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朝の校門をくぐると、秋の風が肌を撫でた。
空は高く、澄み渡っている。昨日までの重たさが、少しだけ遠のいたように感じた。
「おはよ、透」
神谷が、いつもの調子で声をかけてきた。
それだけのことが、胸の奥を温める。
けれど、その背後で女子たちがひそひそと笑っているのが聞こえた。
――“神谷とまた一緒にいる”。
それだけで、教室の空気はわずかに変わる。
席につくと、西村がにやっと笑った。
「おいおい、また仲直りか? 昨日の放課後、屋上いたって噂になってるぞ」
「……誰に聞いた」
「窓から見てた奴がいたんだよ。神谷がフェンスにもたれて、お前が隣に立ってたって」
笑い混じりの声。けれど、教室のあちこちで微妙な視線が交錯していた。
興味、本音、嫉妬――そのどれでもない曖昧なものが、空気をくすぐる。
「別に、大したことしてねぇよ」
俺がそう答えると、西村は肩をすくめた。
「まあ、いいけど。お前ら、なんかドラマっぽいな」
「は?」
「転校生と人気者の友情再生劇、みたいな? 女子ウケいいぞ、そういうの」
「勝手に脚本書くな」
軽口を交わしていると、神谷が後ろを振り返った。
「透、今日の昼さ、一緒に食わね?」
その言葉に、何人かの視線が一斉に向く。
俺は一瞬ためらったが、すぐに頷いた。
「……ああ、いいよ」
神谷が満足げに笑う。
その笑顔を見て、胸の奥で何かがほどけていく。
昼休み。
屋上への階段を上ると、神谷が手に持っていた弁当箱を掲げて笑った。
「今日はちゃんと作ってもらった。昨日の夜、父さんが機嫌良くてさ」
「へぇ、珍しいな」
「うん。……まあ、少しは話せたから」
短い沈黙。
その間に、風が二人の間を抜けていく。
遠くで体育の笛の音が聞こえた。
「なあ、透」
神谷が口を開いた。
「俺たち、また噂になってるけど……気にしてる?」
「正直、少しな」
「だよな」
神谷が笑って、空を見上げた。
「でも、いいんじゃね。俺たち、嘘つかないって決めたし」
その言葉に、心が静かに揺れた。
“逃げる”から“生きる”へ――
あの夜の約束が、少しずつ形を変えていくのを感じた。
「……お前、強いな」
「透もな」
神谷が目を細めて笑った。
沈黙が、もう怖くなかった。
風の音も、遠くのざわめきも、すべてが少し優しく感じられた。
放課後。
廊下の掲示板の前で、女子たちが集まっていた。
「ねえ、神谷くん、最近透くんと仲いいよね?」
「前より自然っていうか、距離近くない?」
「やっぱりさ、二人って――」
言葉の続きを聞く前に、神谷が廊下の角から現れた。
「何の話?」
女子たちは一斉に笑って、「なんでもないよ」と誤魔化した。
神谷は笑顔のまま、それ以上は追及しなかった。
けれど、その目の奥に一瞬だけ陰が差したのを、俺は見逃さなかった。
「気にすんな」
「うん、分かってる」
「でも、ちょっとムカつく」
「お前が言うなよ」
ふたりで笑う。
その笑い声が、夕陽に溶けていった。
そして、その日。
俺たちは再び屋上にいた。
神谷がフェンスに背を預け、ゆっくりと言う。
「透。俺さ、あの日のこと、忘れない。
でも、もう“逃げ場”じゃなくて、“居場所”にしたいんだ。ここを」
俺は頷いた。
風が頬を撫で、夕陽が沈みかける。
オレンジ色の光の中で、神谷の横顔が穏やかに染まっていた。
「……いいじゃん、それ」
「だろ?」
ふたりの影が、校舎の壁に並んで伸びていく。
その長い影は、確かに同じ方向を向いていた。
空は高く、澄み渡っている。昨日までの重たさが、少しだけ遠のいたように感じた。
「おはよ、透」
神谷が、いつもの調子で声をかけてきた。
それだけのことが、胸の奥を温める。
けれど、その背後で女子たちがひそひそと笑っているのが聞こえた。
――“神谷とまた一緒にいる”。
それだけで、教室の空気はわずかに変わる。
席につくと、西村がにやっと笑った。
「おいおい、また仲直りか? 昨日の放課後、屋上いたって噂になってるぞ」
「……誰に聞いた」
「窓から見てた奴がいたんだよ。神谷がフェンスにもたれて、お前が隣に立ってたって」
笑い混じりの声。けれど、教室のあちこちで微妙な視線が交錯していた。
興味、本音、嫉妬――そのどれでもない曖昧なものが、空気をくすぐる。
「別に、大したことしてねぇよ」
俺がそう答えると、西村は肩をすくめた。
「まあ、いいけど。お前ら、なんかドラマっぽいな」
「は?」
「転校生と人気者の友情再生劇、みたいな? 女子ウケいいぞ、そういうの」
「勝手に脚本書くな」
軽口を交わしていると、神谷が後ろを振り返った。
「透、今日の昼さ、一緒に食わね?」
その言葉に、何人かの視線が一斉に向く。
俺は一瞬ためらったが、すぐに頷いた。
「……ああ、いいよ」
神谷が満足げに笑う。
その笑顔を見て、胸の奥で何かがほどけていく。
昼休み。
屋上への階段を上ると、神谷が手に持っていた弁当箱を掲げて笑った。
「今日はちゃんと作ってもらった。昨日の夜、父さんが機嫌良くてさ」
「へぇ、珍しいな」
「うん。……まあ、少しは話せたから」
短い沈黙。
その間に、風が二人の間を抜けていく。
遠くで体育の笛の音が聞こえた。
「なあ、透」
神谷が口を開いた。
「俺たち、また噂になってるけど……気にしてる?」
「正直、少しな」
「だよな」
神谷が笑って、空を見上げた。
「でも、いいんじゃね。俺たち、嘘つかないって決めたし」
その言葉に、心が静かに揺れた。
“逃げる”から“生きる”へ――
あの夜の約束が、少しずつ形を変えていくのを感じた。
「……お前、強いな」
「透もな」
神谷が目を細めて笑った。
沈黙が、もう怖くなかった。
風の音も、遠くのざわめきも、すべてが少し優しく感じられた。
放課後。
廊下の掲示板の前で、女子たちが集まっていた。
「ねえ、神谷くん、最近透くんと仲いいよね?」
「前より自然っていうか、距離近くない?」
「やっぱりさ、二人って――」
言葉の続きを聞く前に、神谷が廊下の角から現れた。
「何の話?」
女子たちは一斉に笑って、「なんでもないよ」と誤魔化した。
神谷は笑顔のまま、それ以上は追及しなかった。
けれど、その目の奥に一瞬だけ陰が差したのを、俺は見逃さなかった。
「気にすんな」
「うん、分かってる」
「でも、ちょっとムカつく」
「お前が言うなよ」
ふたりで笑う。
その笑い声が、夕陽に溶けていった。
そして、その日。
俺たちは再び屋上にいた。
神谷がフェンスに背を預け、ゆっくりと言う。
「透。俺さ、あの日のこと、忘れない。
でも、もう“逃げ場”じゃなくて、“居場所”にしたいんだ。ここを」
俺は頷いた。
風が頬を撫で、夕陽が沈みかける。
オレンジ色の光の中で、神谷の横顔が穏やかに染まっていた。
「……いいじゃん、それ」
「だろ?」
ふたりの影が、校舎の壁に並んで伸びていく。
その長い影は、確かに同じ方向を向いていた。
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