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第27.5話 超然料理人 立向居直人は今日も今日とて人を斬る
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大陸より東に位置する経済・軍事大國「統叡」。
その首都武陽は政治の中心地として繁栄を謳歌していた。
(経済に関しては首都一極集中ではなく、各地に同規模の経済圏が存在する)
一方で、中央からの強い統制・弾圧から反政府組織が複数乱立。
貧民街では一部の反社会複合体とそれらが結託し、騒乱を画策しては國の治安維持部隊がそれを制圧するという事案が多発していた。
◆――――――――――――――◇―――――――――――――◆
武陽歓楽街から少し外れた場所にある「食事処 サムハラ」店主、立向居直人。
彼の提供する料理は絶品であると評判であり、常連は身の丈1米90糎を超える彼のことを畏敬をこめて「超然料理人」と呼んでいた。
そんな彼が今こね回しているのは馬鈴薯の澱粉に少量の水を加えた塊であった。
本日提供するものの一つ、包子を拵えているのだ。
右横の焜炉では羊朒と数種の香味野菜を鍋で煮ながら、立向居の両手は塊を撫でさするように優しく、時に激しく打ちつけるように空気を適度に含ませ澱粉塊を練り上げていく。
また、後ろの調理窯では主役の鴨の天板焼きが焼き上がりを待っていた。
「うん、少し醤を加えたほうがいいな」
料理人立向居は包子の餡を煮ている鍋から汁を一匙掬い上げ、静かに啜るとそう呟いた。
「よし!これでいいでしょぅ・・・」
(ジリリリリイリリリッ! リンッ!)
「嘘でしょう・・・・こんな時に??」
彼が鍋から料理用バットへ中身を移そうとしたところ唐突に電信機の鈴が、けたたましく鳴った。
(シキユウ ゲンチャク コウ イー21 ヲー3 アカ)
「至急現着乞う・・・赤ですかぁ」
立向居は長い溜息を ほぅと吐くと鍋と包子の生地にしっかりと覆いをかけた。
そして店の入り口近くに積み上げられている鞄などを、ひょいと背負って駆け出していく。
すぐさま幹線道路を通る貨物用車輛の荷台に飛び乗り、移動までの時間を短縮する。
12分後・・・・。
「こんにちは!ありがとうございました!」
「えっ?」
運転席右側から手が伸びてきて刹那、フロントのワイパーに紙幣を挟みこむ。
運転手が呆気に取られるも、荷台にもう男の姿はない。
◆――――――――――――――◇―――――――――――――◆
「ここですか・・・」
いかにもな廃倉庫屋根裏に立向居は潜んでいた。
「おっ!人が居ますねぇ・・・・」
彼は倉庫の中をそっと覗き込んでそう呟いた。
ざっと25人、中で取引をしているようだ。
「おおー武器取引ですねコレは・・・なかなか上等そうなブツですなぁ」
大陸から運ばれてきたり、國内で横流しされたりしている銃火器を売買しているようだ。
「うーんこれは有罪《ギルティ》ですねえ・・・やはり”赤”ですコレは」
そう立向居が言った瞬間、銃器を囲むうちの二人の眼窩に高速の目打が投擲により打ち込まれる。
男二人は悲鳴をあげながらしゃがみこむ。
「本当は立派な鰻を捌くときに使いたいんですが・・・」
そう惜しむ立向居から大量の目打が、天頂より男たちに降り注ぐ。
5~6人はそれにより無力化されたが、残りは即座に得物を構え発砲する。
右手に無銘の刀、左手に六角の棍棒を持った超然調理人の身体は恐ろしい速度で移動し、天から地へ降り立つ。
男のひとりが撃った無数の弾丸のうちの一つが立向居の左脇を捉える・・・かと思われたが、超然調理人の足は止まらない。
「私、立向居直人と申します。人によっては私を超然料理人という方もいらっしゃいまして・・・」
それどころか彼は息一つ切らさず、自分の身の上を語りながら斬りかかってくるのである。
「あな恐ろしやっ!」
(なぜ動けるッ!?)
男たちは自分たちが数度弾を撃ち込んだはずの立向居に身体を膾切りにされながら、今際の際にそのような疑問を抱きながら多臓器不全等により機能停止していく。
答えは立向居が習得している西道流髙等符術:散夢破羅にあった。
これは、神霊を降ろした紙(防水耐火)を身代わりとし、自身が受けた致死性の攻撃を無効化するというものであった。
立向居は神霊など信じていないが、青年期に機会があって伝授されたこの殆どの人間が知ることがない世界の法則を戦闘に活かしているのだった。
「終わりましたねぇ・・・」
ぽつりと呟く。
「あっ終わってる!」
そう叫んだのは國ホ(國の治安維持組織のひとつ)に所属する隊士の一人、丸之内結である。
おおかたこの惨状の後始末に呼ばれたのだろう。
「立向居さん!流石ですねぇ・・・返り血も殆どついてない!」
「ええ・・・・あと数時間で店を開けないといけませんからねぇ・・・」
彼は刀についた血脂をしっかりと拭うと鞘に納めた。
棍棒も布で何重にも巻きしめて鞄にしまう。
「そういえば、立向居さんって敵に対して自分の名前なんかも語るらしいじゃないですかぁ・・・それってなんでですかぁ?」
丸之内が甘ったるい声で尋ねる。
「まぁ”動機付け”ですね・・・。本来悪事を見て、命のやり取りをしようと思うほど私は義憤に駆られる人間ではありません、でも・・・」
「でも?」
「己の情報を”知られた”からにはそれを隠滅しなければならない。そうして請け負った”仕事”を全うできるよう意識づけしているんですよ」
「ええ・・・それなんか阿呆っぽいですね。自分から曝してるのに・・・」
「あるいは・・・あるいはそうかもしれませんね」
そう言って笑った立向居の瞳は、丸之内には夜中の野犬のソレに似た冷たい光を放っているように映ったらしい。
超然料理人 立向居直人は今日も今日とて人を斬る ―完―
その首都武陽は政治の中心地として繁栄を謳歌していた。
(経済に関しては首都一極集中ではなく、各地に同規模の経済圏が存在する)
一方で、中央からの強い統制・弾圧から反政府組織が複数乱立。
貧民街では一部の反社会複合体とそれらが結託し、騒乱を画策しては國の治安維持部隊がそれを制圧するという事案が多発していた。
◆――――――――――――――◇―――――――――――――◆
武陽歓楽街から少し外れた場所にある「食事処 サムハラ」店主、立向居直人。
彼の提供する料理は絶品であると評判であり、常連は身の丈1米90糎を超える彼のことを畏敬をこめて「超然料理人」と呼んでいた。
そんな彼が今こね回しているのは馬鈴薯の澱粉に少量の水を加えた塊であった。
本日提供するものの一つ、包子を拵えているのだ。
右横の焜炉では羊朒と数種の香味野菜を鍋で煮ながら、立向居の両手は塊を撫でさするように優しく、時に激しく打ちつけるように空気を適度に含ませ澱粉塊を練り上げていく。
また、後ろの調理窯では主役の鴨の天板焼きが焼き上がりを待っていた。
「うん、少し醤を加えたほうがいいな」
料理人立向居は包子の餡を煮ている鍋から汁を一匙掬い上げ、静かに啜るとそう呟いた。
「よし!これでいいでしょぅ・・・」
(ジリリリリイリリリッ! リンッ!)
「嘘でしょう・・・・こんな時に??」
彼が鍋から料理用バットへ中身を移そうとしたところ唐突に電信機の鈴が、けたたましく鳴った。
(シキユウ ゲンチャク コウ イー21 ヲー3 アカ)
「至急現着乞う・・・赤ですかぁ」
立向居は長い溜息を ほぅと吐くと鍋と包子の生地にしっかりと覆いをかけた。
そして店の入り口近くに積み上げられている鞄などを、ひょいと背負って駆け出していく。
すぐさま幹線道路を通る貨物用車輛の荷台に飛び乗り、移動までの時間を短縮する。
12分後・・・・。
「こんにちは!ありがとうございました!」
「えっ?」
運転席右側から手が伸びてきて刹那、フロントのワイパーに紙幣を挟みこむ。
運転手が呆気に取られるも、荷台にもう男の姿はない。
◆――――――――――――――◇―――――――――――――◆
「ここですか・・・」
いかにもな廃倉庫屋根裏に立向居は潜んでいた。
「おっ!人が居ますねぇ・・・・」
彼は倉庫の中をそっと覗き込んでそう呟いた。
ざっと25人、中で取引をしているようだ。
「おおー武器取引ですねコレは・・・なかなか上等そうなブツですなぁ」
大陸から運ばれてきたり、國内で横流しされたりしている銃火器を売買しているようだ。
「うーんこれは有罪《ギルティ》ですねえ・・・やはり”赤”ですコレは」
そう立向居が言った瞬間、銃器を囲むうちの二人の眼窩に高速の目打が投擲により打ち込まれる。
男二人は悲鳴をあげながらしゃがみこむ。
「本当は立派な鰻を捌くときに使いたいんですが・・・」
そう惜しむ立向居から大量の目打が、天頂より男たちに降り注ぐ。
5~6人はそれにより無力化されたが、残りは即座に得物を構え発砲する。
右手に無銘の刀、左手に六角の棍棒を持った超然調理人の身体は恐ろしい速度で移動し、天から地へ降り立つ。
男のひとりが撃った無数の弾丸のうちの一つが立向居の左脇を捉える・・・かと思われたが、超然調理人の足は止まらない。
「私、立向居直人と申します。人によっては私を超然料理人という方もいらっしゃいまして・・・」
それどころか彼は息一つ切らさず、自分の身の上を語りながら斬りかかってくるのである。
「あな恐ろしやっ!」
(なぜ動けるッ!?)
男たちは自分たちが数度弾を撃ち込んだはずの立向居に身体を膾切りにされながら、今際の際にそのような疑問を抱きながら多臓器不全等により機能停止していく。
答えは立向居が習得している西道流髙等符術:散夢破羅にあった。
これは、神霊を降ろした紙(防水耐火)を身代わりとし、自身が受けた致死性の攻撃を無効化するというものであった。
立向居は神霊など信じていないが、青年期に機会があって伝授されたこの殆どの人間が知ることがない世界の法則を戦闘に活かしているのだった。
「終わりましたねぇ・・・」
ぽつりと呟く。
「あっ終わってる!」
そう叫んだのは國ホ(國の治安維持組織のひとつ)に所属する隊士の一人、丸之内結である。
おおかたこの惨状の後始末に呼ばれたのだろう。
「立向居さん!流石ですねぇ・・・返り血も殆どついてない!」
「ええ・・・・あと数時間で店を開けないといけませんからねぇ・・・」
彼は刀についた血脂をしっかりと拭うと鞘に納めた。
棍棒も布で何重にも巻きしめて鞄にしまう。
「そういえば、立向居さんって敵に対して自分の名前なんかも語るらしいじゃないですかぁ・・・それってなんでですかぁ?」
丸之内が甘ったるい声で尋ねる。
「まぁ”動機付け”ですね・・・。本来悪事を見て、命のやり取りをしようと思うほど私は義憤に駆られる人間ではありません、でも・・・」
「でも?」
「己の情報を”知られた”からにはそれを隠滅しなければならない。そうして請け負った”仕事”を全うできるよう意識づけしているんですよ」
「ええ・・・それなんか阿呆っぽいですね。自分から曝してるのに・・・」
「あるいは・・・あるいはそうかもしれませんね」
そう言って笑った立向居の瞳は、丸之内には夜中の野犬のソレに似た冷たい光を放っているように映ったらしい。
超然料理人 立向居直人は今日も今日とて人を斬る ―完―
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