関へ向かった。そしてインターホンを押し家主を呼び出す。
 扉を開け出てきたのは、老婦であった。クリスの母親だろう。

「こんにちは、ご夫人。突然の訪問、申し訳ございません」

 ガーネットは深々と頭を下げ、巧妙な話術を持って老婦の警戒心を解きほぐす。
 これから大事な話をしたい旨。それを録画し、世間へ広めたい旨も正直に伝え、撮影許可を得た上でガーネットは老婦に招かれたリビングへと足を踏み入れた。
 その途中で、2階から老夫が現れる。クリスの父親だろう。彼にも老婦に引き続き挨拶を交わしたガーネットは、リビングのソファに向き合うように座って貰い、本題へと入った。
 カメラの端に、リビングのテーブルに置かれたクリスの写真を映しながら。

「真実を知りたくないですか?」

 ガーネットは真剣な声音で切り出す。

「貴女の娘さんは、悪魔に殺されたのです」

 クリスの話を出された老婦は両手で顔を覆い、肩を震わせる。それを彼女の隣に座る老父が宥めた。

「つらい記憶を思い出させてしまってすみません。しかしこれが真実です。貴方方の元へ戻ってきた娘さんのご遺体には、大きな刺し傷があったでしょう? あれこそが致命傷であり、悪魔の手による惨殺です。オフィウクス・ラボが飼っている悪魔のね。……この真実が秘匿されている事に、憤りを感じませんか? 悔しくありませんか?」

 だがガーネットは畳み掛けるように言葉を紡ぎ続ける。

「真実を暴き世間へ広め、然るべき罰を与えたくはありませんか?」

 ガーネットの提案に、老婦と老父の身体が強張った。そして暫しの間を置いて、賛同をする。
 ガーネットはモーズの顔で、口元を歪めた。

「でしたらまずは、『秘密の楽園』へ参りましょう。そこには同胞が沢山おります。貴方方の苦しみを分かち合える人々がいるのです」

 ガーネットの提案に対し、老夫婦は『秘密の楽園』への行き方を訊ねてきた。2人は老体で、あまり体力がないとわかる身体をしている。遠出が不安なのだろう。当然の心配だ。

「ご安心ください。『秘密の楽園』は《珊瑚サマ》感じられる者でしたら、何処からでも行く事ができます。そして《珊瑚サマ》はいつも我々を見ている。繋がっている」

 ガーネットは場所も時間も体力も、何も問題ないと伝え、ソファから立ち上がる。

「私は司祭であり伝道師。楽園までの道を繋げてみせましょう」

 老夫婦は具体的に何をすればいいのか、何が必要なのか訊いてきたが、それは無視をするガーネット。
 何故ならば事前準備など必要ないからだ。
 ガーネットはただラボへの不信感と復讐心を煽る言葉を紡ぎ続け、歩み寄った老婦の手に自身の手を重ねた。

「さぁ。娘の仇を、ウミヘビを打ち倒しに……」

 カチャン
 その直後、リビングに金属音が鳴り響く。

「……確保っ!!」

 叫んだのは老婦だったか、老父だったか。
 刹那の隙を突かれたガーネットの右手には手錠が嵌められ、反対側の輪っかは老父が握り締めていた。
 状況を把握し切れずガーネットが固まっている間に、慌ただしい足音が玄関の外や2階から聞こえ、やがてリビングへ集まって来る。
 「警察だ!」と大声で宣言するその者達は、国連警察の制服を着た連中であった。

「お前がフットワークの軽い男で助かったよ」

 集った部隊の先頭に立つ男が言う。
 全身を武装し、顔はガスマスクで覆い隠しているが、その男が誰かガーネットは知っている。かつてネフェリンが利用した男だからだ。
 国連警察、マイク。ラリマーが殺し損ねた男でもある。

「『楽園』とやらの行き方もここで吐いて欲しかったが、仕方がない。続きは署でじっくり聞かせて貰おうか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...