フィジカル系令嬢が幸せを掴むまで~助けた年下王子からの溺愛~

ナカジマ

文字の大きさ
37 / 51

第37話 オズワルドの在り方

しおりを挟む
 無事に大城壁の一斉点検も終わらせたエストリア達は、いつも通りの生活に戻っている。
 結局大規模な修繕が必要な程の問題は発生しておらず、交換や工事が必要な部分だけが後日改めて行われる。
 その辺りについてはオズワルドが積極的に動いた為に、国からの援助も受けながら順調に話が進んでいる。

 オーレルム領の運営に最初から協力的だったオズワルドは、領民達からの評価も高く信頼されている。
 仕事の合間を見て領民と共に過ごす第3王子の姿は、今では当たり前の光景として定着しつつある。
 本日も昼間から1人の老婆を手伝っている。

「オズワルド様、本当によろしいのですか?」

「気にしないでくれ。俺達に任せておけ」

「は、はぁ……」

 要塞都市マルカの門の近くで、車輪が破損してしまった馬車が立ち往生をしていた。
 果物を運んでいた最中であり、彼女の店まで全ての荷を老婆が1人で運ぶのは不可能に近い。
 そこに通り掛かったオズワルドと護衛達が手伝いを申し出た形だ。

 近くに居た男性達も参加して、リレー形式で老婆の営む店まで運んでいる。
 まさか自国の王子にこんな力作業を進んでやるなんて、と老婆は大層困惑している。
 既に荷台の半分程は何とか運び終えたが、残りはまだまだ残っている。そんなオズワルド達の下に、領内の巡回から戻って来たエストリアが合流する。

「あら? これは大変ですね」

「エストリア、少し手を貸して貰えないか?」

「もちろん構いませんよ!」

 快諾したエストリアは、男性達が1箱ずつリレーで運んでいる木箱をひょいと2箱持ち上げる。
 片手で1つずつ持ち上げたまま、彼女はスイスイと目的地に向かって歩いて行く。
 今更なのでオズワルドも驚きはしないが、相変わらずパワフルな姿をエストリアは見せていた。

 街の人々はもう見慣れた光景なので平然としているが、オズワルドとしては複雑な気分である。
 男らしさに拘る必要もないと分かってはいても、あれぐらい出来たらと願ってしまう気持ちはある。
 そもそも騎士として生きてはいないので、そんな事を気にしても仕方がないとしても。

「相変わらずですね、エストリア様は」

「本当にな。凄い女性と婚約出来たものだ」

「今でもたまに驚かされますよ」

 オズワルドの護衛達もだいぶ見慣れては来たが、それでも驚く事はそれなりにある。
 オーレルム領の騎士達は、先ずその鍛錬の密度が王都とは違うのだ。魔物の脅威に対抗する為、非常に過酷な鍛錬を続けて来た。
 領地と領民、そして王国を守る為にと、彼らは非常に高い志を持っている。その中でも特に領主一族のそれはハードだ。

 上に立つ者が弱者であってはならないと、異常な程に己を鍛えているのだ。
 だからこそ、オズワルド達には彼女の努力が半端ではない事を理解している。
 王子として、騎士として、彼らはエストリアを尊敬している。

「1つの事に、あれだけ打ち込む姿は美しいと思う」

「何ですオズワルド様? 惚気ですか?」

「ち、違う! 生き方の話だ! からかうのはよせ」

 今まで婚約者を決めずにいたオズワルドと、そんな彼を見守って来た護衛達。当然彼らは主の幸せを願っていた。
 地位を目当てに擦り寄る女性よりも、この優しき王子を支えてくれる様な相手との婚約を願い続けた。
 それがこうして、オズワルドにピッタリの女性と婚約したのだ。

 護衛達の弟分でもあったオズワルドの、幸せそうな姿が自分の事の様に嬉しいのだ。だから最近はこうして、少々からかう事がある。
 でもそれは、その分これまでが過酷だったからだ。王座を巡って命を狙われる日々は、たった数ヶ月でも相当な心労になる。
 しかもそれが血を分けた兄達からの指示なのだから心の負担は大きかった。

「皆さん楽しそうですね?」

「い、いや! エストリアは凄いなと話していただけだ」

「え? わたくしは頭の良いオズワルドの方が凄いと思いますけど」

 不思議そうにしながらエストリアは、再び木箱を運び出して歩いて行く。こんな風に平和な日常が訪れた事に護衛達は感謝をしている。
 民と共に生きたい、それはオズワルドが幼い頃から望み続けた事だ。初代国王の生き方に憧れた少年の、青臭い理想なのは皆分かっている。

 しかしその根源にあるのは彼の優しい心だ。護衛にも必ず感謝をする優しい王子との日々で、全員がそれを理解している。
 だからオズワルドには、その望みを叶えて欲しかった。王子には相応しくないかも知れない、時に冷酷であらねばならないのかも知れない。
 それでも今の彼が、多くの領民を笑顔にしている事実は変わらない。

「最近のオズワルド様は、前よりも生き生きとしていらっしゃいますよね」

「そう……か? 確かに充実はしているが」

「そうですよ。毎日楽しそうですから」

 王都に居た頃だって、オズワルドが特別不幸だった訳では無い。しかしここ数年は幸せとは言い難かった。
 徐々に拗れていく兄弟の仲を繋ぎとめようとする日々。それでも勝手な行動を取る兄達。
 彼らのフォローをして回っていたのはオズワルドだ。そんな彼の日常は、苦い想いをする場面が多かった。

 兄達に変わり、王子として毅然とした対応を求められ続けた。だがそれはオズワルドらしい生き方では無かった。
 今の様に、領民達と笑い合う様な在り方こそが彼本来の姿だった。漸く自分らしく生きられる様になったオズワルドだったが、彼の知らぬ所で事態は動き始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

処理中です...