3軍男子の俺が1軍男子のアイツに求愛されるようになりました

休日の白

文字の大きさ
11 / 11

11

しおりを挟む
 昼休みのチャイムが鳴る。
 ざわめきの中、神谷は席を立ちながら前の席にいる俺へ軽く振り返った。

 「透、購買行く?」
 「今日はいい。弁当あるし」
 「そっか」

 茶色の前髪が少し湿っていた。朝、登校中に小雨をかぶったらしい。
 湿った髪から、かすかにシャンプーの匂いが漂う。
 なんでもない仕草なのに、目が離せなかった。

 神谷はそのまま教室を出ていく。
 後ろ姿に、クラスメイトの視線が集まる。
 彼が誰かと話すだけで、空気がわずかに揺れる。
 ……いつも通りの人気者。
 それなのに、今日は少し遠く感じた。

 「ねえ、相沢くん」
 隣の席の女子が、小声で話しかけてきた。
 「神谷くんって、最近ずっと一緒にいるよね?」
 「……まあ、放課後とかは」
 「やっぱり。なんか仲良すぎてさ、クラスでちょっと噂になってるよ」

 言葉が喉にひっかかった。
 笑ってごまかそうとしたけど、うまく笑えなかった。

 午後の授業が始まっても、教科書の文字が頭に入ってこない。
 “噂”という言葉だけが、ずっと脳裏にこびりついていた。

 放課後。
 雨がまた降り出した。
 昇降口で傘を差し出したのは、神谷だった。

 「透、傘持ってる?」
 「持ってない」
 「じゃ、入れよ。どっちみち駅まで一緒だろ」

 そう言って、自然に俺の肩を引き寄せる。
 傘の中、距離が近すぎる。
 濡れた制服の袖が触れ合って、心臓の音が妙に大きく響いた。

 「……なあ、噂、聞いた」
 神谷が低い声で言った。
 「お前、気にしてる?」
 「別に」
 「嘘つけ。顔に出てんぞ」

 雨音に紛れて笑う神谷の声が、どこか寂しげだった。
 俺はうつむいたまま、言葉を探した。

 「……嫌じゃないのか? そういう噂」
 「うん、別に」
 「“別に”って……」
 「だって、事実だろ。お前と一緒にいるの、好きだし」

 息が止まった。
 神谷はそれ以上言わず、傘を少し俺の方へ傾けた。
 濡れないように。
 その優しさが、雨よりも冷たく胸に沁みた。

 ――次の日、美術室。

 俺は窓際でスケッチブックを開いていた。
 外では、雨がやんで光が差し始めていた。
 虹のような淡い色が、ガラスに映っている。

 ドアが開く音。
 神谷が入ってきた。
 周囲には誰もいない。
 いつもの笑顔を浮かべていたが、目の奥に疲れが見えた。

 「透。……昨日のこと、ちょっと言いすぎた」
 「別に。俺も……言葉足りなかった」
 「噂とか、くだらないのに気にすんなよ。俺が気にしてないんだから」
 「でも、お前まで悪く言われたら――」
 「それでも、いい。お前が笑ってくれる方が、ずっとマシだから」

 静寂の中、時計の秒針が音を立てる。
 神谷の手が机の上に伸び、俺の手のすぐそばで止まる。
 触れそうで、触れない距離。

 外では、雨が完全にやんでいた。
 光が差し込んで、二人の影がゆっくりと重なった。
 その瞬間、神谷がぽつりとつぶやく。

 「……透。もし、全部バレてもさ。俺は後悔しないと思う」

 その声に、胸の奥で何かがほどけていく。
 俺は小さく笑った。

 「お前、ほんとバカだな」
 「うるせぇ」
 そう言いながらも、神谷は笑っていた。
 光の中、その茶髪が柔らかく輝いて見えた。

 ――雨上がりの空の下で、俺たちは少しだけ強くなれた気がした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...