3軍男子の俺が1軍男子のアイツに求愛されるようになりました

休日の白

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 期末テストが終わった教室は、妙な解放感に包まれていた。
 「海行こうぜ!」「英表マジ無理!」と、あちこちから浮かれた声が飛び交う。
 その中心で、神谷が笑っていた。肩を組まれ、軽口を返している。
 ――いつもの光景。
 けれど、その笑顔がどこか張りついて見えたのは、俺の気のせいだろうか。

 神谷がこちらに気づいて、手を振った。
 「おーい、透! 英表どうだった?」
 「最悪。単語、半分カンで書いた」
 「マジ? 俺もだよ」
 「それ、笑えないやつ」
 俺が苦笑すると、神谷は楽しそうに肩をすくめた。
 他のクラスメイトといる時よりも、その笑い方はやわらかく見えた。
 それに気づくたび、胸の奥が小さく波打つ。

 「なあ、透。文化祭、出し物どうなるかな」
 「今日ホームルームで決めるらしいけど」
 「マジかー、どうせクレープとかだろ」
 「去年もだったらしいよ」
 「じゃ、もう一回やる? “二年B組・焼けたクレープ編”」
 「焦がす気満々じゃん」
 二人で笑った。
 笑っているだけの時間が、どうしようもなく愛おしかった。

 ***

 放課後。ホームルームが終わると、クラスの空気は一気に文化祭モードになった。
 「装飾班、誰やる?」「買い出し行ける人ー?」と声が飛び交い、教室が小さな戦場のように騒がしい。
 気づけば、神谷が文化祭実行委員に推薦されていた。
 「神谷なら、顔が広いしまとめ役向いてるっしょ!」
 「いや、俺より桐原とかのほうが……」
 「決まり決まり!」
 そんな調子で拍手が起こり、神谷は苦笑しながら立ち上がった。
 その視線が、一瞬だけ俺の方を見た。
 ――困った時、助けてくれよ。
 無言のサインに、俺は小さくうなずいた。

 放課後、神谷は装飾のラフを描きながらつぶやいた。
 「なあ透、こういうのセンスあるだろ? 一緒にやろうぜ」
 「俺、美術は“3”だよ?」
 「じゃあ俺が描く。透は意見だけくれ」
 「便利な言い方すんな」
 「褒めてるって」
 神谷は笑って、ポスターに筆を走らせた。
 蛍光マーカーのインクが光を反射して、机の上が少しだけ明るくなる。
 その横顔を見ていると、時間がゆっくり流れていく気がした。

 「なに、見てんの」
 「……別に」
 「嘘つけ」
 「ほんとに別に」
 「ふーん」
 神谷はペン先を止め、俺の顔を覗き込んだ。
 その距離に、息が詰まる。
 けれど神谷はすぐに視線を戻し、何事もなかったようにまた描き始めた。
 ――なぜか、少し悔しい気がした。

 ***

 数日後。
 放課後の教室に残って、装飾の準備をしていた。
 窓の外では雨が降り出していて、ガラスにぽつぽつと水滴が滑り落ちていく。
 「やば、降ってきたな」
 「傘持ってる?」
 「持ってきたけど……透、持ってないでしょ」
 「……うん」
 「じゃ、俺んとこ寄ってけよ。傘、二本ある」
 「いや、悪いって」
 「いいから」
 神谷の声が、いつになく穏やかだった。

 沈黙の中で、雨音だけが響く。
 神谷はポスターを手に立ち上がり、黒板の上に貼っていった。
 「な、透。これ、どう?」
 「うまい。てか、もうそれで完成でいいんじゃね」
 「お前の“うまい”は信用ならん」
 「じゃ、すげー上手い」
 「それもなんか嘘くせえ」
 そんな軽口を交わしながら、二人で笑った。
 外の雨が強くなり、窓の外がぼやけて見えた。

 ふと、神谷がポスターの端を押さえながら言った。
 「……なあ、透」
 「ん?」
 「お前といると、落ち着く」
 突然の言葉に、手の動きが止まった。
 「なんか、いろいろあるけどさ。お前といる時だけは、何も考えなくていい」
 「……俺も、そうかも」
 その一言がやっと絞り出せた。

 静かな雨音の中で、神谷の笑顔が少し滲んで見えた。
 何か言おうとしたけれど、言葉にならなかった。
 胸の奥で波打つ鼓動が、やけにうるさい。

 教室の外では、誰かの笑い声が聞こえた。
 ――“あの二人、最近よく一緒にいるよね”
 そんな囁きが、現実へと引き戻す。
 神谷はそれに気づかないふりをして、俺の方を見た。
 「雨、やみそうにないな」
 「……そうだな」
 「じゃ、やっぱり寄ってけよ。家、近いし」
 「……うん」

 ガラス越しに滲む街灯の光が、二人の影を長く伸ばした。
 あの小さな囁きが、心のどこかに刺さったまま。
 けれど、今はまだ――それでもいいと思えた。
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