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第3話 王位継承権と争い
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レアル王国第3王子を助けたエストリアは、護衛達と被害を確認していた。護衛達が乗って来た馬は何とか無事に回収出来たが、泥濘みに車輪が嵌まり込んだ馬車の方が問題だった。
ただ馬に引かせたぐらいでは解決しなかったのだ。そうなるともう全員で押すなり持ち上げるなり、何かしらのひと手間が必要だ。
なまじ王族用だけあって頑丈に作られており、その重量は普通の馬車とは大違いだ。護衛達6人掛かりでも、まだ手が足りなかった。
自分達でやりますと言い切った護衛達も、流石にこれは厳しいのではと感じていた。それを見兼ねた第3王子オズワルドは、自分も手伝う事に決めた。
「すまないエストリア嬢、お願い出来ないか?」
「申し訳ございませんオズワルド様。私にはポールアックスを振り回すのが精々。こんな立派な馬車1台は流石に……」
「十分過ぎるわ! 1人で持ち上げろとは言っていない!」
「あ、なるほど」
物凄く申し訳なさそうな表情で、自身の限界について告げたエストリア。大柄な騎士ですらそう簡単に出来ない事を、平然とやってのけるだけの筋力を有している事を告白する。
当然ながら1人で持ち上げろとオズワルドは求めてなどいなかった。突然ズレた事を言い出すエストリアに、思わず渾身のツッコミを入れるオズワルド。
その意図を理解したエストリアが参加した事で、馬車の車輪は泥濘みから脱出する事が出来た。結局は王子と女性の手を借りてしまった護衛達は、深々と頭を下げて礼を告げた。
「お気になさらず、オズワルド様のお手伝いが出来ただけでも私は光栄です」
「俺からも礼を言わせてくれ。貴女の加勢、感謝する」
「いえそんな、貴族として当然の事をしたまで。それにしても、先程の者達は何者なのですか?」
「ああ、それはまあ、何というか……」
オズワルドの説明によると、王都では王位継承権を賭けた争いが起きているとの事。2ヶ月ほど前に、国王が病に倒れた事が切っ掛けらしい。
それにより元々水面下にあった、次期国王の座を巡る争いが一気に激化。第1王子派と第2王子派が最有力候補であり、王位を継ぐつもりがない第3王子オズワルドは本来無関係だ。
しかしそれでも命の危険が迫る程に争いは激しく、とても王都には居られないと判断した結果が今の状況だ。どちらの王子か、もしくは派閥の貴族か。
その黒幕は不明だが、こうして王都を離れるオズワルドを執拗に狙って来た。流石にまだ幼い第4王子は狙われなかったらしいが、それでも念の為にと、第4王子とその母親は自分の領地に戻っている。
「なんと。王都は今そんな状態なのですね」
「俺の母は既に亡く、元々領地を持たぬ王都育ち。脱出する先が他に思い浮かばなかった」
「そう言う事でしたら、我がオーレルム領にお任せ下さい!」
自信満々にエストリアは宣言した。このオーレルム領ならば、武に長けた騎士達が大勢駐留している。王子の護衛を務められるだけの技量を持つ者も少なくはない。
レアル王国きっての精鋭が集まる土地だ。並の暗殺者ではオズワルドの首を取るのは難しいだろう。
そんな風に自領を頼られた事に、エストリアは喜びを覚えた。王族に頼られるなど、臣下としては誇らしい話だ。
エストリアにも護衛が任されるかは兎も角、今この場に居合わせただけでも立派な成果だ。貴族令嬢としても騎士としても、これは誇るべき事である。
「ついでで申し訳ないのだが、オーレルム伯の所へ案内して貰えないだろうか?」
「もちろん構いません! 私が先導致します」
街道へと一旦戻り、エストリアが先頭になって雑木林の中を進む。遠乗りがてら魔物が侵入していないか確認に来ただけの事が、随分と大きな話になったものだとエストリアは思案する。
暗殺者達に襲われていた王子と、王都で起きている争い。難しい事に頭を使うのが得意ではなくとも、エストリアとて領地を預かる貴族の1人だ。
これから国内がどうなるのか、不安を覚えない訳では無い。だがとりあえずは父親に任せるしかない。エストリアは領主ではないので、この先どうするかを決める権限がない。
(ここはお父様とお兄様にお任せしましょう)
魔物や暗殺者と戦え、そう命じられるのであればエストリアは従うだけ。自分の得意な事で活躍を求められるなら答えれば良い。
方針を決めたり難しい計算をしたりするのは、自分の仕事ではない。そんなふうに考えていたエストリアはまだ知らない。この出会いによって、自身の運命が大きく変化する事を。
綺麗な顔をした王子様だなぁ等と考えていた相手と、深い関係になるとは想像もしていなかった。そんなエストリアは、無邪気な笑顔を浮かべて叫ぶ。
「オズワルド様! ようこそオーレルム領へ!」
「……おぉ、これが」
先立って雑木林を抜けたエストリアが、オズワルドに向けて声を掛けた。彼を乗せた馬車が雑木林を抜けると、緑豊かな草原が一面に広がっていた。
更にその先には、堅牢な城壁に囲まれた要塞が小さく見えていた。その向こうには何処までも続くかの様に、魔物の侵入を防ぐ立派な壁がズラリと並んでいる。
オズワルドがオーレルム領に来たのは随分昔の話だ。幼い頃、母親に連れられて立ち寄った事があるだけ。成人間近の年齢になってから、初めて見た光景。
誇らしげにしているエストリアと、その背後に広がる要塞。その景色が、オズワルドには輝いて見えていた。
ただ馬に引かせたぐらいでは解決しなかったのだ。そうなるともう全員で押すなり持ち上げるなり、何かしらのひと手間が必要だ。
なまじ王族用だけあって頑丈に作られており、その重量は普通の馬車とは大違いだ。護衛達6人掛かりでも、まだ手が足りなかった。
自分達でやりますと言い切った護衛達も、流石にこれは厳しいのではと感じていた。それを見兼ねた第3王子オズワルドは、自分も手伝う事に決めた。
「すまないエストリア嬢、お願い出来ないか?」
「申し訳ございませんオズワルド様。私にはポールアックスを振り回すのが精々。こんな立派な馬車1台は流石に……」
「十分過ぎるわ! 1人で持ち上げろとは言っていない!」
「あ、なるほど」
物凄く申し訳なさそうな表情で、自身の限界について告げたエストリア。大柄な騎士ですらそう簡単に出来ない事を、平然とやってのけるだけの筋力を有している事を告白する。
当然ながら1人で持ち上げろとオズワルドは求めてなどいなかった。突然ズレた事を言い出すエストリアに、思わず渾身のツッコミを入れるオズワルド。
その意図を理解したエストリアが参加した事で、馬車の車輪は泥濘みから脱出する事が出来た。結局は王子と女性の手を借りてしまった護衛達は、深々と頭を下げて礼を告げた。
「お気になさらず、オズワルド様のお手伝いが出来ただけでも私は光栄です」
「俺からも礼を言わせてくれ。貴女の加勢、感謝する」
「いえそんな、貴族として当然の事をしたまで。それにしても、先程の者達は何者なのですか?」
「ああ、それはまあ、何というか……」
オズワルドの説明によると、王都では王位継承権を賭けた争いが起きているとの事。2ヶ月ほど前に、国王が病に倒れた事が切っ掛けらしい。
それにより元々水面下にあった、次期国王の座を巡る争いが一気に激化。第1王子派と第2王子派が最有力候補であり、王位を継ぐつもりがない第3王子オズワルドは本来無関係だ。
しかしそれでも命の危険が迫る程に争いは激しく、とても王都には居られないと判断した結果が今の状況だ。どちらの王子か、もしくは派閥の貴族か。
その黒幕は不明だが、こうして王都を離れるオズワルドを執拗に狙って来た。流石にまだ幼い第4王子は狙われなかったらしいが、それでも念の為にと、第4王子とその母親は自分の領地に戻っている。
「なんと。王都は今そんな状態なのですね」
「俺の母は既に亡く、元々領地を持たぬ王都育ち。脱出する先が他に思い浮かばなかった」
「そう言う事でしたら、我がオーレルム領にお任せ下さい!」
自信満々にエストリアは宣言した。このオーレルム領ならば、武に長けた騎士達が大勢駐留している。王子の護衛を務められるだけの技量を持つ者も少なくはない。
レアル王国きっての精鋭が集まる土地だ。並の暗殺者ではオズワルドの首を取るのは難しいだろう。
そんな風に自領を頼られた事に、エストリアは喜びを覚えた。王族に頼られるなど、臣下としては誇らしい話だ。
エストリアにも護衛が任されるかは兎も角、今この場に居合わせただけでも立派な成果だ。貴族令嬢としても騎士としても、これは誇るべき事である。
「ついでで申し訳ないのだが、オーレルム伯の所へ案内して貰えないだろうか?」
「もちろん構いません! 私が先導致します」
街道へと一旦戻り、エストリアが先頭になって雑木林の中を進む。遠乗りがてら魔物が侵入していないか確認に来ただけの事が、随分と大きな話になったものだとエストリアは思案する。
暗殺者達に襲われていた王子と、王都で起きている争い。難しい事に頭を使うのが得意ではなくとも、エストリアとて領地を預かる貴族の1人だ。
これから国内がどうなるのか、不安を覚えない訳では無い。だがとりあえずは父親に任せるしかない。エストリアは領主ではないので、この先どうするかを決める権限がない。
(ここはお父様とお兄様にお任せしましょう)
魔物や暗殺者と戦え、そう命じられるのであればエストリアは従うだけ。自分の得意な事で活躍を求められるなら答えれば良い。
方針を決めたり難しい計算をしたりするのは、自分の仕事ではない。そんなふうに考えていたエストリアはまだ知らない。この出会いによって、自身の運命が大きく変化する事を。
綺麗な顔をした王子様だなぁ等と考えていた相手と、深い関係になるとは想像もしていなかった。そんなエストリアは、無邪気な笑顔を浮かべて叫ぶ。
「オズワルド様! ようこそオーレルム領へ!」
「……おぉ、これが」
先立って雑木林を抜けたエストリアが、オズワルドに向けて声を掛けた。彼を乗せた馬車が雑木林を抜けると、緑豊かな草原が一面に広がっていた。
更にその先には、堅牢な城壁に囲まれた要塞が小さく見えていた。その向こうには何処までも続くかの様に、魔物の侵入を防ぐ立派な壁がズラリと並んでいる。
オズワルドがオーレルム領に来たのは随分昔の話だ。幼い頃、母親に連れられて立ち寄った事があるだけ。成人間近の年齢になってから、初めて見た光景。
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