上 下
22 / 44

シャボン玉飛ばす二人

しおりを挟む
 その後、ギュードの群れを探したが見つからず、とりあえず本日の狩りは終了である。
 あっさり捕まえられるかと思ったが、意外と苦戦するもんだ。
 鳥肉の燻製に塩コショウをかけ、口いっぱいにほおばる。

「本当なら今頃、霜降り肉のBBQだったんだけどなぁ」
「あはは、こっちもヘルシーでいいじゃん?」
「たまには脂っこいのも食べたいんだよ」

 食べられないとわかると余計に、である。
 くそう、胃袋が脂分を欲しがってるぜ。

「まぁ獲れなかったのはしゃーないよ。明日またがんばろー!」
「だなー」

 カオリの言う通りだ。へこんでいてもしょうがない。
 考えなきゃいけないなら考えるだけの話だ。簡単だ。
 食事が終わった俺は、風呂に入りながらゆっくり考える。

(奴らが逃げるってのなら逃げ道を塞ぐ……? だがあの巨体は無理だろうな。ならいっそ……)

 水の中で息を吐くと、ぶくぶくと泡が浮かんでは消えていく。
 泡、泡か……なるほど、やってみる価値はあるかもしれない!

 ――――翌日、俺たちは早起きし、早速ギュード狩りにくりだした。
 今日こそは必ず捕らえる。

「おー、燃えてるねーユキトくん」
「ふふふ、我に必勝の手あり、というやつだ」
「自信満々ーこりゃあ期待できるね! やったね!」
「……ま、そこまで期待されてもその、つらいんだが」

 必勝は言い過ぎだが、手はある。
 ともあれまずは群れを見つけない事にはどうしようもない。
 時折カオリにジャンプさせながら、索敵を行うこと1時間-―――

「お! いたよいたよー! あっちにいっぱい!」
「よし、とりあえず近づこう」
「ほいー」

 俺たちは先日と同じように、群れの近くまで近寄った。

「んでんで、必中の手ってのはなになに?」
「む、あまり期待されるとちょっと困るんだがな」

 アイテムボックスから取り出したのは、バケツ代わりに使っているポーションの空ビン。
 そこへは氷の魔法と火の魔法で作った水がはいっている。
 更に、他のものも色々と。

「何かの液体?」
「すぐにわかるさ」
「あーーーーっ!」

 もう一つ取り出したもので、カオリも察しがついたようだ。
 取り出したるは針金を曲げて作った、輪。
 これを液の中に浸けると、輪の中に膜が出来ていた。
 そう、もうお分かりだろう。

「シャボン玉!」
「いえーす」

 少々特別性だがな。
 俺は大きく息を吸うと、シャボン膜の前でゆっくり吐いた。

 ぷーーーーー、と大きなシャボン玉が幾つが生まれ、ギュードの方へと飛んでいく。

「なるほど!好奇心を刺激してこちらに誘き寄せる作戦ね!」
「あぁ、コントロールは火の魔法である程度可能だ」

 火の魔法により生まれる熱波で、シャボン玉をギュードの群れまで運ぶ予定である。

「でもあそこまでシャボン玉、もつ?結構遠いよ?」
「あのシャボン玉は特別性なのさ。まぁ見てろ」

 火に運ばれて飛んでいくシャボン玉は、50メートル程移動しても割れる気配がない。

「おーーーー? 確かに割れないねぇー? どうやったん?」
「タネは蜂蜜だ」

 シャボン玉は砂糖や蜂蜜など、甘いものを混ぜると耐久力が大幅に上がる。
 ちなみに食べちゃダメ。絶対。

「モ?」

 一匹がシャボン玉に気づいたようだ。
 火を動かし、シャボン玉を揺らして更に興味を引かせる。
 ギュードはこちらに移動してきた。
 よしよし、いいぞーそのままそのまま。

「おおっ! やるねやるねやるねー! 」

 ゆっくりとではあるが、ギュードは群れを離れこちらに近寄ってくる。
 あと500メートル、400、300……
 群れから大分離れ、もう大丈夫かと思ったその時である。

 不意に、イタズラな風が吹いた。
 マズい。最悪のタイミング――――シャボン玉は風に吹き飛ばされてしまった。
 しばらくシャボン玉を見上げていたギュードだったが、思い出したかのように群れへと帰ろうとする。
 ――――帰ろうとしたギュードだったが、動きが止まった。

「んぎぎぎぎ……」

 ギュードの尻尾をカオリが掴んだのだ。
 必死に掴んではいるが、滑ってすっぽ抜けそうである。
 その前に俺は火の魔法を念じ、ギュードの背に火を放った。

「モ? モ……? ゥゥゥモ……ォォォォォォォッッッ!?」
「おわっと!?」

 半狂乱になって暴れまわるギュード。
 地面に転がり火を消した。背中に残った焦げ跡から煙を上げながら、立ち上がる。

「モォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 そして一鳴きすると、俺たちに向け突進してきた。

「カオリ!」
「あいあいさー!」

 カオリは俺の前に立ちふさがり、ギュードはそこへ突っ込んでくる。
 鋭い角がカオリに突き刺さる直前、両手でがっしとその双角を掴み取った。
 がっぷりよっつ、迫力のせめぎ合いである。

「モ……ゥゥゥゥゥ……!」
「ふ、ふふふ……中々パワーあるじゃない」

 カオリの脚が地面に沈んでいく。
 少し押されているようだ。
 いくらカオリでもあの巨体相手では部が悪そうだ。
 ここはひとつ、あの手でいくか。

「カオリ!もう少し耐えてくれ!」
「うひ……ぃ……結構……キツイ……よ、これ……っ!」

 割と限界近いのか、カオリの顔は真っ赤だ。
 とっとと決めてしまわないとな。

「氷よ」

 俺は地面に手をつけると、氷の魔法を発動させる。
 氷は地面を這うようにして広がっていき、カオリとギュードをも飲み込んでいく。

「モ!?」
「ちょ!ユキトくん!?私まで巻き込まれてるんですけど!?」
「大丈夫大丈夫、多分」
「多分てどういうことすかー!?」

 カオリの悲鳴を無視し、氷を更に広げていく。
 氷を魔法最大出力、辺りは一面氷に包まれた。

「さむーーーい!!」

 カオリの吐く息は白く、ギュードも突然の事態に戸惑っているようだ。
 何せ脚が氷に覆われたのである。
 焦るのも当然だ。

(ってかやべぇ、めっちゃ疲れるこれ!)

 出力最大の氷の魔法は精神にクる。
 だがここで気を失う訳にはいかない。

 カオリへの攻撃を止めたギュードは、ともかく脱出しようと両足に力を込める。
 氷の破片を撒き散らしながら足を引き抜くギュードだったが……

「モッ!?」

 つるん、と滑り、転んでしまった。
 ガラスの割れるような音と共に地面に叩きつけられたギュードは、起き上がれずにもがいている。
 巨体であればあるほど、立ち上がるのに力を要するものだ。
 競走馬などもレース中に転倒してまえば、二度と立ち上がれなることも多い。
 しかも足場は全て氷。

「モ……ゥゥゥゥゥ……」

 ギュードの動きが、止まった。
しおりを挟む

処理中です...