死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第3章

第144話 神子となった日

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 神坂こうさかの一族が禁忌として来た形での継承は、永い歴史の中で何度かある。飢饉や疫病等の悲劇が重なり、社会の空気が濁っていた時代。
 または戦乱の世の中で、どうしても避けられない時が数度あった。その際は黄泉津大神が顕現し、多くの死者を出して来た。
 黄泉津大神よもつおおかみ伊邪那美命いざなみのみことと真逆の女神で、悪しき者の死で繁栄を齎す方向性だ。社会に不要な者は死ねばいい、そうして切り捨てるのが黄泉津大神の在り方。
 歪んだ正義感と壊れた母性が生み出した、闇の母であり病みの母でもあるのだから。死神の神子となった幼き憎悪に、黄泉津大神は歓喜を覚えた。

(ああ、何て若くて幼い純粋な憎悪の感情か!)

(アナタは、誰、ですか?)

(覚えておきなさい清志せいじ。今から私が貴方の神であり、母であり全てなのよ)

 清志はまだ黄泉津大神の存在を教わっていなかった。10歳にも満たない子供に教えるには、少々残酷で悲哀に満ちた過去を持つ女神の話だ。
 理解させるのも難しく、下手の同情心が芽生えるのも良くない。普通は15歳前後で詳しく教えるのが、神坂家の基本的な教育方針だった。
 故に何も知らない清志だったが、伊邪那美命とそっくりな声と存在感を感じている。直感的に相手が神だという事を察した清志は、黄泉津大神にただ従う道を選ぶ。
 清志の中に生まれた伊邪那美命との繋がりが、良く知らない存在へと塗り替えられていく。だけど何故か、今の清志にはそれがとても心地良く思えた。
 皆を殺された幼い怒りと憎しみが、黄泉津大神の重く暗い感情と同調していく。

「さて、後はこのガキだが」

「悪く思うなよ、これも仕事なんでな」

「一瞬であの世い……き……」

 清志を殺そうと近づいた男の1人が、最後まで言い終わる前に命を落とした。まるで鋭い鋭利な刃物で斬られた様に、コロリと胴体から斬り離された頭部が地面に落ちる。
 同時に前に進もうとした慣性に従い、死した肉体が前に向かってぐらりと倒れていく。自分の横に倒れた遺体に、清志は一切の興味を示していない。
 まだ幼く自我の弱い清志は、黄泉津大神からの影響を大きく受けていた。異様な光景に呆気を取られた男達は、1人の女性が増えていた事に気付いていなかった。
 いつの間にか真っ黒な和服に身を包んだ、大鎌を持つ美しい女性が清志の後方に浮かんでいる。どこからどう見ても黒髪の大和撫子だが、纏う空気が明らかに普通ではない。
 虐殺を行ったばかりの男達ですらも、怖気の走る悍ましい空気が周囲に立ち込めている。

「な、なんだてめぇは!」

「何者だ!」

「ああ可哀想な清志。アナタは今日から私のモノとして、庇護してあげましょう」

 周囲の男達が何を言おうがお構いないに、黄泉津大神は清志を背後から優しく抱き締めた。その行為だけを見れば、心優しき母親の様である。
 しかし実際には、ここに居る者達を断罪する死神でしかない。伊邪那美命として現出している際、黄泉津大神は休眠状態となる。
 だが意識は統一されており、記憶も全く同じものを持っている。つまり清志の母親である清子せいことの想い出も、次期神子としての清志との記憶も彼女は持っているのだ。
 伊邪那美命が清志を自分の子供の様に扱っていたのだから、当然ながら黄泉津大神にとっても清志は子供の様なもの。そしてそれは、清子を始めとした神坂家の人間達も含まれる。

「相変わらずね愚鈍な人間は。本当に、毎日千人死ぬのが相応しい」

「だからお前は何も……」

「ひっ!? ひぃ!?」

 20人近い人数で取り囲んでいた周囲の男達が、一気に5人も纏めて首を刎ねられた。黄泉津大神が大鎌を一振りするだけで、数人があっという間に死んでしまう。
 相手が人間ではないと悟った男達は、逃げようとしたが走り出そうとした者から斬られていく。そして気付いた、自分達が一方的に狩られる側でしかないのだと。
 つい先ほどまでは強気でいた筈の者達が、各々命乞いを始めている。死にたくないと訴えた者が、黄泉津大神に触れようとして腕を斬り飛ばされた。
 響き渡る男の絶叫が、他の男達をより深い恐怖へと叩き込んだ。どう見てもこの存在は、自分達を命とすら見ていない事が伝わった。

「お前達の魂は、地獄なんて上等な場所へは行かせない」

「あっ……あっ……」

「輪廻転生の輪から外れ、永遠に黄泉の国で玩具になるが良い」

 1人また1人と、男達が狩られていく。まるで収穫物でも採集するかの様に、無感情に斬り捨てられて行った。そして残ったのは、一面に広がる大量の死体。
 神坂家の一族と、無法者達の遺体があちこちに転がっている。そんな中に残された清志は、ただ美しい女神に抱き締められていた。
 翌朝になって出先から戻って来た、高嶋玲央奈たかしまれおなが戻るまで現場はずっとそのままだった。あまりの惨状に当時高校生だった玲央奈は、言葉を失ってしまう。
 それでも彼女は、神坂本家の護衛役を担う高嶋の娘。警察や魔導協会にすぐさま連絡を入れて、呆然としている清志を守る事に専念する。
 解除されていた警備システムを起動し直し、応援が来るまでただひたすらに清志を守護し続けた。
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