華麗なる暴君~最凶女王の軌跡~【改稿版】

ナカジマ

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第1章 最凶の女王が生まれた日

第9話 女王様の華麗なるお散歩②

「お待ち下さいイリア様!」

 イリアが城から出て行こうとしていると、呼び止める男性の声が響いた。

「あら騎士団長、何かご用意かしら?」

「またそんな格好で……護衛の騎士も付けずに、城下へ出るおつもりですね?」

 イリアが城下街でも浮かない服装に着替えて、裏門から出ようとしていた所を、騎士団長のカイル・マリットが目ざとく発見した。
 アルベールにも劣らない長身に、細いフレームの眼鏡から覗く鋭い眼光は、少し冷たい印象を受ける。
 年齢はイリアより少し上の25歳で、その若さで騎士団長をやっている美丈夫だ。
 短く切り揃えた美しい金色の髪と、甘いマスクから国内外の女性達から注目を浴びている人物だ。

 氷の騎士様と呼ばれている事を本人は知らないが、特に国内の女性達からの支持は非常に高い。
 前任の騎士団長は横暴で、権力を振りかざす乱暴な大男だった。裏では不正の限りを尽くしていた事が、後々発覚して裁かれている。
 そんな前任者とは違い、見目麗しいカイルはしっかり仕事をする男であったが為に、一気に国内の人気が爆発した。

「また貴方ですか。イリア様にはわたしが付いております」

 まともな護衛を付けていないと指摘されたリーシェが、片眉を跳ね上げながら反論する。

「貴女は騎士ではないでしょう、護衛としては役不足です」

「女王の身の回りの世話を、男性に任せるわけには参りません」

 リーシェとカイルは初対面から全く気が合わなかった。こうして事あるごとに対立している。
 その強さに感銘を受けたリーシェと同様に、カイルもまたイリアに対する尊敬の念は強い。
 アニス王国は強国でなければならない。昔からそう考えてきたカイルにとって、イリアは理想的な王であった。
 自らを鍛え強くならねば生きられぬ土地で、軟弱な考えで呑気に生きる者達が、カイルには理解出来なかった。
 
 明日魔族が攻めてくるかもしれない、魔物の氾濫が起こるかもしれない。そんな危機感がまるで無い者達を、カイルは毛嫌いしていた。
 騎士が国や国民を守るのは当然としても、守られる側とて甘えていてはいけない。自分の身は自分で守れる様になるべきだ。そうカイルは考えてきた。
 そんなカイルにとって、前騎士団長は更に酷い唾棄すべき最悪の男だった。しかしカイル一人ではどうにも出来ず、静かに怒りを燃やしていた。そんな時に颯爽と現れたのがイリアだった。

「2人共、その辺にしておきなさい」

 睨み合う二人を、主としてイリアが諫める。二人の気持ちを良く理解しているが、いつまでも問答をしている場合ではない。

「も、申し訳ありません、イリア様!」

「これは見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございません、イリア様」

 イリアもまた、カイルの事を気に入っていた。部下として騎士団長として、非常に優秀で使える男だったからだ。
 無能な部下ほど不要な物はないと考えているイリアの、数少ない眼鏡に適った人物の1人だ。
 女王として強引に即位したイリアは、騎士団再編と称して、騎士達を魔の森に放り込んだ。まず強くなってからでないと話にならないと。
 そんなイリア式スパルタ教育で、最も結果を出したのがカイルであった。その闘志に燃える瞳が、イリアには好ましく思えた。
 とは言え自由に行動したいイリアとしては、ぞろぞろと騎士達を、何よりも騎士団長のカイルを連れて歩くわけにはいかない。ここに女王が居ますよと、言っているようなものだ。

「護衛は不要ですわ、分かっているでしょう?」

「しかし、もし何かあったら困ります」

 イリアへの忠誠心が高いカイルは、彼女の強さを知っている。だがそれでも、譲れない矜持があるのだ。

「はぁ……貴方も頑固ですわね。遠くからなら許可しましょう」

 彼のメンツも考慮して、後方から着いて来る形でなら許可する事に決めるイリア。

「ありがとうございます!」

「いつもの店ですから、後で勝手に来なさい」

 カイルは結構頑固な男で、意見を中々曲げる事はない。イリアもそこだけはデメリットだと考えている。
 そろそろ面倒臭くなってきたので、次からは視認出来なくなる魔法でも使用するか、イリアは悩んでいた。
 魔法で空を飛ぶという手段もあるが、流石にイリアとてスカートで空を飛びたくはない。かと言ってただ城を出る為だけに、わざわざ手間をかけるのも面倒臭い話だ。
 自分の城から自分の治める土地へと、ただ移動するだけだというのに。その辺りは今後の課題として考えるとしても、イリアもいい加減出発したい。
 行き先を告げて2人は、さっさと裏門を出る。容姿を変える魔法を使い、髪の色はありふれた茶髪へ、瞳の色は淡い青へと変えたイリアは城下街へと向かう。

「イリア様、今日は何をなさるおつもりですか?」

「最近、城下街にネズミが増えているらしいのよ」

 ここで言うネズミとは動物の方ではなく、他国のスパイを指している。幼い頃から裏の世界で生きてきたリーシェは、その言い方で判断がつく。
 
「例の連中ですか……排除しますか?」

「まだ急ぐ必要はないわ」

 命じられれば、リーシェは一人で全て排除するつもりだ。実際それだけの実力が、リーシェにはある。
 イリアに心酔しているリーシェもまた、イリアのスパルタ教育を受けている為に、人族としてはかなり強い部類に入る。
 魔の森に放り込まれるなんて経験をした事もない他国のスパイ程度では、リーシェの追跡から逃れるのは不可能だろう。
 何よりこの国の女王と、女王を溺愛している邪神の魔の手から逃れる事自体、そもそも不可能ではあるが。

「せっかくですから、見物に行きましょう」

「見物、ですか?」

「ええ、わたくしの国にちょっかいを出そうとする、愚かなネズミの顔をね」

 瞳の色と髪の色から、腹違いの姉妹の様に見える2人が城下街へと歩みを進める。この国最凶の暗殺者と、この世界最凶の女王は静かに動き始めた。
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