【完結】あの日、君の本音に気付けなくて

ナカジマ

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第1章

第13話 届かぬ想いと心の距離

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 りんちゃんに謝る事を決意した翌日の昼休み、俺と信也しんやはアプリゲームで麻雀をしていた。サッカー部の武本たけもと、野球部の島田しまだを含めた4人で、勝負の真っ最中だった。

「はいポン!」

「武本お前~大三元だいさんげんか?」

「さあどうかな?」

 はくちゅんを既にポンしているので、中々に怪しい所だ。そしてこれまた綺麗にはつかわに無い。怪しい気配が満点だ。
 しかし、大三元の弱点はバレやすいと言う事。白發中の3種を3枚ずつと言う最も単純な役満。
 この状況で發を切るのは、4枚目を引いてカンをしたくない奴か初心者だけだ。まあ中々切らないだろう、他の2人も初心者ではない。
 俺は元々は麻雀を知っていたし、信也も兄貴に教わっていやる。島田も元々経験者だ。馬鹿や無謀をやる奴は1人も居ない。
 それに二鳴になききで張れて居ない場合は、後が中々苦しくなる。防御力が落ちて、最悪諸刃の刃にもなり得てしまう。

「なあ島田、お前別れたんだって?」

「あ~まあな。喧嘩しちまってな」

 信也の切り出した話題で、少し胸が痛んだ。俺と凛ちゃんも似たような状況だ。喧嘩らしい喧嘩はしていないけど、連絡は取り合わないし会話もしない。
 目が合っても何となく気不味い。そんな状況にあるから、まるで別れた後みたいになっている。付き合ってすら居なかったと言うのに。

「勿体ないなぁ~可愛い子だったじゃん」

「そうなんだよな~きちぃわマジで」

「まーまー次があるって」

 3人の会話に、俺は少し入りづらい。次って、そんな簡単に行けるものなのか。そんなにアッサリ、別の女の子を好きになれるものなんだろうか。
 俺にはそれが理解出来ない。この中で俺だけ恋人が出来た事がない。恋愛らしい恋愛をまともにやれていない。だからその辺りの事も、良く分からない。
 次、次ねぇ。何だろうな、その感覚。スパッと好きだった子を忘れて、無かった事に出来るのか? 俺は今の所、凛ちゃんを忘れられた日はない。
 何とか何かで誤魔化すけれど、ふとした時に凛ちゃんの顔が頭に浮かぶ。だけど、話掛けて良いのか分からなくて。結局連絡を取る勇気が持てない。

 ブロックはされて居ない筈だけど、向こうからの連絡もない。そんな日が続いてもう7月半ばだ。気が付けば夏になっている。もう3ヶ月は、凛ちゃんとまともに会話していない。
 中野の意見が正しいとすれば、怒っている可能性は高い。小学生の頃なら、簡単にごめんが言えたのに。高校生になると目茶苦茶ハードルが高い。
 頭を下げたくないと言う意味じゃなくて、周囲の目とか噂とかそう言う部分が。

「はいリーチ!」

「あっ、堂本どうもとてめぇ!」

「二鳴きもするからだ」

 ゲームでは現在、信也がリーチを掛けて武本がピンチに。俺はまだ張ってないからとりあえず安牌から。島田もまだ余裕っぽいので、これは武本が1人だけピンチの状況だ。
 まあ時間の問題だろう。最下位は放課後の掃除でゴミ捨て係をやると言うルールなので、このまま武本には撃沈して貰おう。
 考え無しにデカい手に賭けるからだ。パチスロで次は勝つからと、どハマりする人ってこう言うタイプなんだろうな。

「はい、ロン」

「のあぁぁぁぁ!?」

「じゃ、宜しく武本」

 崩れ落ちる武本に、容赦なく現実を突き付けて島田は去って行った。ゴミ捨て係は一番面倒臭いから、武本には悪いが犠牲になって貰おう。
 ぶっちゃけ俺もあんまり行きたくない。ゴミ捨て場は遠いし、外は目茶苦茶暑いし。それに放課後は大切な用事がある。
 さっさと謝って、また友人からでも再スタート出来れば、俺の悩みは解決だ。許して貰えなかった時は、諦めるしかないけど。

「何してんの武本?」

吉田よしだ、今日のゴミ捨てコイツが行くから」

「マジで! ラッキー、ありがとう武本」

「吉田のお礼が貰えるなら、もうそれで良いよ」

 通り掛かった吉田さんに、お礼を言われた武本は復活した。現金な奴だなお前も大概。まあ、吉田さんは人気のある女子だから、分からなくもないけど。
 可愛い女の子にお礼を言われて嬉しくない男は中々居ないだろう。それは俺だって変わらない。ただ、一番声を掛けられたいのは誰かと言うと決まっている。
 もう暫くは、凛ちゃんの声を聞いて居ない。こんなの初めての事だから、何だかモヤモヤする。さっさとこんな状況から脱したい。もっと早くに行動すべきだった。早く放課後になってくれ。



「それじゃあ今日はこれまで、進路希望はちゃんと書いておけよ」

 担任の教師が出て行くなり、俺は急いで教室を出る。俺は1年1組で、凛ちゃんは一番反対側の5組だ。物理的距離まで遠いなんて、なんの嫌がらせなんだろうか。
 隣の教室だったら、また状況も違ったかも知れない。何から何まで俺達に優しくないんだから。

 5組に到着した俺は、教室の窓から中を見る。そして見付けた、凛ちゃんを。知らない男子と楽しそうに笑っている凛ちゃんを。その立ち位置は俺だった筈なのに、知らない男がそこに居た。
 そうか、そうだよな。もう俺なんて居なくても、君は笑って楽しく過ごして居るんだ。俺が1人で馬鹿みたいに悩んで、固執して執着していただけだ。
 あの時と同じだ、小学生の時と。俺を好きになってくれる女の子は、皆俺を必要としなくなる。
 居なくても良い存在になってしまう。それなのに、調子に乗ってやらかして勘違いして。

 そりゃ離れて行くよな。こんな女心が理解出来ない男なんて。信也達の様に、女心が理解出来るイケメンじゃないから。だからいつも、こうなって終わるんだ。
 謝るも何も無い、最初から要らないんだよ、俺の謝罪なんて。全部、俺の独り相撲だったと言う事だ。
 俺は踵を返して、教室に戻る事にした。とっくに終わっていたのだ。俺達の関係なんて。
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