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大事なものは。後編
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「あの……ところでご主人様、お腹の方は大丈夫です? あんな沢山のハエを食べちゃって……」
「ぶはっ!」
メフィの言葉にゲホゲホとむせる。
「いやっ、あれはハエとかじゃないから。そういう形はしていたかもしれないけど、基本的には無数の小さい魔力体! 概念的な奴! ばっちいとかそういうのはないから大丈夫だよ!」
流石に令嬢らしくない絵面だったかもしれないな。
他に方法はなかったとはいえ、確かにもう少しスマートに倒せればより良かったのだが……済んでしまったことは仕方ない。
「だったら良いのですが……というかその……そういうのが言いたかったのではなくてですね……」
何やらバツが悪そうに頬を掻くメフィ。何か言い淀んでいるようだ。
どうしたのかと思っていると、意を決したように頭を下げてくる。
「あの、申し訳ありませんでしたっ!」
「な、なにっ!? いきなりどうしたの?」
驚く私にメフィは言葉を続ける。
「私、ご主人様を見捨てて逃げ出してしまいました。あそこにいるのが怖かった。耐えられなかったんです。戦いが終わるまで安全なところで隠れてるつもりだったんですよ。あまつさえヴェルゼバが勝ったらそっちに付こうとすら考えてて……」
「なんだ、そんなことか」
いきなり神妙な顔をするからびっくりしたじゃないの。私は安堵の息を吐く。
「全然気にしなくていいよ。だって皆を助けてくれたじゃないの」
「そりゃあのまま放っては……とはいえ勝てそうだったから戻ってきただけです。普通なら卑怯と怒るところじゃないですか。それこそ『物語』とかでもそうでしょう?」
自分を責めろと言わんばかりのメフィの言葉に、私は首を横に振った。
「そんなことないってば。仲間が逃げ出すなんて『物語』でもよくあることだよ。けれど彼らは最後には必ず帰ってきていた。だから私もメフィが逃げるわけないって信じてたもの」
「……どうしてこんな日和見主義のコウモリ女を信じられるんです? そんなに夢見がちなことが言えるんですか?」
「冒険者だから」
私の好きな『物語』の冒険者は、愚かだ、考えなしだ、夢見がちだと言われても、真っ直ぐに仲間を信じ続けていた。
だから、それこそが冒険者にとって最も大事なことだと私は思う。故にメフィが私から離れた時だって、逃げ出したとかそんなことは微塵も思わなかったのだ。
「でもあそこで攻撃を仕掛けた時はヒヤッとしたよー。結構命知らずだよねメフィってば」
「んなっ! そ、それは思わず……」
顔を赤らめるメフィに、私はにっこりと笑いかける。
「だから――ありがとうメフィ。これからもよろしく」
「――っ!」
メフィは顔を真っ赤にして声を詰まらせると、そのまま恥ずかしそうに私の頭に載る。
「その、こちらこそ……」
すごく小さな声だったが、生憎と耳がいいもので。メフィの言葉はよく聞こえていた。
◇
こうしてゴブリン討伐の依頼は完了した。
ヴェルゼバが消滅したことで食料を収める必要もなくなり、イモを育てることが出来ればゴブリンたちも飢餓に苦しむことはなくなるだろう。
二度と野菜を盗まないと誓ってくれたし、めでたしめでたしだ。
外へ出た私たちは星空の下、設置したまま放置していたテントに戻り食事を摂っていた。
キリアの作ってくれたご飯はとても美味しく、疲れていたこともあり皆一心不乱に食べている。
いやー、ホント美味しいよ。いいお嫁さんになれるねキリア。
「それにしても本当に言うつもりはないの? この地下帝国のこと、報告すればきっと冒険者ランクも上がるわよ」
「いいんだよレジーナ。だってそうしたら、調査隊が向かうことになるでしょ?」
帰りに正規のルートでダンジョンを帰ってみたけど、言うだけあってかなりの罠や魔物が存在しており、すごく楽し――じゃなくて大変だった。
もし調査隊が入ったら、とんでもない被害を被るだろう。
それに無事辿り着いたとしたら、それはそれで平和に暮らすゴブリンたちを脅かすことにもなる。
ここは黙っておくのが得策だ。
「それに、あまり早くランクを上げてもつまらないじゃない」
私はもっと冒険者生活を楽しみたいのだ。
ゆっくりと、じっくりと、ね。
「ふっ、それがいい。アゼリア君はまだまだ力の制御が出来ていないからな。……全く、あんな戦い方、僕は教えてないぞ」
「へへへ、ごめんねキリア」
戦いが終わって外から見るとそりゃもう、酷い有様であった。
それでも剣で戦ったからこそ、あれだけの被害で済んだのだ。そこは評価して欲しいものである。
もしキリアに剣術を教わってなければ私も普通に戦うしかなかった。
真祖である私が普通に戦ったら、そりゃもうとんでもない事になっていただろう。考えただけでも恐ろしい。
「あ、もちろんメフィが助けてくれたのもね」
「わ、私は別に……」
頭に載っているメフィを撫でる。
あそこでメフィが飛び込んで来なければ皆も危なかったかもしれない。
こうして私たちが立っているのも、皆のおかげだ。いやぁ、仲間ってのはいいものだなぁ。
「私も少しは『物語』の冒険者らしくなってきたかな」
「いやぁ、それはどうでしょうかねぇ……」
メフィが静かにツッコんでくる。
……まぁ、ほんの少し、若干、多少、僅かに『物語』の冒険者像とはズレている気がしないでもないが、別にいいのだ。
だってこれが私の『物語』なのだから。
――さぁ次は何をしよう。レア素材を集める? エルフの森へ行く? それとも王女様を助ける?
いいじゃないの。何なら全部やっちゃおう。
次なる冒険者への期待を胸に抱きながら、私はごろんと大の字に寝転ぶ。
見上げた夜空には無数の星が並び、まるで私が向かうべき道を示しているかのようだった。
私は星の流れるその様子を、ただじっと眺めていたのである。
「ぶはっ!」
メフィの言葉にゲホゲホとむせる。
「いやっ、あれはハエとかじゃないから。そういう形はしていたかもしれないけど、基本的には無数の小さい魔力体! 概念的な奴! ばっちいとかそういうのはないから大丈夫だよ!」
流石に令嬢らしくない絵面だったかもしれないな。
他に方法はなかったとはいえ、確かにもう少しスマートに倒せればより良かったのだが……済んでしまったことは仕方ない。
「だったら良いのですが……というかその……そういうのが言いたかったのではなくてですね……」
何やらバツが悪そうに頬を掻くメフィ。何か言い淀んでいるようだ。
どうしたのかと思っていると、意を決したように頭を下げてくる。
「あの、申し訳ありませんでしたっ!」
「な、なにっ!? いきなりどうしたの?」
驚く私にメフィは言葉を続ける。
「私、ご主人様を見捨てて逃げ出してしまいました。あそこにいるのが怖かった。耐えられなかったんです。戦いが終わるまで安全なところで隠れてるつもりだったんですよ。あまつさえヴェルゼバが勝ったらそっちに付こうとすら考えてて……」
「なんだ、そんなことか」
いきなり神妙な顔をするからびっくりしたじゃないの。私は安堵の息を吐く。
「全然気にしなくていいよ。だって皆を助けてくれたじゃないの」
「そりゃあのまま放っては……とはいえ勝てそうだったから戻ってきただけです。普通なら卑怯と怒るところじゃないですか。それこそ『物語』とかでもそうでしょう?」
自分を責めろと言わんばかりのメフィの言葉に、私は首を横に振った。
「そんなことないってば。仲間が逃げ出すなんて『物語』でもよくあることだよ。けれど彼らは最後には必ず帰ってきていた。だから私もメフィが逃げるわけないって信じてたもの」
「……どうしてこんな日和見主義のコウモリ女を信じられるんです? そんなに夢見がちなことが言えるんですか?」
「冒険者だから」
私の好きな『物語』の冒険者は、愚かだ、考えなしだ、夢見がちだと言われても、真っ直ぐに仲間を信じ続けていた。
だから、それこそが冒険者にとって最も大事なことだと私は思う。故にメフィが私から離れた時だって、逃げ出したとかそんなことは微塵も思わなかったのだ。
「でもあそこで攻撃を仕掛けた時はヒヤッとしたよー。結構命知らずだよねメフィってば」
「んなっ! そ、それは思わず……」
顔を赤らめるメフィに、私はにっこりと笑いかける。
「だから――ありがとうメフィ。これからもよろしく」
「――っ!」
メフィは顔を真っ赤にして声を詰まらせると、そのまま恥ずかしそうに私の頭に載る。
「その、こちらこそ……」
すごく小さな声だったが、生憎と耳がいいもので。メフィの言葉はよく聞こえていた。
◇
こうしてゴブリン討伐の依頼は完了した。
ヴェルゼバが消滅したことで食料を収める必要もなくなり、イモを育てることが出来ればゴブリンたちも飢餓に苦しむことはなくなるだろう。
二度と野菜を盗まないと誓ってくれたし、めでたしめでたしだ。
外へ出た私たちは星空の下、設置したまま放置していたテントに戻り食事を摂っていた。
キリアの作ってくれたご飯はとても美味しく、疲れていたこともあり皆一心不乱に食べている。
いやー、ホント美味しいよ。いいお嫁さんになれるねキリア。
「それにしても本当に言うつもりはないの? この地下帝国のこと、報告すればきっと冒険者ランクも上がるわよ」
「いいんだよレジーナ。だってそうしたら、調査隊が向かうことになるでしょ?」
帰りに正規のルートでダンジョンを帰ってみたけど、言うだけあってかなりの罠や魔物が存在しており、すごく楽し――じゃなくて大変だった。
もし調査隊が入ったら、とんでもない被害を被るだろう。
それに無事辿り着いたとしたら、それはそれで平和に暮らすゴブリンたちを脅かすことにもなる。
ここは黙っておくのが得策だ。
「それに、あまり早くランクを上げてもつまらないじゃない」
私はもっと冒険者生活を楽しみたいのだ。
ゆっくりと、じっくりと、ね。
「ふっ、それがいい。アゼリア君はまだまだ力の制御が出来ていないからな。……全く、あんな戦い方、僕は教えてないぞ」
「へへへ、ごめんねキリア」
戦いが終わって外から見るとそりゃもう、酷い有様であった。
それでも剣で戦ったからこそ、あれだけの被害で済んだのだ。そこは評価して欲しいものである。
もしキリアに剣術を教わってなければ私も普通に戦うしかなかった。
真祖である私が普通に戦ったら、そりゃもうとんでもない事になっていただろう。考えただけでも恐ろしい。
「あ、もちろんメフィが助けてくれたのもね」
「わ、私は別に……」
頭に載っているメフィを撫でる。
あそこでメフィが飛び込んで来なければ皆も危なかったかもしれない。
こうして私たちが立っているのも、皆のおかげだ。いやぁ、仲間ってのはいいものだなぁ。
「私も少しは『物語』の冒険者らしくなってきたかな」
「いやぁ、それはどうでしょうかねぇ……」
メフィが静かにツッコんでくる。
……まぁ、ほんの少し、若干、多少、僅かに『物語』の冒険者像とはズレている気がしないでもないが、別にいいのだ。
だってこれが私の『物語』なのだから。
――さぁ次は何をしよう。レア素材を集める? エルフの森へ行く? それとも王女様を助ける?
いいじゃないの。何なら全部やっちゃおう。
次なる冒険者への期待を胸に抱きながら、私はごろんと大の字に寝転ぶ。
見上げた夜空には無数の星が並び、まるで私が向かうべき道を示しているかのようだった。
私は星の流れるその様子を、ただじっと眺めていたのである。
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