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二章 王都編
お爺ちゃん賢者と谷底の竜の決着です。
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咆哮が契機となり、また緑碧色の光線が直線状に襲ってくる。
真空放電だったか。
直線状に迫る陰極線をその光線に重ねて思い出しながら、それを迎え撃つ。
「九尾!」
『了解。【闇氷読】』
光線が歪めた空間を凍結させるように、咲いた白銀の薔薇が光線を包囲、蹂躙していく。
鮮やかな緑は白銀に上書きされ、全てを凍結させていく。
やがてそれは光線までをも凍り付かせ、次第に竜体へと迫っていく。
『このまま……押し込むぞ!』
仙気で2.5倍をかけた攻撃力に有利属性の3倍。
占めて7.5倍の攻撃力は、あっと言う間に既に弱体化した緑を喰い尽くしていく。
竜の方も不利を悟ったのか、一度光線を切り術者の儂を狙おうと迂回しながら前進してくる。
鈍重そうな体に似合わぬスピードだ。
先ほど大技を出したばかりの九尾は追いつけないだろう。
だが、儂とて弱小ではない。
「かつて九尾を圧倒した崩世の土の力……今こそ見せてくれよう」
パンッと乾いた音を立てて両掌を合わせる。
仙気が十分に身体を巡ったのを確認し、一度瞳を閉じる。
数秒経ってから再び眼を開けると、それは凄惨な赤褐色と巴柄の紋様を浮かべていた。
間髪入れずに、その両掌を地面に叩きつける。
『摂提格、単閼、執徐、大荒落、敦牂、協洽、涒灘、作噩、閹茂、大淵献、困敦、赤奮若。全ての歳月がここに集う』
……薄く、しかし着実に紋様が現れる。
深紅の線がやがて結合し、六角の紋様が完成し光が弾ける。
強い光は黙々と肥大化し、やがて谷そのモノすらも飲み込んでしまう。
竜は既に動きが麻痺したかのように動きを止めた。
もはや蠢くものは煌々と光を放つ魔法陣以外にあらず、まるで時が止まったかのようだ。
『【天赦】』
やがて光を失った魔法陣はあるものを遺して消滅した。
血に染まり切ったかのようなそれは、赤黒く胎動していて今にも何かが解放されそうだ。
すぐにそのものを掴み、懐かしい感触に思わず顔が相好を崩す。
だが、まだ気は抜けない。
動きを取り戻した歓喜を味わうかのように、以前の倍もの速さで竜が迫ってきている。
すぐさま左眼を覆い、瞼を掌で広げるようにして魔力を集中させる。
眼の巴柄が回転を始め、雪の結晶のような模様へと変化していく。
『【蟒蛇】』
噛み砕かれる寸前で術が発動する。
頭部は粉砕されたが、この術の前には無力と言わざるを得ない。
千切られた頭部が、細胞の肥大化により再生していく。
やがて完全再生した儂の体が唖然とした様子の竜を見下ろした。
『さあ、死んでもらおう』
エコーとノイズが反響しあうようにして谷の底に響く。
数秒後には、手に持った刀が竜の首を切り裂いていた。
****
赤黒く脈動する剣が、瞬く間に竜の首を斬り落としていく。
剣は接合部を焼き尽くしながら斬り進んでいき、再生すら許さない。
『Deeeeeeeer……』
悲しそうな叫びの中に、満足感を微かに称えて竜の遺体は消滅していった。
****
「……で、どうしてこんなことになってるんじゃ?」
『ちょっと何言ってるか分からない』
「理解しろよ!?」
目の前には大柄の若者が立っていた。
上半身がほぼ露出しているせいか、その筋骨隆々の肉体が谷底でも眩く光っている。
にも関わらず、このファンキーな口調がこの男の印象を台無しにしていた。
「ところであの中年は何処に行ったんだ?」
『あの中年なら俺の棺の前で小用でも足していたはずだぞ』
「なんてことやってくれてるんだあの中年!?」
良い年して何やってんだよあの中年!?
あんな価値ある封印と遺産の前で放尿なんかするんじゃない!?
『まあまあ良いではないか。俺も散々やったぞ』
「お前もか!?」
余りにも番狂わせな二人の登場に、お爺ちゃん賢者は頭を悩ませるのであった。
****
儂が竜を切り倒した後、どこかに中年は消えていた。
さして気にするまでもないかと竜の遺体を跡形もなく消し去ろうとする。
魔物の遺体はしっかり焼き尽くさないと不死生物になってしまうからだ。
「しかし、随分と恨みが凝縮されたような魔物だったのう……」
できればその恨みも取り除いてやればよかった。
そんなことを思いつつ、遺体に手をかざす。
「さらばじゃ」
さして苦手でもない焔系統の魔弾を打ち出す。
しかしそれは遺体を焼き尽くすという役目を果たさず、音を立てて弾かれてしまう。
「どうした?」
一瞬強い力が走ったかと思うと、目の前には筋骨隆々の若者が立っていた。
「……あれ?俺、どうしたんだ?」
それが神風龍ヴァージュアとの出会いだった。
****
中年男野外にて小便、という報を聞いてからそれを止めるべく仙気まで発生させて洞窟までダッシュした。
努力もむなしく、男は既に出し切った後の満足感を顔に称えていた。
「死ねェェェェッツ!?」
……この後洞窟に大破壊が起きたのは、言うまでもない。
しかし、洞窟の奥の祭壇だけは破壊されなかった。
聞くとそれは地球への転移装置なのだそうだ。
おっさんはやはり地球からの転移者らしく、帰るために邪魔だったこの竜を誰かに倒してほしかったそうだ。
『俺は何者かと戦ってから記憶が無いもんな。そのためなのかもしんない』
簡単に転移は出来ないようになってる、ということだ。
暫くして、おっさんは別れを告げた。
「俺も帰らなくてはならない。もはやこの世界で二年を過ごした。その埋め合わせが…」
『最後まで格好つけんなこの駄男』
「なんでぇッ!?最後ぐらいいいんじゃないの!?」
『どうでもいいから早く帰れ』
「……泣くよ?俺泣くよ?」
さっきからの酷いセリフは九尾だ。
恐らく儂の体内からこいつの言動や行動を見ていたのだろう。
「いろいろと物申したいが、じゃあな」
その表情にありったけの憎悪を込めて、中年は去っていった。
真空放電だったか。
直線状に迫る陰極線をその光線に重ねて思い出しながら、それを迎え撃つ。
「九尾!」
『了解。【闇氷読】』
光線が歪めた空間を凍結させるように、咲いた白銀の薔薇が光線を包囲、蹂躙していく。
鮮やかな緑は白銀に上書きされ、全てを凍結させていく。
やがてそれは光線までをも凍り付かせ、次第に竜体へと迫っていく。
『このまま……押し込むぞ!』
仙気で2.5倍をかけた攻撃力に有利属性の3倍。
占めて7.5倍の攻撃力は、あっと言う間に既に弱体化した緑を喰い尽くしていく。
竜の方も不利を悟ったのか、一度光線を切り術者の儂を狙おうと迂回しながら前進してくる。
鈍重そうな体に似合わぬスピードだ。
先ほど大技を出したばかりの九尾は追いつけないだろう。
だが、儂とて弱小ではない。
「かつて九尾を圧倒した崩世の土の力……今こそ見せてくれよう」
パンッと乾いた音を立てて両掌を合わせる。
仙気が十分に身体を巡ったのを確認し、一度瞳を閉じる。
数秒経ってから再び眼を開けると、それは凄惨な赤褐色と巴柄の紋様を浮かべていた。
間髪入れずに、その両掌を地面に叩きつける。
『摂提格、単閼、執徐、大荒落、敦牂、協洽、涒灘、作噩、閹茂、大淵献、困敦、赤奮若。全ての歳月がここに集う』
……薄く、しかし着実に紋様が現れる。
深紅の線がやがて結合し、六角の紋様が完成し光が弾ける。
強い光は黙々と肥大化し、やがて谷そのモノすらも飲み込んでしまう。
竜は既に動きが麻痺したかのように動きを止めた。
もはや蠢くものは煌々と光を放つ魔法陣以外にあらず、まるで時が止まったかのようだ。
『【天赦】』
やがて光を失った魔法陣はあるものを遺して消滅した。
血に染まり切ったかのようなそれは、赤黒く胎動していて今にも何かが解放されそうだ。
すぐにそのものを掴み、懐かしい感触に思わず顔が相好を崩す。
だが、まだ気は抜けない。
動きを取り戻した歓喜を味わうかのように、以前の倍もの速さで竜が迫ってきている。
すぐさま左眼を覆い、瞼を掌で広げるようにして魔力を集中させる。
眼の巴柄が回転を始め、雪の結晶のような模様へと変化していく。
『【蟒蛇】』
噛み砕かれる寸前で術が発動する。
頭部は粉砕されたが、この術の前には無力と言わざるを得ない。
千切られた頭部が、細胞の肥大化により再生していく。
やがて完全再生した儂の体が唖然とした様子の竜を見下ろした。
『さあ、死んでもらおう』
エコーとノイズが反響しあうようにして谷の底に響く。
数秒後には、手に持った刀が竜の首を切り裂いていた。
****
赤黒く脈動する剣が、瞬く間に竜の首を斬り落としていく。
剣は接合部を焼き尽くしながら斬り進んでいき、再生すら許さない。
『Deeeeeeeer……』
悲しそうな叫びの中に、満足感を微かに称えて竜の遺体は消滅していった。
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「……で、どうしてこんなことになってるんじゃ?」
『ちょっと何言ってるか分からない』
「理解しろよ!?」
目の前には大柄の若者が立っていた。
上半身がほぼ露出しているせいか、その筋骨隆々の肉体が谷底でも眩く光っている。
にも関わらず、このファンキーな口調がこの男の印象を台無しにしていた。
「ところであの中年は何処に行ったんだ?」
『あの中年なら俺の棺の前で小用でも足していたはずだぞ』
「なんてことやってくれてるんだあの中年!?」
良い年して何やってんだよあの中年!?
あんな価値ある封印と遺産の前で放尿なんかするんじゃない!?
『まあまあ良いではないか。俺も散々やったぞ』
「お前もか!?」
余りにも番狂わせな二人の登場に、お爺ちゃん賢者は頭を悩ませるのであった。
****
儂が竜を切り倒した後、どこかに中年は消えていた。
さして気にするまでもないかと竜の遺体を跡形もなく消し去ろうとする。
魔物の遺体はしっかり焼き尽くさないと不死生物になってしまうからだ。
「しかし、随分と恨みが凝縮されたような魔物だったのう……」
できればその恨みも取り除いてやればよかった。
そんなことを思いつつ、遺体に手をかざす。
「さらばじゃ」
さして苦手でもない焔系統の魔弾を打ち出す。
しかしそれは遺体を焼き尽くすという役目を果たさず、音を立てて弾かれてしまう。
「どうした?」
一瞬強い力が走ったかと思うと、目の前には筋骨隆々の若者が立っていた。
「……あれ?俺、どうしたんだ?」
それが神風龍ヴァージュアとの出会いだった。
****
中年男野外にて小便、という報を聞いてからそれを止めるべく仙気まで発生させて洞窟までダッシュした。
努力もむなしく、男は既に出し切った後の満足感を顔に称えていた。
「死ねェェェェッツ!?」
……この後洞窟に大破壊が起きたのは、言うまでもない。
しかし、洞窟の奥の祭壇だけは破壊されなかった。
聞くとそれは地球への転移装置なのだそうだ。
おっさんはやはり地球からの転移者らしく、帰るために邪魔だったこの竜を誰かに倒してほしかったそうだ。
『俺は何者かと戦ってから記憶が無いもんな。そのためなのかもしんない』
簡単に転移は出来ないようになってる、ということだ。
暫くして、おっさんは別れを告げた。
「俺も帰らなくてはならない。もはやこの世界で二年を過ごした。その埋め合わせが…」
『最後まで格好つけんなこの駄男』
「なんでぇッ!?最後ぐらいいいんじゃないの!?」
『どうでもいいから早く帰れ』
「……泣くよ?俺泣くよ?」
さっきからの酷いセリフは九尾だ。
恐らく儂の体内からこいつの言動や行動を見ていたのだろう。
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その表情にありったけの憎悪を込めて、中年は去っていった。
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