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痴女と二人

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「うー、周囲の視線を感じるよー」
「まぁ変わった服なのは間違いないしな」

 道行く俺たちとすれ違う人は、必ずと言っていいほどこちらを振り返っていた。
 遠巻きに眺める人も結構いるみたいだ。
 普通のファンタジーをイメージしたつもりではあるが、俺たちの世界風ファンタジーである事に変わりはない。
 こちらの世界観とは少しズレてるかもな。

 メアリは大層気に入ってたけど、少々目立っているようである。
 ちなみに彼女、俺たちに別れを告げた後も、新しい服を作りたくてウズウズしてた感じだった。
 随分と創作意欲を駆り立てられたらしい。
 カオリ的には迷惑だったかもしれないが。

「うぅ……はずかちー」
「ったく、露出は大分減っただろ?」

 カオリの要望で服は大分露出度が減り、最初と比べると悲しい程に露出が減っていた。
 身体のラインは出てるから、それが恥ずかしいのだろうか。
 普段の様子からは想像もできないが、カオリは意外と恥ずかしがり屋である。

「まぁ露出……ってのもあるけど、もう半分はコスプレ感がねー」
「コスプレ好きじゃん、カオリ」
「いあいあいあ、コスプレは然るべき場所でやるから楽しいんだよ! ハロウィンとかコミケとか、お祭りだから楽しいんだって! 日常でやるもんじゃないの!」
「それを言うとこの世界自体、日常とは程遠い気がするが」
「それはそれ、これはこれ、だよ」
「ったく……じゃあどういう服がよかったんだよ」
「んーーーーーー、そうだねーーーーー」

 俺の問いに、カオリは道行く人たちをじっと凝視し始める。

「あそこの村人っぽい格好はちょい地味だけど悪くないし、そこの剣を腰に下げた女の人も、鎧が重そうだけど格好いいよねーあとあと、向こうの商人さんも可愛い!」

 解説しながらも語り出すカオリ。
 おいおいあんまり見るなよ。ただでさえ俺たち、絡まれやすいんだから。
 と、言いつつ俺の視界に一人、特徴的な服装の女性が入った。

「じゃあさカオリ、ああいうのは?」

 魔法使い風の女性に目くばせをすると、カオリも俺の向いた方を向く。
 黒い帽子に木製の杖、それはまぁよくある魔法使い的なものであるが、胸元が開くどころか上半身ほぼ裸で、胸の部分だけが申し訳程度に隠された衣服。
 へそまで見えており、紐と布で着合わせたその服は着る苦労を思わずにはいられない。
 下半身は長いスカートで覆われてはいるものの、ざっくりと腰上まで裂けたスリットの奥には生足がのぞいている。
 隙間からは下着もちらちらと見えており、その様相は控えめに言って、痴女。

「いやーあれはないっすわー」

 と、ばっさり切り捨てるカオリ。

「魔法使いっぽい服、憧れるって言ってなかったっけ?」
「それはそうだけど……もーちょい野暮ったい方が好みかなー。あれは攻めすぎなんだよねー」
「確かに、エロいのも度を過ぎるとな」
「ねー」

 あぁいうのは二次ではむしろ好みの部類だが、リアルで見ると結構引いちゃうもんだなー。
 やーでもエロい。こんな女性が街中を歩き回っているなんて、この世界の男性はある意味大変だろう。
 そんな感じでヒソヒソ言ってると、女魔法使いが俺たちの方へと明確に歩み寄ってきた。
 やべっ、ちょっとじろじろ見すぎたかもしれん。

(ちょーどうすんのさユキトくん! こっち来るじゃん!)
(見なかったフリするぞ)
(無理無理! もう目、合っちゃったし)
(不用意に目を合わすなって教わらなかったのかよ!)
(むしろ人と話す時はちゃんと目を合わせろと教わりました)
(話してないしー)
(ですよねー)

 小声で言い合う間にも女魔法使いの歩みは止まらず、ついに俺たちの前に立つ。
 止まった拍子にその巨乳がふるんと揺れた。
 でかい。

「あなたたち」
「「はい」」

 女魔法使いに鋭い目で睨まれ、俺たちは同時に返事を返す。
 きつい感じの美人さんで、ちょっと苦手なタイプだ。

「変わった格好だけど、それ魔導礼装よね。魔導師協会ギルドの新顔かしら?」

 いきなり専門用語が出てきたが、当然知る由もない。
 俺は只々首を振る。

「いやーただの通行人Aですよ。服は仕立ててもらっただけで」
「そ、そーそー! 私たちただの旅人ですよー!」
「そうかしら? そうは見えないけれど……特にそこのアナタ、強い魔の気配がするわ。魔導を扱う者特有の、むせ返る様な濃いニオイが……」
「ちょ、マジ? なぁカオリ、俺くさい?」
「くんくん、ん~別にくさくはないよ。多分」

 カオリが俺の首元辺りをくんくんと嗅ぐが、どうやら特にニオイはないようだ。
 よかった。慣れない異世界生活だからな。臭くなったかとマジで心配したぜ。

「ぷっ、くすくす、アナタたち面白い反応するわね」
「えーそうっすかー?」

 カオリの目は「アンタの格好の方が面白い」と言っていたが、言わぬよう視線で釘を刺しておく。
 わかってるって、とウインクを返してきたが、怪しいもんだ。
 なにせカオリの口はハクセキレイの羽よりも軽い。

「何で俺が魔法を使えるってわかった?」
「私も魔導師だから……アナタたちだって自分と相手が近しい存在かどうか、なんとなくわかるでしょう? それと同じよ」

 確かに、言われてみればオタクな奴はどんなに隠そうとも同類から見ればオタクだとわかるもんだ。
 それと同じようなもんか。だったらわかっちゃうかー納得だわー。

「ねぇアナタたち。ちょっと付き合いなさいな」

 女魔法使いの誘いに、俺たちは顔を見合わせる。

「そんな警戒しないで。ちょっと興味あって話ししたいだけよ。すぐそこの喫茶店の窓際の席。ならいいでょ?」
「んー、でもなー……」
「奢るわよ?」
「いくっ!!」

 さっきまで渋い顔をしていたカオリが全力で食いついた。
 奢りに弱すぎである。知らない人について行くなよ全く。
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