スクラップ・サバイブ

止まり木

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第二章

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『よぉ。分かってるだろうが降伏勧告だ。メインジェネレーターを止めて積荷を全部よこしな!』
 ブリッジのメインモニターに映ったのは、いかにも凶悪そうな髭面の男が開口一番そう言った。にやにやと笑いを浮かべ、通信相手であるオブライエン船長を見ている。
「降伏したら、乗客と乗務員の安全を確保してくれるんですか?」
『あ?お前らが俺に、指図出来る立場だと思ってんのか?今すぐにでも、そのブリッジに一発ぶち込んでからコンテナを分捕っても良いんだぜ?』
 その一言と、窓の外に移る海賊船を見て、最悪の相手を引き当てた事をオブライエン船長は察した。
(クソッタレ!よりにもよってこいつらですか!)
 ブリッジにある窓の向こうには、旧型の駆逐艦を改造した海賊船だった。だんだんと大きくなる海賊船の艦影にブリッジ要員達の間に暗い空気が流れる。
 現れたのは、トルーデ王国の勢力圏内でよく使われていた旧式の駆逐艦だった。先端を切り落とした二等辺三角形の側面を持つ三角錐の船体を持ち、三角錐の底面にメインの推進器が、三面ある側面には、それぞれに前から単装のビーム砲、ミサイル発射管、ブリッジの準に載せられている。三つあるブリッジの内ひとつは、他の側面にあるブリッジと違い、少し大きく作られており、そこがメインのブリッジとなっている。切り落とされたように見える先端部には、海賊団のマークが大きく描かれていた。
 中古品と思われる船体は全体的に薄汚れている。それが一層海賊船の不気味さを際立たせていた。

 宇宙海賊の仕事は、狩に近い。獲物を追い込み、手も足も出なくなったところで、船を停船させ荷物を奪う。ここで肝心なのは荷物を奪うだけで、無闇に命を奪う事はしない。そんな事をすれば、その宙域を納めている政府に目を付けられて壊滅させられてしまう。それゆえに、海賊達は貨物船に積まれているコンテナを回収すると、そそくさと撤退するのが普通の海賊の流儀だ。時には、政府の仕事してますアピールの為に、それなりに警備艦艇と一戦交えて撤退する。政府は仕事をちゃんとしてますとアピールできてwin。海賊側は、逮捕されなくてwinと言うwin-winの関係を持つ。
 だが、普通が存在すれば異常も同じように存在する。コンテナを差し出した輸送船を撃沈するのは当たり前。船員や乗客を誘拐して身代金を要求するイカレタ海賊も居る。
 ロンドモス号を拿捕した海賊もそんな異常な海賊団の一つだった。
 デットロリポップ海賊団。
 駆逐艦の機首部に描かれている海賊弾のマークは、丸いロリポップ(棒付きキャンディ)に齧りつき舌で嘗め回している髑髏。
 甘ったるそうな名前とは裏腹に、捉えた獲物は、なぶり殺しながら骨の髄までしゃぶり尽くす。子供が無邪気に他の子供を楽しげに苛めるように。子供の嫌な部分をそのまま…いや、成長させて大人になった外道の集まり、それがデットロリポップ海賊団だった。

『早くしろよ。うちの砲撃手は我慢ができねぇんだ。ちんたらしてると我慢できずにぶっ放しちまうかも知れねぇぞ?俺はそれでもかまわねぇがな』
 海賊船に搭載されている三つの単装砲は、すべてロンドモス号へとむけられ、ブリッジには先ほどから海賊船の主砲にロックされた事を告げる警報がうるさいほどに鳴っている。
「分かりました。素直に従いましょう。ですので、乗客と乗員の身の安全は…」
『それは、おめぇらの態度しだいよ』
 嗜虐の色を隠しもしない男が言う。まるで信用できない。だが、今のロンドモス号にはなすすべは無い。
「…メインジェネレータ停止。コンテナのロックを解除しろ」
「…はい。メインジェネレータ停止。コンテナのロックを解除します」
 ニトベ副船長が悔しげに復唱し、今だ大慌てで作業している機関部とコンテナを管理している部署にコンテナのロックを解除するように命令する。突然の命令に機関部とコンテナの管理をしている部署から、問い合わせが来る。それに対して現在自分達の船が海賊に拿捕されている事を伝えると、素直に命令に従った。
 ロックが外され、コンテナを固定していたアームが開いた。
 髭面の男は、ブリッジの船員達が悔しげに作業している姿をさも楽しそうに見ていた。
「あと、積荷のデータも寄越しな。いい子にしていれば、悪いようにはしねぇぜ。おい回収班を向かわせろ」
 作業を終えたのを確認すると画面外に居ると思われる部下に命令した。

「レーダーに新たな反応あり!デブリの影に隠れていたと思われます!」
 デブリの影から現れたのは、まるで骨だけの魚のような貨物船だ。その名も姿そのままにフィッシュボーン。魚の頭に当たるコックピットのある前部とエンジンなどの推進機関がある後部に分かれており、前部と後部の間に細長いキール(竜骨)で繋がっている船だ。このタイプの船はキールの周囲に囲むようにコンテナを積む。小型の割りに多くのコンテナを搭載出来、尚且つ、航続距離も長いベストセラーの貨物船だ。ベストセラーと言うだけあって、何処の国でも買うことができ、海賊などにも多く流れている。
 その貨物船の側面には、作業用のポッドが駐機していた。命令を受けるとその作業ポットは、なれた様子で、コンテナに取り付くと、乱暴にコンテナを移動させ始めた。
 コンテナとアームが接触するたびにごんごんとした音がロンドモス号の内部に響いた。
 
 その頃、乗客もただのマシントラブルでは無い事に気付き始めていた、船内通信による問い合わせや、感の良い人は、自分の荷物を纏め始めていた乗客もいた。
 クレハとサスケは、自分達の部屋の中でその様子を見ていた。
「どういう状況なのサスケ?」
「現在この船は、海賊に拿捕され、積荷のコンテナを明け渡した」
「そう。なら到着が遅れるかもしれないけど」
「いや、状況が悪いのは変わらない。船外カメラで海賊船に書かれたマークを確認した。データによるとデットロリポップ海賊団というらしい」
「デットロリポップ海賊団?何かかわいらしい名前ね」
「データベースにあった名前の由来には、"相手が死んでもしゃぶり尽くす"という意味だそうだ」
 それを聞いてクレハは、顔をしかめた。
「さっき言った事を撤回するわ。それでどうするの?」
「奴らは、今までの事件で奴らの標的となり、拿捕された船の大半は、荷物を強奪した後、破壊されている」
「酷いわね」
「奴らの小ざかしいのは"殆ど"と言う所だ。もしデットロリポップ海賊団に拿捕された船が全て破壊されていたら、標的にされた船は死に物狂いで抵抗するだろう。だが、奴らは、気まぐれに荷物を取るだけで逃がしている場合もある。それはつまり従っていれば助かるかもしれないと言う微かな希望となる。だから拿捕された船の乗組員達は、その微かな希望にすがる為に従順に荷物を差し出す。奴らは楽に獲物を取れて万々歳あとは、煮るなり焼くなり好きに出来るという事だ」
「何でそんな奴らがのさばっているのよ!とっとと捕まえるなり撃沈するなりしなさいよね!」
 憤慨するクレハ横目にサスケは続ける。
「今は、奴らはコンテナを運ぶのに必死だが、コンテナを運び終えたら、今度は何を言い出すか分からん。だから、その前にこの船から脱出する。我々が標的と言う可能性もあるからな」
 クレハが思いつめた表情で聞いた。
「私達が脱出したら…この船はどうなるの?」
「私達の感知する事でない」
 サスケの返事はそっけない。だが、碌な目にあわない事は目に見えている。
「…ねぇサスケ。あたしの考えている事が分かる?」
「いや?だが、この様な事が起きる事を想定して、どうすかは決めていただろう?」
 逃走すると言う事は追われるという事。当然追われているならそのとばっちりを受ける人間が出てくる。それは仕方のない事だ。クレハ達もそれらに気を回す余裕は無い。
 だが、逃亡生活に入って、初めてまともに会話した相手が居る船という事で情が湧いてしまったのだ。
「私達が脱出して、海賊達の目をこちらに向ける事が出来たら、この船の人達も逃げる隙が出来ないかな?」
 クレハから出た甘ちゃんとしか言いようの無い提案をサスケがばっさりと切り捨てる。
「脱出は、追っ手の目につかない様にする物だ。目に付いた時点で、その脱出は失敗だ。それに、助けるといっているが君は何様だ?逃げる事しか出来ない我々が誰かを助けるとは、おこがましいとは思わないか?そう言うのは、誰かを助けられる力を持ってから言うべきだ」
「でも、私達が居るせいでこの船の人達に迷惑を掛けるんだよ!何とかしないと!」
「我々が掛けている訳ではない。追っ手の連中が勝手に周りを巻き込んで我々に迷惑を掛けているだけに過ぎない。よって、非は我々ではなく、追っ手にある」
 その二人(正確に言えば一人と一機)の考えは、どちらも正しい考え方といえる。片方は人として、片方は論理的に。
「でもっ!」
「"でも"も"だって"も無い。我々は自分達が生き残るので精一杯だと言っている。それ以外の事に手を出すのは、自殺行為だ。君は死にたいのか?私は、絶対に生き延びるぞ?」
 機械だというのに、その無機質なはずのカメラアイには、これ以上わがままを言えば見捨てるという意思がありありと浮かんでいた。
「死にたくないわよ!分かったわよ!」
 そのカメラアイを見たクレハは、それ以上反論する事は出来なかった。
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