王国最強の暗殺者《アサシン》は時を駆け抜ける

ユー@焼き

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第1章 王国最強の暗殺者

第8話 演技

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 第二異能学校、一年四組クラス。僕が所属するクラスでいつものように、僕たち四人は集合している。

 なんてことない、日常の一幕。でも、その意味が若干変わってしまったように思えるのは、恐らく間違いじゃない。

「こないだ俺らにとっちゃあ初めての異能試験があったじゃん?」

 ジークはそう言って、僕たち三人の顔を一瞥する。

「あれさ、あと二週間で開催される学校別異能選手権のメンバーを決める意味もあるんだってさ!」

 意気揚々と語るジークに、リムネは溜息を一つ吐いた。

「そんなこと知ってるわよ」
「え?マジ!?もしかして、クリアとリムネも!?」

 驚愕に満ちた表情で詰め寄ってくるジークに、僕は頷いた。

「……入学式のとき言ってたじゃん」
「うっそぉ!?」
「どうせ、ジーク寝てたんでしょ」
「あー、うん。寝てたわ」
「ほらね。ジークは人の話を聞くのとか無理だから、絶対寝てると思ってたよ」
「ひどっ!クリアひどっ!」

 ジークは相変わらずの調子で、大袈裟に反応する。この掛け合いも変わらない。以前と同じ。

 ——そう、何一つとして。


 僕はジークとリムネが既に防衛軍として活動していることを知っている。逆に、二人は僕とフィアが革命軍側の同じ組織に入っていることなんて知らないだろう。

 もしもそのことを知っていたとすれば、ジークは隠せない。馬鹿正直で純粋で。だからみんなが安心できるのだ。

 いや、でも僕はフィアに言われるまで防衛軍のことを知らなかったじゃないか。確かにジークの行動や言動が怪しかったときは何度もあった。けど、元来探究心がそれほど強くなかった僕はそんなに気にも止めなかったし、結果としとフィアに告げられるまで、何も知らない子供だったのだ。

 ならば、どうして僕がジークを理解しているような錯覚に陥っていたのだろう。どうしてジークは信じられると高を括っていられたのだろう。

「それでさ、その発表日が今日らしいぜ。放課後に掲示板に張り出されるってさ」
「へぇ」

 自分が存じていなかった情報をジークが口にしたので、僕は相応の反応をしたのだが、そのせいでジークが自慢気な面相をしたのを見て、しまったと思った。

「お?その反応は知らなかったって顔だな?だよな!?」
「うん」
「っシャー!」
「……めっちゃ元気だね」
「そりゃあな!だって、選手権の各部門で優勝すれば、防衛軍に入るのは確定的って言われてるくらい大事な大会だせ!?しかも、学年別でメンバーも選出されるんだから、俺は絶対選ばれてる!」
「…………そっか」

 多分、フィアから何も聞いていなかった過去の自分なら自信満々なジークに苦笑しながらも、そんな彼に羨望を抱いていたのだろう。

 だけど、今は。今だけはそんな風にジークが嘘をつく姿を見たくなかった。憧れでいさせて欲しかった。

 正直者のジークは一体どこに行ってしまったのだろうか。いや、それすらも僕の幻想だったのかもしれない。自分の理想をジークに押し付けて虚像を見ていた。愚か極まりないことだ。

「ねぇ、ジーク」
「ん?どうした?」
「……ううん、僕も選ばれてるといいけどなって」
「クリアなら選ばれてるって!中学の頃は戦闘能力の高い異能が優遇される傾向があったけど、高校になれば、それも平等になるわけだからな!そう考えたら、補助系異能で瞬間転移テレポートを持ってるクリアに並ぶやつはいないだろ!なんてったって俺の親友だからな!!」

 悪意のないであろうこの言葉。恐らく、ジークは本気でそう思ってくれている。

 でも、それすら、僕は過敏に反応してしまう。親友って何だろう、と。

「……そうだね」

 知らなければよかった、なんて都合のいいことはいっても仕方がないとは頭ではわかっていても、どうしても考えてしまう。

 それからジークが色々と目を輝かせて喋っていたが、ほとんど聞き流していた。


 ●●●


 放課後になり、僕たちは人だかりができている掲示板にやってきていた。

 みんな、将来防衛軍に所属したいと夢見ている生徒たちだから、当然といえば当然だ。そして僕も、ジークに連れられてこの群衆に紛れ込んでいた。

「よっしゃー!あったぞー!」

 ジークがずらずらと書かれた文字の羅列の中に自身の名前を発見して、雄叫びをあげている。どうしてそんなにも嬉しそうにするのか。もう、防衛軍に入っているというのに。

 一応、僕も名前を探してみることにした。

「ん……えと、あ、あった」
「お、あったか!?」
「うん」
「やったな!クリア!」
「うん……」

 別に、僕は喜びも何も感じなかった。どちらかというと、無い方が良かった。
 異能選手権のメンバーに選ばれると、放課後に拘束されることが増えるし、夜明けのDaeg使者manとして活動していくと決めた以上、足手纏いになることだけは避けたい。

 妹を救えるのは、僕だけだ。これだけは、他の誰にも理解できない。そんな自分のエゴが僕の動力源だから。

 僕たちは、集団から少し離れて、リムネとフィアが結果発表を見てやってくるのを待つことにした。

「これって合格したら、いつから練習が始まんの?」
「あー、月曜日からだな。その日に体育館で集会がある」
「日程的にも案外練習少ないんだね」
「そうだな。元々うちは異能訓練に力を入れてるし、基本的にやることは変わんないから大丈夫なんだろ」

 そこで、リムネとフィアの二人がこちらに早歩きしているのが見えた。

「おお。どうだった結果」

 ジークが直球に訊く。

 すると、フィアはふるふると顔を控えめに振り、暗そうに俯いた。

「私は名前あったけど、フィアは……」
「……なかった」

 明らかに気まずい雰囲気が来訪し、僕たちは黙り込んだ。これがフィアの演技だとわかっている以上、僕も同調する以外の選択肢はなかったのだ。

「そうか……。まぁ、でもまだチャンスはあるからな!気にするなって!」

 ジークがバシバシとフィアの背を叩く。リムネはその手を勢いよく払った。

「ちょっと、そんなに強く叩いたら痛いでしょ!?あんなたは加減って言葉を知らないわけ!?」

 また始まった。今回はどれだけ長引くことだろうか。できれば、この二人は放っておいて帰りたい。

「二人とも……やめて」

 フィアの一声でどうでもいい口論が止んだ。ここでフィアが口を挟むのが、最も効果的であったが、普段のフィアなら想定できない事態ではある。

 もしかすると、僕がフィアという人物の素性に踏み込んでしまったことに、多少なりとも動揺があるのかもしれない。いや、それはないか。

 あのときのフィアは今でも目に焼き付いている。正直、眼前で身体を震わせて小動物のようにしている人物ではなかった。

 あれは——僕と同じ目だ。人を殺してきた目。濁りきった目。そして——心のどこかで何か漠然としたものに憧憬している目。

「ごめん、フィア。口を荒げちゃって」
「ううん。大丈夫」
「俺も……ごめん」
「大丈夫、だよ」

 フィアは、いかにも自分らしい気弱そうな笑みを零していた。
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