チート夫婦のお気楽異世界生活

謙虚なサークル

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宿屋とギルドと二人

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「おおーっ! 人がいっぱいいるねー!」

 今までいた村とはなんだったのかというくらいの、人、人、人……
 王都というだけの事はある。
 今は大通りを通っているわけだが、視界内だけでも百人ちかくはいるんじゃないか?
 地方の都市駅くらいの密度だ。

「迷子になるなよー」
「大丈夫だって、多分」

 多分じゃ困るので手をつないでおく。
 何せ迷子の放送とかもないのだ。
 それに慣れない街だしな。
 カオリは少し戸惑い気味ではあったが、手を離すことはなかった。

「あれが宿っぽいな」

『INN』と描かれた看板がぶら下がった大きな家。
 凄く宿屋っぽいオーラを感じる。
 ゲームで培ったカンだ。

「わーほんとだ。それっぽーい」
「中に入ってみようか」
「ごめーんくださーい!」

 扉を開けるとからんからんとベルが鳴る。
 入り口は酒場のような作りになっており、カウンターではメイド服っぽいお嬢さんが座っていた。

「あの人が受付かな」
「ぽいな……すみませーん」

 カウンターにまっすぐ歩いていく。
 何だか周囲の視線を感じる。
 こういう時は気にしないに限る。俺は敢えて空気を読まない男だ。

「えーと、一晩泊まりたいんだけど」
「失礼ですが、あなた方は?」
「ユキトとカオリ、分け合って旅をしている。この街へは買い物に来た」
「……そうでしたか。道理で」

 メイドさんはふっと優雅に笑う。
 あら、もしかしてここは宿じゃあなかったか?

「ここは冒険者ギルドです。宿は二階ですよ」
「あぁーなるほど」

 違ったとはいえ、当たらずも遠からずだったか。よかったよかった。
 そういえば『INN』の看板は二階に掲げてあったよな。

「じゃあ俺たちはこの辺で……」
「待ちな、兄ちゃん」

 俺の隣、カウンターに座っていた男が声をかけてくる。
 顔に数本ぶっとい傷が入ったヤクザみたいな男だ。
 身体はゴツいし顔もイカつい、そして立ち上がると俺の背より20センチはデカい。

「女連れで冒険者たぁよう。へへ、いい身分じゃねぇか」
「いや、俺ら冒険者じゃねーし」
「あぁん!? 冒険者じゃなかったらギルドに用はねぇだろが! ……ひっく」

 この男、顔は真っ赤だし呂律も回ってない。
 酔っているようだ。
 メイドさんが慌てて止めに入る。

「ダルギスさん! この方はただの旅人です。二階の宿に泊まりに来たお客さんですよ!」
「なんだぁ!? メルちゃんまでこの男の味方をするのかよぉ!?」
「いえそうでなくて……酔いすぎです。しっかりしてください! 勘違いなんですよ!」
「そんなぁ!? 俺、メルちゃんの事……メルちゃんの事……てめぇーーーーっ!」

 涙目でメイド……メルちゃんに縋りついていた男だったが、突如ブチ切れて俺の襟首を掴んだ。
 酔っぱらいの思考がスピーディーすぎて、展開についていけない。
 いくら何でも酔いすぎだろ。悪酔いここに極まれり。

 メルの方をちらりと見るが、申し訳なさそうに頭を下げた。
 はー、もう今日はよく絡まれる日だ。
 しゃあない。降りかかる火の粉は払わねばなるまい。

 火の魔法で驚かせようとした時である。
 男の手首をカオリが掴み、捻り上げた。

「い……ッ! いでででででぇーーーーっ!」
「ちょっとぉー? 私の連れになにしてくれてるのかしらぁー?」
「あぎゃあああああああッ!?」

 カオリが力を込めると、男の腕がミシミシいい始める。
 ちょま、腕ねじ切れるぞおい。
 人体が曲がっていい角度じゃない。

「馬……鹿、力のゴリラ女がぁぁぁ!」
「おほほほほ、ゴリラ女とは失礼極まるねー。言っとくけど、ユキトくんは私よりも強いよ~」
「だから煽るなってば」

 すっかり酔いが覚めたのか、男はカオリから腕を払うと悔しげに睨み付けてくる。
 だーもう無茶しやがって。

「ははははは……じゃあ俺たちはこの辺で」
「あんもうユキトくんてば!」

 俺はカオリの手を取ると、その場を走り去るのだった。
 背中に周囲の視線が突き刺さるのを感じるが、今度は確実に気のせいではないだろう。



「いらっしゃいませお客様。白豚亭へようこそ」

 階段を上がると争いとは無縁そうな柔和な雰囲気の若女将さんに出迎えられた。
 いい人オーラがすごく出てる。そして巨乳だ。
 しかしそちらには出来るだけ視線を向けないようにしておく。
 後でカオリが怖い。

「大人2人でよろしく。一番高い部屋で」
「はい、承りました。こちらへどうぞ」

 安部屋は危なそうだからやめておく。
 何せさっきトラブルを起こしたばかりだ。
 まさか押し入っては来ないだろうが、万一ということもある。

「おおー! すっごくいい部屋だねー!」

 通されたのは白壁に塗られた見るからに高級っぽいお部屋。
 広いだけでなく、天蓋付きのベッドに室内風呂もある。
 こんないい部屋があるとは、王都すげぇ。

「ごゆっくりどうぞ。……あぁ時々下がうるさいかもしれませんが、勘弁してあげて下さいね」
「やはりうるさいですか」
「えぇそりゃあもう。防犯も兼ねてここに宿を構えましたけど、いつもドッタンバッタン大騒ぎなんですよぉ。さっきもホラ」
「あー……」

 実はさっきのは俺らがメインだったわけだが……そんなことを言えるはずもなく、俺はカオリと顔を合わせるのだった。
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