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突然ですが質問ですっ!
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「骨になったらどこに行きたい?」
真っ白いシーツと布団が敷かれた、病院のベッドの上で、姉ちゃんは僕にそんな事を問いかけてきた。
「どこに行くも何も、骨になったら皆んな墓の下だろう?」
「ぶっぶー。そんな事ありませぇ~ん」
クイズ番組で問題が外れた時に鳴るSEを、声で再現する姉ちゃんに、何だか小馬鹿された気がして僕はムッと口を結んでしまう。
「骨はねぇ。土の下や木の根本に埋めたり、森や山に持って行ったり、川に流したり、海に撒いたり……。あと何と何と! 宇宙に飛んでいく事もできちゃうのだっ!」
「宇宙っ!?」
だけど次に姉ちゃんの口から出てきた想定外の単語を聞いて、僕は結んでいた口を大きく開け、思わず大きな声を出してしまった。でも個室とはいえここは病院。大声を出すのはマナー違反だ。
僕は直ぐに口を自分の手で塞いで……いやもう遅いんだけど、それから誰に言う訳でもなく「すみません」と軽く謝罪の言葉を呟いた後、姉ちゃんのベッド脇の椅子に居心地悪そうに座った。
「つまり何? 姉ちゃんは宇宙に行きたいの?」
「それもいいかな~、って思う事はあるね! 生身で行くより安いだろうしっ」
「費用の問題かよ。宇宙なんて遠い所より、来月控えている大学デビューの事でも考えたら? どのサークル入ろうかとか、前は話してただろ」
「私が何を話してもいいじゃんっ。今日はそんな気分だったの!」
僕が話題を変えようとしてきたのが気に入らなかったのか、姉ちゃんは手を胸元でぶんぶん振って不機嫌を露わにした。
水色の入院着から覗く姉ちゃんの手は痩せこけていて、骨と皮、って言っていい。
「海外だと鳥に食べて貰う所もあるんだってねぇ」
「鳥に? 骨食べ残さないの? それ」
「私も調べてみたんだけど、綺麗に食べて貰う為に、ちゃんと切断したり砕いたりして、細かくしてから……」
「うっわ。わかったからもう喋らなくていいよ。そもそもそれ病院で話すこと?」
「話すことだよ」
姉ちゃんは朗らかにそう言って朗らかに笑う。
「……そっか」
それを聞いた僕は、目を伏せるしかできなかった。
姉ちゃんはきっともう、とっくに死期を悟っていたんだ。
◇
煙突からもくもくと白い煙があがって、白い雲が流れる真っ青な空へと消えていく。
その下、葬儀場の駐車場。真っ黒い服を着た僕は、その煙の行方をぼんやりと眺める。
「これで宇宙に行けるね、姉ちゃん」
骨壷に納まる小さくなった姉ちゃんを、両手で抱えて。
「でも宇宙は遠いよ、姉ちゃん。それにきっと、暗くて寒くて、寂しい」
姉ちゃん意外と寂しがり屋だから、泣いちゃうだろうな。
姉ちゃんもそれを自覚しているからか、結局、どこに行きたいか決められていなかった。
森も山も川も海も空も、宇宙も、本当は生きている内に、行きたかった所なんだろうし。
「姉ちゃん。俺、来年姉ちゃんが行く予定だった大学受験するんだ。受かったら、いや絶対受かるからさ、そしたら一緒に通おうな」
誰に言う訳でもなく呟いて、僕は歩き出す。
なぁ、姉ちゃん。骨ってアクセサリーにできるんだってさ。ペンダントとか指輪とかピアスとか。死んでも側にいられるように。費用もそんなに高くない。少なくとも宇宙に行くよりぜんっぜん。
だから、
「どこにでも行こう、姉ちゃん」
真っ白いシーツと布団が敷かれた、病院のベッドの上で、姉ちゃんは僕にそんな事を問いかけてきた。
「どこに行くも何も、骨になったら皆んな墓の下だろう?」
「ぶっぶー。そんな事ありませぇ~ん」
クイズ番組で問題が外れた時に鳴るSEを、声で再現する姉ちゃんに、何だか小馬鹿された気がして僕はムッと口を結んでしまう。
「骨はねぇ。土の下や木の根本に埋めたり、森や山に持って行ったり、川に流したり、海に撒いたり……。あと何と何と! 宇宙に飛んでいく事もできちゃうのだっ!」
「宇宙っ!?」
だけど次に姉ちゃんの口から出てきた想定外の単語を聞いて、僕は結んでいた口を大きく開け、思わず大きな声を出してしまった。でも個室とはいえここは病院。大声を出すのはマナー違反だ。
僕は直ぐに口を自分の手で塞いで……いやもう遅いんだけど、それから誰に言う訳でもなく「すみません」と軽く謝罪の言葉を呟いた後、姉ちゃんのベッド脇の椅子に居心地悪そうに座った。
「つまり何? 姉ちゃんは宇宙に行きたいの?」
「それもいいかな~、って思う事はあるね! 生身で行くより安いだろうしっ」
「費用の問題かよ。宇宙なんて遠い所より、来月控えている大学デビューの事でも考えたら? どのサークル入ろうかとか、前は話してただろ」
「私が何を話してもいいじゃんっ。今日はそんな気分だったの!」
僕が話題を変えようとしてきたのが気に入らなかったのか、姉ちゃんは手を胸元でぶんぶん振って不機嫌を露わにした。
水色の入院着から覗く姉ちゃんの手は痩せこけていて、骨と皮、って言っていい。
「海外だと鳥に食べて貰う所もあるんだってねぇ」
「鳥に? 骨食べ残さないの? それ」
「私も調べてみたんだけど、綺麗に食べて貰う為に、ちゃんと切断したり砕いたりして、細かくしてから……」
「うっわ。わかったからもう喋らなくていいよ。そもそもそれ病院で話すこと?」
「話すことだよ」
姉ちゃんは朗らかにそう言って朗らかに笑う。
「……そっか」
それを聞いた僕は、目を伏せるしかできなかった。
姉ちゃんはきっともう、とっくに死期を悟っていたんだ。
◇
煙突からもくもくと白い煙があがって、白い雲が流れる真っ青な空へと消えていく。
その下、葬儀場の駐車場。真っ黒い服を着た僕は、その煙の行方をぼんやりと眺める。
「これで宇宙に行けるね、姉ちゃん」
骨壷に納まる小さくなった姉ちゃんを、両手で抱えて。
「でも宇宙は遠いよ、姉ちゃん。それにきっと、暗くて寒くて、寂しい」
姉ちゃん意外と寂しがり屋だから、泣いちゃうだろうな。
姉ちゃんもそれを自覚しているからか、結局、どこに行きたいか決められていなかった。
森も山も川も海も空も、宇宙も、本当は生きている内に、行きたかった所なんだろうし。
「姉ちゃん。俺、来年姉ちゃんが行く予定だった大学受験するんだ。受かったら、いや絶対受かるからさ、そしたら一緒に通おうな」
誰に言う訳でもなく呟いて、僕は歩き出す。
なぁ、姉ちゃん。骨ってアクセサリーにできるんだってさ。ペンダントとか指輪とかピアスとか。死んでも側にいられるように。費用もそんなに高くない。少なくとも宇宙に行くよりぜんっぜん。
だから、
「どこにでも行こう、姉ちゃん」
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