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第42話 二転三転
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それは思わぬ方向から入れられた横槍だった。次期国王であった第1王子であるアランの失脚。
始まりは婚約者が居ながら、男爵家の令嬢を身籠らせた事に端を発する。その件で婚約であるレティシアの生家、オーバーン公爵家は大激怒。
あわや婚約の破棄まで行くかと言う所まで、大いに公爵家と王室は揉めた。結果として王妃であるエメラダと、国王エルビスは巨額の賠償金を支払う事になった。
婚約自体は破棄されなかったが、アランの評価は一気に低下した。元々人柄ではなく金で支持を得ていたのだから、公爵家を怒らせたという醜聞は致命的なダメージだ。
そこからアランの立場は危うくなっていき、無理に買収工作をしようとして失敗。最早王位を継ぐのは不可能だろうという結果で終了した。
その結果、ギリアム宰相が直々にオズワルドの下へ陳情しに来る事態に発展した。
「そうか……兄上は最後まで、分かってくれなかったのだな」
「私の力不足でございました。まさかあそこまで悪い方に行くとは」
「やってしまった事は仕方ない。それで、次は俺という事だな?」
「一度御身の命を危険に晒しておきながら、この様なお願いをせねばならないのは非常に心苦しいのですが……」
深々と頭を下げるギリアム宰相に、オズワルドとエストリアは困った表情を浮かべるしかない。
第2王子ギルバートは罪を犯し離宮入り。それで決着かと思われた所で今度はアランが問題を起こして失脚。
そうなると次は当然第3王子のオズワルドの番となる。
理屈も理由も分かるとしても、今からオズワルドとエストリアがこの地を離れるのは問題である。
2人が居るからこそ、回っている現場もあるのだから。オズワルドの権威と、エストリアの戦力の両方がオーレルム領から失われてしまう。
特に趣味の遠乗りに出掛けては、侵入していた魔物を処理していたエストリアの功績は大きい。だがそれよりも大きな問題がある。
「エストリアは妃教育を受けていないのだぞ?」
「そちらの方は、教育担当も含めてすぐに手配を……」
「私に出来るでしょうか?」
騎士として、辺境伯家の令嬢としての教育は受けているが、それは王妃になる為の教育とはまた違う。
王妃として適切な対処をする方法と、魔物を倒す技術は全く関連性がない。特にエストリアは社交に疎い女性なのが痛手である。
王妃の主戦場こそ社交の場であり、様々な貴族女性を相手に上手く立ち回らねばならない。
どう考えてもエストリアの真っ直ぐな性格は向いていない。腹の探り合いなどエストリアに出来る事ではない。
何事も真っ直ぐに、真っ向勝負がエストリアの生き方である。
この件については既に領主の館にも連絡が行っている。
あちらではエストリアの母であるソフィアが、これからどうするべきか頭を抱えていた。
「……最初は誰かを側近に置くしかないだろう」
「高位貴族の女性で、年齢も近い方にお願いする方向で何とかします」
「出来れば妃教育を受けた経験のある女性が望ましいな」
妃教育はそれこそ、10年近く掛けて行われる非常にハードで濃密な教育だ。
王妃として恥ずかしくない女性として、美しい所作から話し方まで全てをみっちりと教え込まれる。
次期国王の婚約者候補は、全員がその教育を受けている。
本来ならその候補者達の中から、婚約者を改めて選定して欲しいのが王宮の本音である。
しかし王宮は頼み込む側であり、オズワルドとエストリアには何の非はない。ここで余計な事を要求してオズワルドと拗れるのは避けねばならない。
ましてやエストリアは王国の守りの要、オーレルム家のご令嬢である。王家の都合で婚約破棄をしてくれなど、口が裂けても出せる要求ではない。
この状況でオーレルム領を敵に回せば、低下しつつある王族の権威が更に低下してしまう。
「本当に申し訳ございません。今回の件は王宮全体の失態でございます」
「仕方ないさ、俺だって王子だ。これも使命だろう」
「王妃が務まるかは分かりませんが、私も出来る限り協力します!」
辺境で穏やかな生活が続くと思われた2人の日々は、大きく変わる事になってしまった。
オズワルドもオズワルドで、本来は王位に就く予定に無かった王子だ。王弟としての教育は受けているが、王としての教育を追加で受けねばならない。
王子としての実務経験が豊富な分だけ、幾らかエストリアよりはマシではあるが。それでもこれからの2人は、かなり忙しくなるのが確定している。
幸いながら兄2人と比べれば、オズワルドを支持する貴族達が多い事だけが救いか。それにエストリアも婚約式で高い評価を受けている。
「すまないエストリア、付き合わせてしまって」
「いえ、貴方と共に生きると決めたのですから」
それから2人は様々な引継ぎを行い、領地を出る準備を進めた。その間にソフィアとヴェロニカによる、エストリアの完璧な淑女化計画も進められた。
当然付け焼刃であり、焼け石に水ではあったが。母と義姉の不安をよそに、エストリアとオズワルドは再び王都へと舞い戻る事になった。
目まぐるしく動く、王位を巡る様々な問題。解決するどころかどんどん話が悪化している現状だが、2人は無事に乗り切る事が出来るのだろうか。
始まりは婚約者が居ながら、男爵家の令嬢を身籠らせた事に端を発する。その件で婚約であるレティシアの生家、オーバーン公爵家は大激怒。
あわや婚約の破棄まで行くかと言う所まで、大いに公爵家と王室は揉めた。結果として王妃であるエメラダと、国王エルビスは巨額の賠償金を支払う事になった。
婚約自体は破棄されなかったが、アランの評価は一気に低下した。元々人柄ではなく金で支持を得ていたのだから、公爵家を怒らせたという醜聞は致命的なダメージだ。
そこからアランの立場は危うくなっていき、無理に買収工作をしようとして失敗。最早王位を継ぐのは不可能だろうという結果で終了した。
その結果、ギリアム宰相が直々にオズワルドの下へ陳情しに来る事態に発展した。
「そうか……兄上は最後まで、分かってくれなかったのだな」
「私の力不足でございました。まさかあそこまで悪い方に行くとは」
「やってしまった事は仕方ない。それで、次は俺という事だな?」
「一度御身の命を危険に晒しておきながら、この様なお願いをせねばならないのは非常に心苦しいのですが……」
深々と頭を下げるギリアム宰相に、オズワルドとエストリアは困った表情を浮かべるしかない。
第2王子ギルバートは罪を犯し離宮入り。それで決着かと思われた所で今度はアランが問題を起こして失脚。
そうなると次は当然第3王子のオズワルドの番となる。
理屈も理由も分かるとしても、今からオズワルドとエストリアがこの地を離れるのは問題である。
2人が居るからこそ、回っている現場もあるのだから。オズワルドの権威と、エストリアの戦力の両方がオーレルム領から失われてしまう。
特に趣味の遠乗りに出掛けては、侵入していた魔物を処理していたエストリアの功績は大きい。だがそれよりも大きな問題がある。
「エストリアは妃教育を受けていないのだぞ?」
「そちらの方は、教育担当も含めてすぐに手配を……」
「私に出来るでしょうか?」
騎士として、辺境伯家の令嬢としての教育は受けているが、それは王妃になる為の教育とはまた違う。
王妃として適切な対処をする方法と、魔物を倒す技術は全く関連性がない。特にエストリアは社交に疎い女性なのが痛手である。
王妃の主戦場こそ社交の場であり、様々な貴族女性を相手に上手く立ち回らねばならない。
どう考えてもエストリアの真っ直ぐな性格は向いていない。腹の探り合いなどエストリアに出来る事ではない。
何事も真っ直ぐに、真っ向勝負がエストリアの生き方である。
この件については既に領主の館にも連絡が行っている。
あちらではエストリアの母であるソフィアが、これからどうするべきか頭を抱えていた。
「……最初は誰かを側近に置くしかないだろう」
「高位貴族の女性で、年齢も近い方にお願いする方向で何とかします」
「出来れば妃教育を受けた経験のある女性が望ましいな」
妃教育はそれこそ、10年近く掛けて行われる非常にハードで濃密な教育だ。
王妃として恥ずかしくない女性として、美しい所作から話し方まで全てをみっちりと教え込まれる。
次期国王の婚約者候補は、全員がその教育を受けている。
本来ならその候補者達の中から、婚約者を改めて選定して欲しいのが王宮の本音である。
しかし王宮は頼み込む側であり、オズワルドとエストリアには何の非はない。ここで余計な事を要求してオズワルドと拗れるのは避けねばならない。
ましてやエストリアは王国の守りの要、オーレルム家のご令嬢である。王家の都合で婚約破棄をしてくれなど、口が裂けても出せる要求ではない。
この状況でオーレルム領を敵に回せば、低下しつつある王族の権威が更に低下してしまう。
「本当に申し訳ございません。今回の件は王宮全体の失態でございます」
「仕方ないさ、俺だって王子だ。これも使命だろう」
「王妃が務まるかは分かりませんが、私も出来る限り協力します!」
辺境で穏やかな生活が続くと思われた2人の日々は、大きく変わる事になってしまった。
オズワルドもオズワルドで、本来は王位に就く予定に無かった王子だ。王弟としての教育は受けているが、王としての教育を追加で受けねばならない。
王子としての実務経験が豊富な分だけ、幾らかエストリアよりはマシではあるが。それでもこれからの2人は、かなり忙しくなるのが確定している。
幸いながら兄2人と比べれば、オズワルドを支持する貴族達が多い事だけが救いか。それにエストリアも婚約式で高い評価を受けている。
「すまないエストリア、付き合わせてしまって」
「いえ、貴方と共に生きると決めたのですから」
それから2人は様々な引継ぎを行い、領地を出る準備を進めた。その間にソフィアとヴェロニカによる、エストリアの完璧な淑女化計画も進められた。
当然付け焼刃であり、焼け石に水ではあったが。母と義姉の不安をよそに、エストリアとオズワルドは再び王都へと舞い戻る事になった。
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