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友達がいないが問題はない

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鐘が鳴る。
ここは決闘者を育成する機関、グランド・ウィザーズ・アカデミア。通称学園である。
ゲーム内で主人公たちが通っている学園で、バルス……つまり俺もまたここに所属しているのだ。

「しかし……マジで嫌われてるのね。バルスって」

道を歩く俺に向けられる嫌悪の眼差しをひしひしと感じる。
ま、ある意味ではラッキーかもな。最初から嫌われているならチートデッキを使うのも気に病まないというものだ。
でもこんな状況でデュエルをしてくれる人がいるのだろうか。むしろそっちの方が不安である。

「おうバルスじゃねぇか!」
「相変わらずシケた顔ですねぇ。君ってやつは」

後ろから聞こえてきた声に振り向くと、そこにいたのはヒョロ長い男とチビの男。
こいつらはバルスと同じく腰巾着で、ローガスとドラムゴだ。
ゲームではこの三人、よくつるんでいたっけ。嫌われ者のバルスにもちゃんと友達もいたんだなと一安心する。
これから学園生活を送る上で友達の一人もいないというのは結構辛いしな。よかったよかった。

「やぁ、ザコル、カマセラ、おはよう。いい朝だね」

俺が挨拶すると二人は一瞬目を丸くし、すぐに機嫌悪そうに舌打ちをした。
む、一体どうした? なんか変なこと言っただろうか?
首を傾げていると二人は俺を威圧するように取り囲む。

「……なんかこいつ、今日生意気じゃね?」
「ですねぇ。もしかして俺らのことを友達か何かかと思ってるんじゃないですかぁ?」

……え? 違うの?
困惑しているとザコルが俺の襟首を掴み、ガンをつけてくる。

「お前は俺らの友達でもなんでもねぇだろうがぁ! ただのパシリが偉そうにタメ口聞いてんじゃねぇよ! タコ助がよぉ!」
「その通りですよ! 僕たちは全然対等じゃないんですから! 反省するなら這いつくばって土下座して下さいよ! そしたら許してあげなくもないですよ!?」

なんてことだ。同じかませ犬ABCだと思っていたが、バルスはその中でも一番の下っ端だったらしい。
……そういえば会話パートでも、微妙にハブにされていたというか、時々ジュースとか買いに行かされていた気がする。
うーむ、どこでもヒエラルキーってやつはあるんだなぁ。一瞬喜んでしまったじゃないか。

「お前の家は貴族の中でも最下級、貴族になれたのが不思議なくらいの超貧乏ド底辺下級貴族だろが! 俺らと同等の身分だと思ってるつもりなら大間違いだぜ!」
「更に言えばデュエルの腕に関しては一段どころか何段も劣っていますよねぇ。君はこの学園で家柄もクソ! カードも最弱! 雑魚オブ雑魚なんですよ!? ご理解いただけましたか?」

へー、そうなのか。
こいつら毎回チートデッキで瞬殺していたからどれも同じくらいの強さだと思ってた。
ちなみにストーリーは流し読みなのでいまいち頭に入ってない。スキップしないだけマシだと思って欲しい。

「なにボケーっとしてやがる。やっぱ俺ら舐めてんだろお前。あぁコラ!?」
「最近決闘《デュエ》ってないからって思い上がっちゃダメですよねぇ!?」

二人はそんな俺を見て、互いに頷きニヤリと笑う。

「どうやら俺たちの力関係ってやつを思い出させてやらなきゃいけねぇらしいな? おいカマセラ」
「その通りですねザコル君。さぁバルス、僕たちとデュエルしようじゃありませんか! ボコボコにしてやるから覚悟しなさいッ!」
「えっ!? 本当か?」

どうやってデュエルに持ち込めばいいか色々考えていたが、まさかいきなり挑まれるとは。
流石は決闘者育成機関だ。素晴らしい。
ていうかここ最近は嫌われていたり出禁されたりで俺にデュエルを申し込んでくる奴なんて誰一人としていなかったからなぁ。
むしろ自分からしつこく誘って袖にされ続ける日々だったし。
そんな俺が人から勝負を挑まれるなんて……感動である。

「な、なに涙を流してやがるんだこいつ。気持ち悪ぃ……」
「キモい奴ですねぇ君は……頭でも打ったんでしょうか」

おっといかん。どうやらヨダレが出ていたか。嬉しさのあまりつい。
口元を拭いていると、二人は身構えてくる。

「チッ、その不気味なツラを歪ませてやるぜ! ……バインダー!」

ザコルの手元に出現する分厚い本。
辞書のようなそれには所持カードが入っている。ほうほう、この辺もゲーム準拠なんだな。
俺もまたバインダーを取り出し、向かい合う。

「じゃあ僕は審判をしましょう。特にバルス君はしょっちゅう小狡い真似をしますし、目を光らせておかねばいけませんよねぇ」

頷くカマセラだが、俺はその考えには反対だ。
カードゲームに審判なんて必要ない。それよりも必要なのは……

「なぁ二人とも、実は提案があるんだけど」
「あぁ!? 泣き言なら聞かねぇぞ!?」
「いやそうじゃなくてだね……よかったら、二人いっぺんにかかって来ない?」
「んな……ッ!?」

……そう、必要なのは対戦者だ。久しぶりの対人戦、相手が一人というのは物足りないというものである。
俺の言葉に二人は驚愕し、言葉すら失うのだった。
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