エルゼリアの石 -Stones of Erserhia-

水野煌輝

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第1章 守護神石の導き

第3話 親友と進む旅路(1)

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グレンアイラを発ってからおよそ一時間後、ティムはカーネギーに到着した。
村の雰囲気はグレンアイラとさほど変わらない。やけに屋根の低い家屋が立ち並ぶ、田舎の集落である。
ティムはこれまで何度もカーネギーに来たことがある。カーネギーはグレンアイラから近く、簡単に来れるからだ。時間があればぶらりとカーネギーを訪れ、ライアンと酒を飲みかわすことも多かった。

ティムは真っ直ぐライアンの家へと向かった。恐らく自分が来るのを今か今かと待っていることだろう。ライアンの家は、丸太でできた頑丈そうな板ぶきの家だ。二階建てで、他の家と比べても一回り大きい。

ドアをノックすると、中から出てきたのはライアンの母、カイリーだった。

ティムの顔を見ると、カイリーはにっこりと微笑み優しくハグをした。
「久しぶりね、待ってたわよ」

「カイリーおばさん、久しぶり」
ティムも微笑み返す。
「ライアンはいる?」

「今おつかいにいってもらってるのよ。もう少ししたら帰ってくるから、中でゆっくりしていてちょうだい」

カイリーに案内され、家の中に入る。一階は間取りが二つあり、広々としていた。中に入ってすぐの部屋には暖炉があり、その近くに座り心地の良さそうな革貼りのイスが三つと、小さなテーブルが置かれていた。

カイリーはその部屋を通り過ぎ、奥にあるダイニングルームに向かった。部屋の中心に真新しい木のテーブルが置かれ、その横に立派なキッチンが添えつけられている。

「今紅茶を煎れるわね」
そう言いながら、カイリーはやかんをかまどの上に置いた。かまどの上では、他にも鍋が火にかけられていた。

紅茶ができ、ティムが湯気立つティーカップにふうふうと息を吹きかけ飲もうとしていた時、扉の開く音が聞こえた。ライアンが帰ってきたようだ。ティムはティーカップを置き、扉の方へ向かった。

ティムの顔を見ると、ライアンは満面の笑顔になった。トレードマークである金色の長髪は、しばらく見ない間にさらに伸びていた。

「ティム、よく来たな!」

「ライアン、久しぶりだな」

そう言って、二人は固く抱き合った。

鍋をへらでかき混ぜながら、カイリーが言う。
「もうすぐシチューも出来上がるわよ。ティムもお昼はまだなんでしょう?みんなで食べましょうよ」




カイリーの作った栄養たっぷりのシチューとライアンの買ってきたパンを食べながら、三人は会話に花を咲かせた。

「それにしても、あの怠け者のティムが本当に決断するとはなあ」
ライアンが悪戯っぽい目つきでティムを見る。
「俺は絶対面倒臭がって断ると思っていたんだけど」

「こーら、ライアン。ティムだって、やる時はやるのよ。ねえ、ティム?」と、カイリー。

「いやあ、そうだといいんだけどねえ」
スプーンを口へ運ぶと、ティムはもぐもぐと口を動かした。
「実際、引き受けたことに、俺自身驚いてるもん」

「ハグルさんから聞いたぜ、お前の親父さんのこと。やっぱり背中を追うのか?」

「うーん、ちょっと違うな」
ティムはしばらく考えると言った。
「やっぱり、これが俺の運命だからだ。俺は神の化身であるサファイアに見出された存在だから。何かを起こさないといけないんだ」

確かに父親の思いを無駄にしたくないという気持ちは、少なからずある。しかしそれ以上に、グラハムやベネッサの言う通り、ティムはこの旅は自分の運命だと考えていた。石に選ばれた以上、自分が何かしなければいけないと感じていた。

「へえ。真面目なこと言うようになったじゃないか、ティム」
口の中の物を飲み込むと、ライアンは続けた。
「まあ、お前にはサファイアだけじゃなくて、俺の持ってるルビーもあるからな。確かにお前の言う通り、これは運命なのかもしれない」

もう少しでティムは、パンを噛まずにそのまま飲み込んでしまうところだった。
「ライアン、今何て?」

ライアンは、目をぱちくりさせた。
「あれ、もしかして何も聞いてない?」

「ちょっと待ってよ。ライアン、守護神石の一つを持っているのか?」

「ああ、そうだよ」
ライアンは苦笑した。
「どうやらハグルさん、重要なことを伝えるの忘れてたみたいだなあ」

ライアンは、ベルトに括り付けてある革の袋から石を取り出し、テーブルの上に置いた。燃えるように赤い輝きを放っている様は、明らかに普通の石ではなかった。

「これ、ガキん時に森で拾ってから、ずっと持ってたんだ。守護神石っていうもんだっていうのは、最近ハグルさんに教えてもらったんだけどね。どうやらルビーっていう名前の石らしい」

「触ってもいいか?」

ライアンが頷くと、ティムはルビーを手に取り、見入った。
「すごい。まさかライアンが持っていただなんて・・・」

こんな身近な所に、守護神石がもう一個あるなんて思っていなかった。

まだ目を丸くしながらルビーを見ているティムに、ライアンが言う。
「そのルビーは、お前にやるよ」

ティムが顔を上げる。
「え、いいのかい?」

「当たり前じゃねえか。俺が持っていたって仕方ないだろう」

ティムは微笑んだ。
「そうか。ありがとう、ライアン」

「俺はヘーゼルガルド軍に入隊する。だから途中までしかお前の旅には付き合えない。さすがに、これは聞いてるよな?」

「ああ」

「だから、これは俺がお前のためにできる数少ないことなんだ。本当ならもっと力になりたかったんだが」

「何言ってるんだよ。ヘーゼルガルドの兵士になることは、お前の小さい頃からの夢じゃないか。俺のことなんか気にせず、自分の夢を追い続けてくれよ」

「そうか。悪いな、ありがとう」

「後、このルビーなんだけど」
ティムは、持っていたルビーをライアンの方へ差し出した。
「ヘーゼルガルドに着くまで持っていてくれよ。元々お前の物だからその方がいい」

「ああ、いいぜ」
ライアンは、ルビーを再度受け取ると、残りのシチューを口にかき込んだ。



食事が終わり、ライアンの旅支度も終わると、いよいよ出発の時となった。

「お父さんによろしくね」
ドア越しにカイリーが、旅装束に身を包んだライアンに言った。

「ああ。次に帰ってくる時は、親父も一緒だな」
ライアンはきれいな白い歯を見せながら、にかっと笑った。

「じゃあ、気を付けるんだよ」
カイリーは、ライアンを抱き締めると、頬にキスをした。

「お袋も、体に気を付けてな。行ってくるよ」

「ティムもこれから大変だろうけど、しっかり頑張るんだよ」
そう言ってカイリーは、ティムのことも抱き締めた。

「ありがとう、おばさん。行ってきます」

二人はカイリーに別れを告げると、その場を後にした。
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