死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第3章

第109話 パートナーの不在

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 アイナが母国アメリカに戻った日の翌日、清志せいじは早速パートナー不在の状態で事件の対応を求められていた。
 魔術を用いて作られた違法な薬品の密輸と密売、その容疑者を確保する為に清志は現地へと向かう。
 今回起きている事件は、魔術師でない者を魔術師に変えてしまう違法薬物が根源にある。

 この手の薬物は魔素に恵まれた土地である程、その効果がより高く発揮出来る。
 そして京都は日本でも特に魔術的要因に恵まれた土地だ、どうしてもこう言った代物を引き寄せてしまう。
 京都市左京区にある寂れた雑居ビルで、今夜0時に問題の取引が行われる予定だ。清志を始めとした、魔導協会の魔術師達がビルの周囲でマークしている。

「清志君、突入は任せるよ」

「分かりました」

「タイミングが来たら教えるから」

 現場で指揮を執っているベテランAランク魔術師が、清志に突入時の一番手を求めた。
 この様なやり取りも状況も、清志にとっては慣れたもの。何年も前から続けていた事だ。
 それでも今やパートナーがいる状況に慣れてしまったからこそ、清志は不便さを感じている。
 アイナが居ればな、と言う思いがどうしても浮かんでしまう。そんな内心を押し隠しながら清志が待機している間も、内部を透視している観測係が取引の様子を監視していた。
 中途半端な状況で突入しても、シラを切られてしまう可能性がある。隣に立つビルの屋上から監視を続けていた、20代の女性魔術師から連絡が入る。

『今です!』

「よし! 頼んだぞ」

「行きます!」

 リーダーからの指示が飛び、別のビルに潜伏していた清志が階段の踊り場から飛び出す。同じ様に待機していた突入班の面々が清志の後に続く。
 風の流れを魔術で操った清志は、そのままふわりと宙を舞う。向かいにあったビルの3階に窓から突入し、素早く武装した集団を制圧していく。
 遅れて窓やドアから突入して来た残りの魔術師が、清志に続いて戦闘を開始する。

 瞬く間に武装をしている犯人グループの護衛役達は無力化され、残ったのは2つのグループのリーダーだけ。
 片や京都での勢力を著しく失いつつあったヤクザの組長で、60代ぐらいの和服を来た老人だ。
 そしてもう1人は、東南アジア系のマフィア。30歳ぐらいの比較的若い浅黒い肌を持つ男だった。

「what happened!?」

「なんじゃ貴様ら!」

「魔導協会の魔術師だ。大人しくして貰おうか」

 この場で最も若い清志が、大人2人に向かって警告する。日本語を話せないらしいマフィアの外国人は、英語で何かを喚き散らしている。
 何を言っているのか、清志には把握し切れなかったが意味は想像が出来た。恐らくはガキの癖に何だお前は、と言ったありきたりな発言と思われる。
 一方でヤクザの組長は、伊達に日本でヤクザなんてやっているだけに理解していた。目の前で大鎌を構えている少年が、一体何者であるのかと言う事を。
 ここ京都で大鎌を持つ少年が意味する所は、魔導犯罪者を狩る者の象徴。この地で悪事に手を染める者であれば、絶対に敵対してはならない相手。

「Holy shit!」

「アカン! 無駄や!」

「抵抗は無意味だ」

 ヤクザの老人が静止するも虚しく、マフィアの男は懐から拳銃を取り出す。しかし銃口を清志に向ける前に拳銃は切り裂かれ、鋭い掌打が男の顎を捉えた。
 一瞬にして意識を刈り取られた男は、ガクリと床に倒れ込んだ。制圧された時点で抵抗を諦めていたヤクザの老人は大人しく確保され、ここに居る全員が逮捕される事となった。
 言い逃れの出来ない完璧なタイミングで突入した為、減刑を願ってもまともに通りはしないだろう。
 あっさりと事件を解決した清志だったが、やはり満足のいく結果にはならなかった。

「助かったよ清志君、いつもすまないね」

「いえいえ、これも仕事ですから」

「夏休みだと言うのに、相変わらず真面目だね君は」

 リーダーの男性と和やかに会話を交わしながら、清志は脳内で先ほどの戦闘を思い返していた。
 もしここにアイナが居たならば、ほぼ同時に突入して二手に分かれて制圧開始。今回よりも短い時間で無力化を済ませて、抵抗もさせずに終わっただろう。
 マフィアの男が所持していたのは魔導銃であり、アイナに魔力弾を撃ち込まれて終了していた。これが清志1人だと、何もかもが足りていない。

 わざわざ魔導銃を切り裂いて、対象の意識を奪う様な行動は必要にならなかった。
 2人から1人に戻った事で、かつての自分が如何に非効率的な事をやっていたのか良く分かる。
 清志はそんな反省をしつつ、現場を離れて魔導協会京都支部へと向かう。

安達あだとさん、俺です。今から戻ります」

『あら清志君、早かったわね』

「……まあ、一応は」

 魔導協会で清志のオペレーターをしてくれている安藤奈緒子あだちなおこに連絡を入れ、清志は帰還する旨を伝える。
 奈緒子から見れば十分スピード解決だったが、清志の理想からは既に遠い。春頃とは大きく変わってしまった自分の思考を自覚しつつ、清志は真夜中の京都を歩いていた。
 自分で思っている以上に、アイナの影響を受けているのだと清志は知った。
 それがただの友情から来た影響なのか、プロの魔術師としてなのか、それともそれ以上の感情が絡むのか。今の清志には、そこまでの事は良く分かっていなかった。
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