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初めての実戦(多分)、挑むはゴブリン討伐。中編
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◇
そんなこんなで洞窟を更に奥へ潜っていくが、ゴブリンの姿は全く見えない。
どうやら私が漏らした瘴気で完全に逃げてしまったようだ。
「ねぇ、もう帰っていいんじゃないかしら?」
レジーナがそう言うのも無理はない。
あれからずっとゴブリンとは遭遇しておらず、辺りからは何の気配も感じ取れない。
恐らくどこかにあった出口から逃げてしまったのだろう。
「効果てきめんだな。時々畑でアゼリア君が瘴気を漏らすだけで、ゴブリンは近寄って来れないのではないか?」
「人をそんな虫よけみたいに……」
確かに効率的かもしれないけれども! そんなの全然冒険者っぽくないじゃないの。
ていうかゴブリンたちも逃げすぎである。もう大分奥まで来ているが気配の一つも感じられない。
余程慌てて逃げたのだろうか、そこら中にどこからか盗んできたのか壊れた鍋やフライパンなどの生活用品が転がっている。
「まぁいいじゃないですかご主人様。ゴブリンはいなくなったのだし依頼は達成ですよ。これ以上探索しても何も見つからないでしょうし、そろそろ戻――」
「待って!」
不意にレジーナが屈み込む。
一体どうしたのだろうか。穴が空く程真剣に壁を見つめている。
「ねぇ皆、これってもしかして文字じゃないかしら」
そしてぽつりと呟いた。
「文字って……レジーナさん、ゴブリンが文字を使うなど聞いたこともありませんよ」
「でも、言われてみればそう見えるね」
土で埋もれてわからなかったが、レジーナが指でなぞったそこには確かに文字らしきものが刻まれていた。
「本当だ。にわかには信じ難いが、これはどう見ても……」
「ふむ……見たことない字体だわ。とても興味深い……」
それに刺激されたのかレジーナは目を輝かせている。
魔術師って学者肌だからなぁ。
「こっちには地図のようなものがあるわね。どうやらゴブリンの巣みたいだけど」
レジーナが天井へと視線を向けると、そこにはアリの巣のように地下深く張り巡らせた道と、そこで生活するゴブリンの絵が描かれている。
「端っこの方にちまっと描かれているのが現在地のようですね。それにしてもなんという広さだ」
「昔読んだ御伽噺にはゴブリンの巣は世界中どこにでも通じている、なんて書かれていたけど……これを見たら信じてしまいそうになるわ」
似たような『物語』は私も読んだことがある。
ゴブリンの洞窟はどこへ繋がっているのかと考えたとある冒険者が奥へ奥へと進むうちに、巨大な地下空間に辿り着く。
そこはゴブリンの帝国で、見つかった冒険者は大軍に追われて命からがら逃げ帰ってくる……という話だ。
天井の壁画にはそれを裏付けるように地下に広がる空間と、王冠を被ったゴブリンが描かれていた。
「ねぇみんな、折角だし探索してみようよ」
思わずそう口走る。
それが事実なのか知りたいし、何より未知の探索に胸躍らせるのは冒険者として当然だろう。
「ふむ、アゼリア君のおかげで敵とも全く戦っていないし体力は余っている。少々拍子抜けしていた所だしな。僕は構わない」
「私もいいわよ。地下に何があるのか気になるし、何か分かったらまさに歴史的な発見だもの」
皆もそれは同様だったようで、私の提案に頷いた。やっぱり皆、冒険者だなぁ。
しかしメフィだけはやれやれとばかりに首を横に振っている。
「全く、冒険者と言うのは夢見がちですねぇ。私としてはあまり気乗りしませんが使い魔としてはついて行くしか――」
言いかけてハッと目を見開くメフィ。
「わ、私なんで今、自分で使い魔と認めていたの!? 従っているフリをして上手く立ち回ろうとしていたのに……いやいや、これはご主人様の力の底を見るいい機会だから賛同しただけだから! 心まで使い魔になったわけではないのでっ!」
何やら顔を赤らめてブツブツ呟いているが、反対しないと言うことは概ね賛成なのだろう。多分。
「よーし、そうと決まれば目指すは地の底、ゴブリン帝国!」
おー、と片手を突き上げる。
「……だがどうやって行くつもりだ? 地図によるとかなり広そうに見えるが」
キリアの言葉に私はニヤリと笑って返す。
「こういう時こそ、赤い霧の出番でしょ」
包み込んだ物質を支配するこの能力、赤い霧を地面に向けて放つ。
地面に溶け込んだかと思うと、あっという間に地面に大きな穴が空いた。
「な……じ、地面が溶けた!?」
「溶かしたわけじゃないよ。地面にお願いして私たちが通れる穴を開いて貰ったんだ」
この万能能力、何でも出来過ぎてあまり面白みがないが、特に楽しみがない時のショートカットには非常に役立つ。
「お願いって……地面ってそういうの聞いてくれるものなの?」
「うん、はっきりとした意識があるわけじゃないけどね」
石や水など、物質にもうっすらと意識のようなものはあるようで、何となくこちらが言ってることはわかるようだ。
植物に音楽を聞かせると成長が早いとか言うしね。
祖父もそんなことを言って、歌いながら畑の世話をしていたものだ。
でも土ですらそうなのだ。ゴブリンが高い知性を持っていても何ら不思議ではないよな。
地下帝国の存在にも真実味を帯びてきたじゃないの。ワクワクしてきたなぁ。うん。
「さ、どんどん行きましょ」
「あ、あぁ……」
何故か頭を抱える皆と共に、私は地底深くまで降りていくのだった。
そんなこんなで洞窟を更に奥へ潜っていくが、ゴブリンの姿は全く見えない。
どうやら私が漏らした瘴気で完全に逃げてしまったようだ。
「ねぇ、もう帰っていいんじゃないかしら?」
レジーナがそう言うのも無理はない。
あれからずっとゴブリンとは遭遇しておらず、辺りからは何の気配も感じ取れない。
恐らくどこかにあった出口から逃げてしまったのだろう。
「効果てきめんだな。時々畑でアゼリア君が瘴気を漏らすだけで、ゴブリンは近寄って来れないのではないか?」
「人をそんな虫よけみたいに……」
確かに効率的かもしれないけれども! そんなの全然冒険者っぽくないじゃないの。
ていうかゴブリンたちも逃げすぎである。もう大分奥まで来ているが気配の一つも感じられない。
余程慌てて逃げたのだろうか、そこら中にどこからか盗んできたのか壊れた鍋やフライパンなどの生活用品が転がっている。
「まぁいいじゃないですかご主人様。ゴブリンはいなくなったのだし依頼は達成ですよ。これ以上探索しても何も見つからないでしょうし、そろそろ戻――」
「待って!」
不意にレジーナが屈み込む。
一体どうしたのだろうか。穴が空く程真剣に壁を見つめている。
「ねぇ皆、これってもしかして文字じゃないかしら」
そしてぽつりと呟いた。
「文字って……レジーナさん、ゴブリンが文字を使うなど聞いたこともありませんよ」
「でも、言われてみればそう見えるね」
土で埋もれてわからなかったが、レジーナが指でなぞったそこには確かに文字らしきものが刻まれていた。
「本当だ。にわかには信じ難いが、これはどう見ても……」
「ふむ……見たことない字体だわ。とても興味深い……」
それに刺激されたのかレジーナは目を輝かせている。
魔術師って学者肌だからなぁ。
「こっちには地図のようなものがあるわね。どうやらゴブリンの巣みたいだけど」
レジーナが天井へと視線を向けると、そこにはアリの巣のように地下深く張り巡らせた道と、そこで生活するゴブリンの絵が描かれている。
「端っこの方にちまっと描かれているのが現在地のようですね。それにしてもなんという広さだ」
「昔読んだ御伽噺にはゴブリンの巣は世界中どこにでも通じている、なんて書かれていたけど……これを見たら信じてしまいそうになるわ」
似たような『物語』は私も読んだことがある。
ゴブリンの洞窟はどこへ繋がっているのかと考えたとある冒険者が奥へ奥へと進むうちに、巨大な地下空間に辿り着く。
そこはゴブリンの帝国で、見つかった冒険者は大軍に追われて命からがら逃げ帰ってくる……という話だ。
天井の壁画にはそれを裏付けるように地下に広がる空間と、王冠を被ったゴブリンが描かれていた。
「ねぇみんな、折角だし探索してみようよ」
思わずそう口走る。
それが事実なのか知りたいし、何より未知の探索に胸躍らせるのは冒険者として当然だろう。
「ふむ、アゼリア君のおかげで敵とも全く戦っていないし体力は余っている。少々拍子抜けしていた所だしな。僕は構わない」
「私もいいわよ。地下に何があるのか気になるし、何か分かったらまさに歴史的な発見だもの」
皆もそれは同様だったようで、私の提案に頷いた。やっぱり皆、冒険者だなぁ。
しかしメフィだけはやれやれとばかりに首を横に振っている。
「全く、冒険者と言うのは夢見がちですねぇ。私としてはあまり気乗りしませんが使い魔としてはついて行くしか――」
言いかけてハッと目を見開くメフィ。
「わ、私なんで今、自分で使い魔と認めていたの!? 従っているフリをして上手く立ち回ろうとしていたのに……いやいや、これはご主人様の力の底を見るいい機会だから賛同しただけだから! 心まで使い魔になったわけではないのでっ!」
何やら顔を赤らめてブツブツ呟いているが、反対しないと言うことは概ね賛成なのだろう。多分。
「よーし、そうと決まれば目指すは地の底、ゴブリン帝国!」
おー、と片手を突き上げる。
「……だがどうやって行くつもりだ? 地図によるとかなり広そうに見えるが」
キリアの言葉に私はニヤリと笑って返す。
「こういう時こそ、赤い霧の出番でしょ」
包み込んだ物質を支配するこの能力、赤い霧を地面に向けて放つ。
地面に溶け込んだかと思うと、あっという間に地面に大きな穴が空いた。
「な……じ、地面が溶けた!?」
「溶かしたわけじゃないよ。地面にお願いして私たちが通れる穴を開いて貰ったんだ」
この万能能力、何でも出来過ぎてあまり面白みがないが、特に楽しみがない時のショートカットには非常に役立つ。
「お願いって……地面ってそういうの聞いてくれるものなの?」
「うん、はっきりとした意識があるわけじゃないけどね」
石や水など、物質にもうっすらと意識のようなものはあるようで、何となくこちらが言ってることはわかるようだ。
植物に音楽を聞かせると成長が早いとか言うしね。
祖父もそんなことを言って、歌いながら畑の世話をしていたものだ。
でも土ですらそうなのだ。ゴブリンが高い知性を持っていても何ら不思議ではないよな。
地下帝国の存在にも真実味を帯びてきたじゃないの。ワクワクしてきたなぁ。うん。
「さ、どんどん行きましょ」
「あ、あぁ……」
何故か頭を抱える皆と共に、私は地底深くまで降りていくのだった。
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