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肉を食べる二人

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「じゃーさっそく焼こう! BBQ大会だ!」
「ひゃっはー!肉だ肉だー!」

 石を積み上げ台座にし、金網の上に置く。
 枯れ木を集めて下に敷けば、準備は完了だ。

「さー食べよう、今食べよう、すぐ食べよう」
「燃えろ」

 俺が火の魔法を発動させると、あっという間に金網は赤く染まっていく。
 頃合いだ。

「じゃあダルギス、肉を焼いてくれ」
「よしきた!」

 出番をあげないのもそろそろ可哀想なので、ダルギスに肉を焼いてもらうことにする。
 肉奉行として大いに活躍してくれ。俺は食べる係な。
 金網に乗せられた肉は、瞬く間に白い煙を上げ赤黒くなっていく。
 んーいいにおい。焼き肉って感じだ。

「タレがあれば最高なんだけどなーん」
「実は街でレモンみたいなのがあったから、買ってきたんだ。塩コショウにこれで食べようぜ」

 レモンを小皿に絞り、肉に塩コショウを振りかける。
 さっぱり系の食べ方だ。焼き肉のタレもいいが、これも美味い。

「見た事ねぇ食べ方するな……大丈夫なのかよ」
「まぁまぁ食ってみなせぇ」

 恐る恐る肉を口に入れるダルギス。
 もぐもぐと口を動かしていたかと思うと、突如その目が見開かれた。

「う、美味いッッ!! なんだこれは! 本来甘めのギュードの肉に! あっさりとしたレモンと塩が! 互いが互いを最大限に高め合うッ!!」
「……あ、そう」

 塩とレモンでよくもまぁそれだけ言葉が並ぶものである。
 料理マンガかよ。

「これならいくらでも食べられるぜ!」
「あっ! てめ、こっちは火の番から離れられなってのに!」

 風が強いおかげで、俺がコントロールしていないと火がすぐに消えてしまうのだ。
 おかげで食べてる暇がない。
 恨めしくダルギスを睨む俺に、カオリが肉を差し出して来た。

「ユキトくんには私があーんしてあげるよ。ほら」
「えっ……うーん……」

 ここでかーい。
 しかもバーベキューであーんとか、聞いた事ないぞ。
 熱くて舌が火傷しそうだ。
 それにダルギスがいるんだが……とはいえ恥ずかしいけど、腹が減ってるのも事実。

「ほらほら、あーんってば」
「……へいへい」

 諦めて口を開けると、カオリは満足そうに俺の方に肉を放り込む。
 あっっっっっつ!! 肉を舌の上で転がしながら、何と冷めたそれをゆっくりと噛みしめる。

 ギュードの肉はしっかりと脂の乗っており、A5ランク相当の肉を彷彿とさせる。
 いや、食べた事ないけど、テレビとかで見る肉と比べて遜色ないレベルに思われた。
 流石Aランク魔獣。

 ジュワッと広がる肉の旨み、それを引き立てる爽やかなレモン。
 うむ、確かに美味い!

「おーいしー!」

 カオリもご満悦のようだ。
 それはいいが俺にも食べさせろ。
 腹減って仕方ないぞ。

「へっ、じゃあ俺が食わせてやろうかい?」
「……野郎のはいらん」

 からかうように肉を向けてくるダルギス。
 気持ち悪いからやめろ。

「おっと、BLかな?」
「違う」

 ついでにカオリも反応すんな。
 ダルギスがキョトンとしてるじゃねぇか。


「ふいー。食った食った」
「久々に肉って感じの肉を食べたな」
「なにそれー肉は肉じゃん?」
「燻製や干し肉はスルメみたいなもんだ。ヘルシーすぎるんだよなぁ」
「私的にはそっちも好きだけどねーヘルシーで美容にいいし♪」
「最近の研究では油分もお肌にいいらしいぞ」
「なんですよー!?」

 よくわからんがネットで見た記憶がある。
 事実は知らない。

「……さっきから一体、何の話をしてるんだい?」
「んー、健康について?」
「あんたら、十分健康そうに見えるがねぇ」
「それを維持するための話なのだよ」

 健康ってのは害してからでは遅いのだ。
 常日頃から気を使っておく必要がある。

「まぁいいや。たらふく食ったしよ。街へ戻らねぇか?」
「そうだね。お肉もまだ余ってるし、街で色々料理して食べよー!」
「というかさ、先にスキルで解体して置けばここまでしんどい思いをして運んでくることもなかったよな」
「ち、ちょっと気づくのが遅れただけなんだからっ! 勘違いしないでよねっ!」

 何をどう勘違いするなと言うのか。
 とりあえず使ってみたかったっぽい。
 まぁオタクにはよくあることである。

 肉は俺のアイテムボックスに入れ、そのまま徒歩で歩いて帰る。
 アイテムボックスの一部は冷凍、冷蔵室にしているので、これだけ肉があればしばらく食料の心配はないな。
 というかむしろ食べきれないかもしれない。うーむどうしたものか。

「なぁユキトよ。その肉、あとで売ってくれねぇか?」

 俺の考えを見越したかのように、ダルギスが声をかけてくる。
 というか元々、こいつはギュードの肉を欲しがってたんだっけか。

「実は俺、自前で食堂を持っててよ。そこで出してる魔獣の肉が大好評なんだわ。特にギュードの肉がな」
「もしかして、それで冒険者やってるのか?」
「まぁな。でも俺、経営なんてガラじゃねぇんだ。身体を動かしてる方が性に合ってる」

 それには同意である。
 こいつも自分なりの生き方をしているんだな。
 曲がりなりにも貴族の息子ってわけか。ただのお調子者ではないという事だろう。

 そんなこんなで街へ帰ってきた。
 日は暮れ、夕飯時である。

「さて、調理器具もあるし、今度は俺が手ずからステーキを御馳走しようかな?」
「いえー! ぱちぱちぱち」

 昼も肉、夜も肉で、本来なら胃がもたないところだが、若返った身体はそれでも肉を欲していた。
 ここなら調理器具も揃ってるし、そんなわけでステーキだ。

「ステーキねぇ、こっちでも食べただろ? 好きなのかい?」
「まぁまぁ、とりあえず食べてみようや」
「ユキトくんのステーキは絶品なんだよー」
「はーん。ステーキなんざ誰が作っても似たようなもんだと思うがなぁ。焼くだけじゃねぇか?」

 おっと言ってくれるじゃねぇか。
 ならば本当のステーキってやつをお見せしますよ。

「厨房、借りるぜ」

 二人を待たせ、俺は厨房へと入る。
 おー鍋にフライパン、まな板、包丁がいっぱい並んでる。
 あとで一式貰っておこう。
 それはそれとして調理を開始する。

 肉に切れ込みをいれ、常温に戻しつつ、フライパンを熱しておく。
 余談だがこの厨房にあるコンロのようなものは、魔力で火をつけているらしい。
 コンロに常備されている魔石が炎を生むのだとか。
 魔力がなくなれば充填の必要があり、初心者魔導士などはよく来れて小遣いを稼いでいるのだとか。

 塩コショウを振り、フライパンに投入。
 1分ほど焼いてひっくり返し、今度は30秒。
 よしよし、いい焼き具合だ。

「さーできたぞー!」

 テーブルにフライパンごと持っていく。
 と、お客さんが数名増えていた。
 ダルギスの父親と、もう一人――――

「ツェルトさんじゃないか」
「これはお久しぶりです。ユキトさん。本当のステーキとやらを御馳走してくださると聞きまして」
「わしらも興味がそそられてのう」

 おいめちゃめちゃハードル上げてくれてるじゃねーの。
 カオリを睨み付けると、わざとらしく口笛を吹いて目をそらした。
 ふふん、そう言う事ならさらにハードルを上げてやろうじゃないか。

「じゃあ、注目」
「おおっ、アレをやるんだねユキトくん」
「おうよ。よく見てくんな。お客さん方」

 フライパンのふたを開け、取り出した酒を軽く振りかける。
 すると青い炎がフライパンの上で、ぼうと燃え踊った。

「おお~~~!」

 フランベというやつだ。
 香り付けだが、見た目的にもオイシイ。
 そこへ厨房から持ってきたソースをかけて差し出す。

「どうぞ、召し上がれ」

 皿に盛りつけたステーキを、皆は美味そうに食べている。

「うめぇ! やべぇ!」
「確かに……肉は柔らかいし、香りもいい」
「む! これがステーキか!? 私の知っているものとはずいぶんと違う……」

 大分好評のようである。
 どうやら上げた分のハードルは跳べたようだ。
 よかったよかった。
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