【完結】あの日、君の本音に気付けなくて

ナカジマ

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第2章

第34話 ちょっと良い雰囲気になる事もある

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「えっと、俺は何故呼ばれたの?」

「さーさー藤木ふじき君、どうぞどうぞ」

 最終日の夜、何故か柴田しばたさん達に連れ出された。何の用事かと思えば、ホテルの女子部屋エリアに強引に連れて来られて現在この状況。凛ちゃん達の部屋に、俺と凛ちゃんが2人で居る。

「じゃ、私達はこれで!」

りん、頑張って!」

「じゃあ藤木君、暫く凛ちゃんを宜しく!」

 え、何これは。どう言うアレなんですか。ちょっとご説明を願いたいと言いますか。柴田さんって、思っていたよりユニークな人だったのかも知れない。
 ただ年頃の女子の部屋に、簡単に男を放り込むのは辞めた方が良いと思う。俺だから変な事をしないけど、武本たけもとみたいな奴なら何するか分からないぞ。

「えっと、凛ちゃんコレは一体……」

「ごめん、結衣ゆいちゃん達が盛り上がり過ぎて、その」

「ああ、うん。それはこっちも似た様なモノだから」

 そりゃあもう色々と聞かれまくりだよ。どこまで行ったんだとか、アレコレといちいち聞いてくるよ。
 武本があまりにもウザかったので、ベッドに沈めておいた。暫くは大人しくしているだろう。復活したらまた煩いだろうけど。
 アイツ、女子にモテようとスノボを選んだのに全然アピール出来てない。他人に構っている暇はあるのだろうか。

「その、ね。ちょっと想い出作りなよって、言われて」

「だから、2人きり? 良いのそれ?」

「え、エッチなのは駄目だよ!」

 まあね、一瞬期待したけどね。でも常識的に考えて、女子がそう言う事をさせる為に2人きりにさせる筈がないよね。
 しかも自分達が寝泊まりしている部屋で。まあ有り得ないよね、そんな事。それ狙いでやっているなら、逆にこっちがドン引きだよ。男子ならワンチャンやるかも知れないけど、まず女子はやらないだろう。

「えっと、隣座っても?」

「どうぞ」

「じゃあ失礼します」

 別にこれはその、凛ちゃんのベッドに座りたかったとかではない。他の女子のベッドに俺が座るのもどうなんだろうかと、躊躇しただけに過ぎない。
 好きな女子の近くに居たいと言う、欲求が全く無かったとは言わないけれども。

 お風呂上がりなのだろう、ホテルの浴衣に着替えた凛ちゃんから、割とヤバめな色気を感じる。
 しかしここで、変な事をしてはいけない。キスもしていないのに、何段飛ばしで先に行くと言うのか。
 俺は紳士的で健全なお付き合いを、これからも大切にしたいと思います。

「その、何かしたい事とかある?」

「ん~そう言われてもなぁ~」

「じゃあして欲しい事は?」

「膝枕」

 爆速で欲望が漏れてしまった。違うんだ、仕方ないんだ。凛ちゃんから感じる色気が凄くて。
 エッチじゃない範囲でとなれば、それしか思い浮かばなかったんだ。脳の8割ぐらいがこのシチュエーションなら、膝枕しかないよなと訴え掛けて来ただけなんだ。

「それぐらいなら、まあ」

「良いのか!?」

「ど、どうぞ」

 本人が良いと言うのだから、別に構わないよな。オッケーが出ているのだから、これはもうセクハラの類ではない。
 双方合意の上で、やらせて頂きます。いざ、参る…………あ、これヤバいかも知れない。魔性が潜んでいた、こんな所に。舐めていたよ膝枕、あまりにも良すぎる。

「こんなのが本当に良いの?」

「めっちゃ良い。良い香りがする」

「ちょっと! 恥ずかしいでしょ!」

 本当なんだから仕方ないじゃないか。落ち着くんだよな何か。この子とこの距離感なのが普通なんだと、そう思えるから。
 これぐらい近付いても良いと、許されたからこそ感じられるから。と言うか、良い香りと感じられない相手なら長く続かないよきっと。

「ね、りょうちゃんの事教えてよ?」

「俺の事?」

「高校生になってからの涼ちゃんの事。教えて?」

 なるほど、そう言う意味か。お互いギクシャクしていた間の俺がどうして居たか。それを知りたいって事ね。
 俺もそこは気になるから、今度俺も聞いてみよう。しかしそうだな、何から話そうか。やっぱりバスケ部からかな。

「バスケ部の1年がさ、7人しか居なくてさ」

「え? そんなに少ないんだ?」

「そう、だから色々と工夫が必要なんだ」

 ポジションの問題、1人退場を食らうだけで大打撃になってしまう事。個性のレパートリーがどうしても少ないから、強豪校が相手だとかなり辛い事。顧問がバスケ未経験で、教えてくれる大人が居ない事など。

「そうなんだ……大変だね」

「楽しいから別に良いけどね」

 そして、今だから言える事。凛ちゃんと話さなくなって、辛い気持ちが常に何処かにあった。連絡しようとしても、躊躇ってしまう自分が居た事。
 嫌われたんじゃないかと、考えるだけで辛かった事。もっとちゃんと、好きだと言っておけば良かったと言う後悔の念に苛まれた事。

「…………ごめんね、涼ちゃん」

「良いんだ。今はもう、一緒に居るから」

「でも……」

「謝って欲しいんじゃないよ。ちゃんとずっと、凛ちゃんを好きだったよって話だから」

 俯いた凛ちゃんの、頬に軽く触れる。気にしなくて良いよって気持ちを込めて、優しく撫でる。自分を責めて欲しいんじゃ無いんだ。
 俺はそれだけ、距離が出来てしまった間も想い続けて居たと知っておいて欲しいだけ。俺は中学生の時から、ずっと君の事が好きだったんだよ。

「涼ちゃん……」

「まあその。正直な話、中1の時から気にはなっていたよ」

「そう、だったの?」

 じゃあせっかくだからと、中学時代の話もしよう。実は初めてバレンタインを貰った時は、内心クソほど喜んでいたとか。
 でもこれはきっと義理に違いないと言い聞かせていた話とか。中学生になって初めて再会した時点で、結構タイプだなと思ったエピソードなど。色んな事を凛ちゃんに伝える。

「なんだ……そんなに好きで居てくれたんだ」

「ちょっと恥ずかしいけど、実はそうなんだよね」

「涼ちゃん……」

 何となく良い雰囲気になっている。膝枕をしている関係で、結構顔が近くなっていて。それとなくそんな雰囲気になり始めた気がする。
 俯いた凛ちゃんの顔の、口元につい視線が吸い寄せられる。良いのだろうか? これは、そう言う意味で良いのだろうか。

「いやーお土産めっちゃ買っちゃった!」

「リンゴ味のパイ、何なら自分で食べたいかも」

「凛ちゃん達もお土産見て来たらー?」

「「「ぁ゙っ」」」

 そんなベタな展開ありかよ。お前らもうちょっとこう、2人きりにした責任感とか無いのか。
 今俺は、非常に悔しい思いに包まれております。こんなラブコメみたいな展開、必要あったのかよ。

「「「ごゆっくりー」」」

「出来るかこれで!?」

 結局この後、凛ちゃんと2人でお土産を買いに行った。もうそう言う空気にはならなかったけど、お揃いのキーホルダーを買えたのは良かったかな。
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