ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき

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VSからの


 これが、ぬいぐるみ……。

 隆晴りゅうせいはソファに座る二人を見ながら、優斗ゆうとの代わりに緑茶を三人分淹れる。

 優斗をぬいぐるみ抱きして、お土産に持参したマカロンの話をする直柾なおまさ。カラフルなマカロンに目を輝かせる優斗。
 これが小さな子供なら微笑ましい光景だっただろう。だが、目の前にはただのイチャつくカップルのような光景。……うっかり湯呑みを握り潰しかけた。

 だが敵ながら、激務の中で時間を捻り出す努力をした直柾を邪険に扱うのは少し憐れな気もして、そのままにしておいた。
 どうせ直柾が帰った後は、隆晴が優斗と二人きりだ。



 三十分程で直柾の帰る時間になった。風呂上がりの優斗は部屋に置いて、話があるからと隆晴はエレベーターホールまで直柾を送る。

「ってかアンタ、キスって……」
「これでも優くんが避けられるくらいに手加減してるんだよ? 優くんのことを傷付けたくないからね」
「意外とまともな」
「そのまま流されてくれないかなとは思ってるけど」
「確信犯か」

 隆晴は深い溜め息をついた。衝動的かと思えば計算高い。やはり直柾の考えは良く分からなかった。

 そんな隆晴を、直柾はジッと見据える。
 優斗が話していた通り、顔も声も良く体格も男らしい。頼もしい、と優斗は嬉しそうに話していた。
 今まで優斗を守って来たのは彼だ。信頼度も何もかも、客観的に見て隆晴の方が上だと直柾にも分かっている。

 今の優斗が選ぶとしたら、高確率で隆晴の方だろう。だから八つ当たりだと分かっていても、彼に冷たくあってしまう。脅威、だから。

「……やっぱり仕事調整し」
「電話鳴ってますけど?」
「…………」
「まだ何もしませんから、仕事行ってください」
「まだ?」
「まだ、ですね。今回の泊まりの間にどうこうとは考えてませんよ」

 焦る気持ちはあるが、初めて誰かを家に泊めて楽しそうにしている優斗を困らせるような事はしたくない。普段のスキンシップ程度は、“どうこう”には入らないが。

「……その言葉だけは信じるよ」

 悔しげに呟き、直柾はマネージャーらしき人物と話しながらエレベーターに乗った。



 部屋に戻ると優斗は窓の前でウロウロしていた。二人が喧嘩していないか、そんな顔で。
 ただ見送っただけだと伝えるとそれでも心配そうな顔をしたが、一応は信じたようだ。

 しかし……。
 タワーマンションの高層階、眼下には煌めく夜景。風呂上がりの、想い人。
 これはキスのひとつもしたくなる気持ちも分かる。

「夜景、すごいな」
「ですよね。キラキラしてて、ずっと見ていられます。……っ!?」

 ガラスに向かい外を眺めた優斗がビクリと身を震わせる。背後から抱き締められ、慌てて振り向いた事で隆晴の唇が髪に触れた。

 ……いや、これは事故だ。隆晴は心の中で言い訳をする。少し額も掠めた。いや、事故だ。

「ドラマとかだと、こんな感じか」
「俺を実験台にしないでください!」
「こういうのされたら、惚れそう?」
「俺の話聞いてます?」
「聞いてる聞いてる。客観的に、どうだ?」
「……先輩にされて、惚れない人いないと思いますけど」

 いや、お前だよ。
 隆晴は心の中で呟いた。鈍いにも程がある。

 だが、優斗に意識して貰う事が目的ではない。少しスキンシップに慣れて貰う為と、こんな顔を見る為だ。
 自分の気持ちを認めてしまった今、夜景を背景に頬を染め戸惑う優斗が、困った事にあまりにも可愛く見える。

「あの、先輩、そろそろ……」

 身を捩るとますます両手でしっかりと抱き込まれて、優斗は悲鳴を上げかけた。

 今まで気付かなかったが、立っていると身長差と体格差をひしひしと感じる。抱き締める腕のたくましさや、体温や、息遣いまでがすぐ近くにあり、頭がクラクラした。
 男である自分もドキドキするのだから、女の人だと腰が抜けてしまうのでは、と思う。

 ドラマだったら、このままキスや大人なシーンになることが多い、と優斗は気付いてしまう。直柾の出ている作品の多くは恋愛物で、そこで付けた知識だ。

 ますます顔を赤くして唇を引き結ぶ優斗に、ふと、隆晴も同じ事を考えた。
 このままの流れで無理矢理そう持っていく事も出来なくはないが……無理矢理、な時点で駄目だろう。我に返った。

「風呂借りるな」
「あ、はい……」

 腕を離すとホッとした声が返る。それはそれで何となく面白くなくて。

「優斗。一緒に寝るか」
「は、はい??」
「ベッドでかいし、いけるだろ」
「いえ、サイズの話じゃなく、何故先輩と一緒のベッドで……別々に寝るようにも言われてますし」

 かなり一方的な約束事でも、優斗は破るような性格ではない。もし破れば直柾に会う度に申し訳なさを感じるだろう。

 直柾のキス未遂に比べたら添い寝くらい可愛いものだと思うのだが、優斗の意思に反して連れ込むわけにもいかず、隆晴は今日のところは引く事にした。

「湯冷めする前に寝ろよ?」
「湯冷めって、子供じゃないですからね?」

 頬を膨らませる優斗の頭を撫で、隆晴はリビングを出た。

「……ま、“お兄さん”とも約束してるしな」

 まだ何もしない、と。
 別に遠慮する義理もないが、隆晴も約束を破るのは気が引ける。
 添い寝くらいなら可愛いもの。ただ、その後で手を出さないかと言われたら、……自分の理性は、そこまで鉄壁ではないかもしれない。

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