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第1章 守護神石の導き
第10話 生き延びる策略(1)
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ソニアの下で魔法の修行を始めてから、六日が経とうとしていた。ヘーゼルガルドはもう目前だ。今一行は鬱蒼とした森を進んでいる。
突然木陰からゴブリンが数体、吠えながら飛び出してきた。
「ティム!」
ソニアが言うと、ティムは「分かってるって!」と言って右手を上に上げる。
「空を乱舞する烈風を刃に変えよ」
ティムがそう唱えて腕を振ると、鋭い風がゴブリンを襲った。一体のゴブリンが真っ二つに分かれる。
「どりゃっ!」
ライアンが残りのゴブリンに剣を振り降ろし、斬り捨てた。呆気なくゴブリンたちは地面に崩れ落ちる。
「なかなか良い一撃でしたよ、ティム」
ソニアが笑顔でティムを褒めると、ティムは「いやあ、そんなことあるよ」と頭を掻きむしりながらおどけた。
「ちぇっ」
褒められているティムを見て、ライアンが拗ねる。
そんなライアンを見て、ソニアは困ったような表情で言った。
「そう気を落とさないでください。ライアンもいつか、魔法が使いこなせるようになりますよ」
「本当かよー。全然そんな気がしねーよー」
ライアンが溜息混じりに言う。
「ライアン・・・」
ティムが悲しそうな目で、ライアンの肩に手を置く。
「これが生まれ持った才能の違いだよ」
「だぁー!うるせー!今に見てろよ!てめえを黒焦げにしてやるからな!」
ティムが腕を組む。
「いいだろう。かかってきなさい。でもまずは焚火の種火くらい起こせるようになってくれないと、お話になりませんな」
「キー!何も言い返せねー!」
ライアンは歯を食いしばりながら、地団駄を踏んだ。
実際のところ、ティムの上達の速さはソニアも舌を巻く程だった。魔法を自在に扱えるようになるまで一週間とは言ったものの、実はどれだけ早くても十日はかかると踏んでいたのだ。それをティムは一週間足らずで来ている。ティムが自分でも言っているように、これは生まれ持った才能と言えるだろう。
「あーあ。面白くねえの」
ライアンは地面に積もった落ち葉を蹴り上げると、ふと呟いた。
「そういえばゴブリンの奴ら、どんどん弱くなってきてないか?」
「ああ、言われてみれば確かに」
ティムも頷いた。
「いえ、そんなことないですよ。むしろ進むにつれて少しずつ強くなってきているくらいです」
ソニアは、一息吐くと言った。
「二人が強くなっているんですよ」
「俺たちがあ?」
ライアンは口を下に大きく開いた。
「ここのところ魔法の練習しかしてねえぞ」
ティムもきょとんとした顔でソニアを見ている。
「だからこそ強くなってるんですよ」
ソニアが、二人の顔の前に人差し指をぐっと突き出す。
「守護神石は戦闘能力を上げるっていう話をしたの、忘れてしまったんですか?」
二人は顔を見合わせた。
ティムが言う。
「そういえば、そんなこと言ってたね」
「度合いの違いはあれど、今は二人とも共鳴ができますね。石と共鳴することができれば、肉体能力が強化されるんです。サファイアのティムは、攻撃力、耐久力、魔力の三つがバランス良く、ルビーのライアンは、攻撃力が大きく伸びます」
「何だ、俺はいまいち強くなった実感がわきにくいじゃない」
ティムはつまらなそうに呟いた。
「ってことは、俺は今とんでもねえ力持ちってことか?!」
ライアンが、得意げに拳で空を切ってみせる。
「以前より、パワーは上がっているはずです。でも伸び幅は、石とどれだけ深く共鳴ができているかにもよるので、ライアンの場合そこまで伸びてはいないかもしれないですね」
「このタイミングでディスるかフツー?」
ライアンがしょんぼりとうなだれる。
ソニアは少し申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい、ライアン。でもライアンはこれからの頑張り次第でいくらでも伸びていきますよ!」
「頑張るよー。トホホ」
次にソニアは、二人に力強い口調で言い放った。
「とにかく、これで共鳴の大事さが分かったはずです。基礎練習も怠らずに、これからも頑張りましょうね」
一行は再び森の中を進み始めた。この調子なら明日にはヘーゼルガルドに着けるかもしれない。
「ライアンとももうすぐお別れだな」
落ち葉を踏みしめて歩きながらティムが言う。その声は努めて明るかったがどこか寂しげだ。
「そうだなあ」
ライアンは少し思考を巡らせてから、穏やかな口調で言った。
「でも別に金輪際の別れじゃねえさ。俺はヘーゼルガルドにいるから、いつでも会いに来いよ」
「ライアンがいなくなると寂しくなりますね」
ソニアも少し表情を陰らせる。
ライアンは両手で頭を抱えた。
「だぁー!やめろ!辛気臭いのは苦手だ」
「やっぱり、何だかんだずっと付いてくるんじゃないの?」
ティムは期待を込めてそう言ったが、ライアンはそれを制した。
「いや、付いていきたいのは山々だが、親父が俺のことを今も待ってる。それにヘーゼルガルド軍に入ることはガキん時からの俺の夢だ。俺はヘーゼルガルドに残るよ」
「そうだよな。お前あんなにいつもヘーゼルガルドの話してたもんな」
ティムはこれまでのライアンの言動を思い返し、しみじみと呟いた。
その時だった。
悲鳴のような叫び声が、遠くから響いてきた。
一行は一斉に足を止める。
「今、聞こえたか?」
ライアンの口ぶりは、自分が聞いたものが間違いではないか、確かめるようだった。
「はい。聞こえました」
ソニアが張り詰めた声で応じる。
「女性の悲鳴です。それ程遠くないでしょう」
ライアンは片手で顎を触った。
「どこかで誰かが襲われてるはずだ。声はどの方向から聞こえた?」
ライアンが言い終わるよりも前に、再度悲鳴が聞こえてきた。今度は長くはっきりと聞こえた。
ソニアがすかさず指を差す。
「あっちです!あっちの方から悲鳴が!」
すぐさま三人は、ソニアが指し示した方角へ駆けだした。
突然木陰からゴブリンが数体、吠えながら飛び出してきた。
「ティム!」
ソニアが言うと、ティムは「分かってるって!」と言って右手を上に上げる。
「空を乱舞する烈風を刃に変えよ」
ティムがそう唱えて腕を振ると、鋭い風がゴブリンを襲った。一体のゴブリンが真っ二つに分かれる。
「どりゃっ!」
ライアンが残りのゴブリンに剣を振り降ろし、斬り捨てた。呆気なくゴブリンたちは地面に崩れ落ちる。
「なかなか良い一撃でしたよ、ティム」
ソニアが笑顔でティムを褒めると、ティムは「いやあ、そんなことあるよ」と頭を掻きむしりながらおどけた。
「ちぇっ」
褒められているティムを見て、ライアンが拗ねる。
そんなライアンを見て、ソニアは困ったような表情で言った。
「そう気を落とさないでください。ライアンもいつか、魔法が使いこなせるようになりますよ」
「本当かよー。全然そんな気がしねーよー」
ライアンが溜息混じりに言う。
「ライアン・・・」
ティムが悲しそうな目で、ライアンの肩に手を置く。
「これが生まれ持った才能の違いだよ」
「だぁー!うるせー!今に見てろよ!てめえを黒焦げにしてやるからな!」
ティムが腕を組む。
「いいだろう。かかってきなさい。でもまずは焚火の種火くらい起こせるようになってくれないと、お話になりませんな」
「キー!何も言い返せねー!」
ライアンは歯を食いしばりながら、地団駄を踏んだ。
実際のところ、ティムの上達の速さはソニアも舌を巻く程だった。魔法を自在に扱えるようになるまで一週間とは言ったものの、実はどれだけ早くても十日はかかると踏んでいたのだ。それをティムは一週間足らずで来ている。ティムが自分でも言っているように、これは生まれ持った才能と言えるだろう。
「あーあ。面白くねえの」
ライアンは地面に積もった落ち葉を蹴り上げると、ふと呟いた。
「そういえばゴブリンの奴ら、どんどん弱くなってきてないか?」
「ああ、言われてみれば確かに」
ティムも頷いた。
「いえ、そんなことないですよ。むしろ進むにつれて少しずつ強くなってきているくらいです」
ソニアは、一息吐くと言った。
「二人が強くなっているんですよ」
「俺たちがあ?」
ライアンは口を下に大きく開いた。
「ここのところ魔法の練習しかしてねえぞ」
ティムもきょとんとした顔でソニアを見ている。
「だからこそ強くなってるんですよ」
ソニアが、二人の顔の前に人差し指をぐっと突き出す。
「守護神石は戦闘能力を上げるっていう話をしたの、忘れてしまったんですか?」
二人は顔を見合わせた。
ティムが言う。
「そういえば、そんなこと言ってたね」
「度合いの違いはあれど、今は二人とも共鳴ができますね。石と共鳴することができれば、肉体能力が強化されるんです。サファイアのティムは、攻撃力、耐久力、魔力の三つがバランス良く、ルビーのライアンは、攻撃力が大きく伸びます」
「何だ、俺はいまいち強くなった実感がわきにくいじゃない」
ティムはつまらなそうに呟いた。
「ってことは、俺は今とんでもねえ力持ちってことか?!」
ライアンが、得意げに拳で空を切ってみせる。
「以前より、パワーは上がっているはずです。でも伸び幅は、石とどれだけ深く共鳴ができているかにもよるので、ライアンの場合そこまで伸びてはいないかもしれないですね」
「このタイミングでディスるかフツー?」
ライアンがしょんぼりとうなだれる。
ソニアは少し申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい、ライアン。でもライアンはこれからの頑張り次第でいくらでも伸びていきますよ!」
「頑張るよー。トホホ」
次にソニアは、二人に力強い口調で言い放った。
「とにかく、これで共鳴の大事さが分かったはずです。基礎練習も怠らずに、これからも頑張りましょうね」
一行は再び森の中を進み始めた。この調子なら明日にはヘーゼルガルドに着けるかもしれない。
「ライアンとももうすぐお別れだな」
落ち葉を踏みしめて歩きながらティムが言う。その声は努めて明るかったがどこか寂しげだ。
「そうだなあ」
ライアンは少し思考を巡らせてから、穏やかな口調で言った。
「でも別に金輪際の別れじゃねえさ。俺はヘーゼルガルドにいるから、いつでも会いに来いよ」
「ライアンがいなくなると寂しくなりますね」
ソニアも少し表情を陰らせる。
ライアンは両手で頭を抱えた。
「だぁー!やめろ!辛気臭いのは苦手だ」
「やっぱり、何だかんだずっと付いてくるんじゃないの?」
ティムは期待を込めてそう言ったが、ライアンはそれを制した。
「いや、付いていきたいのは山々だが、親父が俺のことを今も待ってる。それにヘーゼルガルド軍に入ることはガキん時からの俺の夢だ。俺はヘーゼルガルドに残るよ」
「そうだよな。お前あんなにいつもヘーゼルガルドの話してたもんな」
ティムはこれまでのライアンの言動を思い返し、しみじみと呟いた。
その時だった。
悲鳴のような叫び声が、遠くから響いてきた。
一行は一斉に足を止める。
「今、聞こえたか?」
ライアンの口ぶりは、自分が聞いたものが間違いではないか、確かめるようだった。
「はい。聞こえました」
ソニアが張り詰めた声で応じる。
「女性の悲鳴です。それ程遠くないでしょう」
ライアンは片手で顎を触った。
「どこかで誰かが襲われてるはずだ。声はどの方向から聞こえた?」
ライアンが言い終わるよりも前に、再度悲鳴が聞こえてきた。今度は長くはっきりと聞こえた。
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「あっちです!あっちの方から悲鳴が!」
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