死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第20話 疑惑

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「失礼します」

 魔都京都が誇る最高クラスの魔術師育成機関。各分野の専門家が集まる嵯峨学園の職員棟。その最上階にある学園長室には、義姉である高嶋玲央奈たかしまれおながどっしりと構えている。
 机やソファー、棚やカップに至るまで全ての調度品が高級品。他国の大統領すら招くと言われているその室内は、相変わらず圧迫感が凄い。
 義姉からのプレッシャーではなく、汚したらどうしようと言う小市民的な発想で。触れる物全てが高級品なのだから。

「昼はちゃんと持って来たな?」

「まあ。そう言われるかなと思って」

「じゃあ食べながらで良い。詳細を教えてくれ」

 何やらパソコンに打ち込んでいたらしい手を止めて、義姉さんはこちらを見ている。昼休みに呼び出された時は、大体ここで食べながら話せと言われる。
 だから今日もそうだろうなと思って持って来てはいた。ただ、汚したらどうしようと気が気でない。非常に神経を使う昼食となるので、あまり好きではないし慣れない。
 どうせこうなると思ったから、油モノは弁当に入れなかった。焼き魚に天ぷら、フライ系は全て排除し野菜やアッサリした物を中心にしてある。ナイス判断と言えるだろう。

「それで、何が聞きたいの?」

「お前が処理した方だが、何か言っていたか?」

「いや? 特に役に立つ様な事は何も」

 魔導犯罪者に情けはかけないが、何の情報も得ずに処理はしない。それなりに吐かせようとは試みたが、ただの魔導犯罪者でしか無かった。
 いずれ貴様に神罰が下るだの何だの、散々喚き散らすだけで会話にならなかった。多少煽ったりもしてみたが、そちらも効果はなし。中東解放戦線としては、ただの使いっ走りなんじゃないだろうか。

「普通のただのテロリストだったけどな」

「ふむ、なら彼女が捕らえた方は当たりか?」

「えっ……もしかして何か喋ったの?」

 俺が担当した方は、特にこれと言って情報は持って居ない様だったが。特に目新しい情報も無く、斬った時に魂を調べて貰ったがそちらも空振り。
 魔導協会に属している者なら誰でも知っている様な内容ばかり記録されていた。俺の様な死神を擁する魔術師は、魂の情報を知る事が出来る。
 生前どんな事をして来たのか、どんな人生だったのか。その全てを知る事が出来る。だから悪人など、さっさと斬り捨ててしまえば良い。
 本人にいちいち問い詰めるより、斬った方が早い。ついうっかりと、ボロを出す事もあるから一応最低限は聞く様にはしているが。

「いや、大した情報はない。記憶や魂魄を探らせても新情報は無かった」

「じゃあ何が」

「迎えが来ると口走ったらしくてな」

「迎えって、それ……」

 増援もしくは救出部隊か? 今回の件はあれで終わりでは無いと言う事だろうか。それなら少々厄介な事になる。
 国際指名手配をされているテロ組織が、日本国内に平気で入り込めただけで問題だ。それがまだ続くと言うなら、どこから入って来ているのか早急に調べないと不味い事になる。
 今は2人しか居ないとは言っても、俺達は神坂の一族。国の癒やし手であり、護り手だ。国内でテロリストに好き放題させるなど、許す訳にはいかない。

「義姉さん、そいつ他に何か知らないのか?」

「残念ながらな。入国前に記憶と魂を弄られたのだろう」

「随分と徹底してやがる」

 だからあの女、あんなに会話が成り立たなかったのか。神が何だのと喚き散らすばかりで、ただの戦闘人形みたいな歪さだった。
 アイナが捕らえた方は、運良く改竄に不備があったのだろう。本来なら消えていた筈の記憶の断片から、たまたま口にしてしまったものと思われる。
 こうなって来るともう、アイナに全力で土下座するしかない。むしろ良くやったよ、グッジョブでしかないよ。足向けて寝られないって。

「待て義姉さん、じゃあ昨日の奴らは」

「ああ、陽動かも知れない」

「まんまと乗せられちまった」

「いや、あれは仕方ない。被害が最小限で済んだのだから十分だ」

 確かにそれはそうかも知れないけど、だからと言ってこの状況は宜しくない。大の為に小を見捨てるのは大嫌いだが、小の為に大を見逃す事を善しとはしていない。
 簡単にテロ組織に侵入されました、なんて事になれば普通にセキュリティ面での大スキャンダルだ。全く笑えない大問題となる。昨日の時点で、結構な騒ぎだったと言うのに。

清志せいじ、これを見ろ」

「これは、入国リスト?」

 義姉さんが壁面のスクリーンに表示したのは、海外からの日本への入国記録だった。昨年や一昨年と比べて、中東地域からの入国が今年は2割ほど多い。
 単なる観光客増加の可能性だってあるが、今回の件を考えると少々気になる数字だ。無関係と断じるのは早計だろう。

「この2割の増加だがな、うち8割が企業絡みだ」

「……まさか、テロ組織を招き入れた企業があるってのか!?」

「可能性の話だ。まだ誰にも言うなよ」

「分かった」

 随分と厄介な話になって来たな。中東系テロ組織の中でも、かなりの規模を誇る連中が国内に入ったとなれば一切の油断は出来ない。
 しかもそれを意図的に計画した国内企業が存在すると来た。ならばこの先、最悪の想定をしておかねばならない。
 まだ未成年ではあっても、俺はSランクの魔術師として、大人と変わらないだけの仕事をして来た。ここで役に立たない様では、何をして来たのかと笑われてしまう。

「私はこれから、神坂の者として御所で両陛下の護衛に参加する。暫く帰らんが任せたぞ」

「義姉さん、それなら俺も!」

「何の為にアイナと組ませたと思っている? いざと言う時は頼むぞ」

 適材適所と言う事ですか。確かに俺は護衛こそ出来ても、回復系魔術は平凡だ。対して義姉さんは回復魔術のエキスパートで、対人戦もAランクの中ではトップクラスだ。
 そんな人材を前線に出すよりも、俺やアイナを使う方が効率的だ。そう言う事なら俺は俺で、自由にやらせて貰おう。
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