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そんなわけで
しおりを挟む卒業後も、隆晴は度々優斗の元を訪れた。
お互いの話をして、買い物をして、年に何度かは優斗の家で夕飯をご馳走になった。
少しでもお礼になれば良いけど、と顔に出す優斗が可愛くて、つい頭を撫でてしまい梗子に微笑ましそうに見つめられた。
優斗が三年生になった頃、今までの食事代になればと内心思いながら、教科書や参考書を全て譲り渡した。どうせもう使わない物だからと言って。
教材がこの年まで変わらなければ良いなと思いつつ、ずっとしまっておいたのは内緒だ。
ポイントや間違えやすい箇所などを書き込んでおいた参考書は優斗に非常に感謝されて、今も部屋の本棚に大切にしまわれているらしい。
そんな高校生活は、守られたものだった。
閉鎖的な空間で、あらゆる噂も優斗を守ってくれた。
だが、大学ではそうもいかない。人数も多く、講義によっては学年の垣根も曖昧で、どうやら年上に好かれやすい優斗をその中に放り込む事になる。
聡いわりに純粋で鈍感でお人好しで、自分の魅力を一ミリも自覚していない優斗は、騙されたり危険な目に遭うかもしれない。
だから大学へ進むと聞いた時、この大学へ入らせようと思った。完全には無理でも、ある程度把握して守れるように。
「大学は変な奴もいるだろ。だから、俺が守らないとって思ったんだよ」
そう語る隆晴に、叶多は目を丸くした。素直に教えてくれた事もだが、隆晴がここまで真剣に守ろうとしているとは。
「なるほどな。確かにマジでやべー奴もいるわ。そんなことなら、優ちゃんが危ない奴に襲われないように俺も見守っとくな?」
「お前が一番危ない」
「ひどっ! ってか俺は合意の上でしかしない主義なの!」
「じゃあ優斗は安全か」
ふう、と息を吐く隆晴に、そうだよ! と言って気付く。それは、100%の確率で叶多がフラれるという確信。
「……俺、女の子に断られたことないんだけど」
「優斗は男だからな」
「そうだけど、そうだけどー……なんだこの敗北感……」
ううっ、と呻く叶多は放って、隆晴は明日の準備を始めた。
一通り呻き、叶多は体を起こす。
「隆さ、そこまで好きなのに、なんでまだ先輩後輩やってんの?」
「なんでって、後輩だからだろ?」
「いや、そうじゃなくて、恋人だったら色々理由付けなくてももっと会えるし堂々と守れんじゃん?」
それなら空き時間だ何だと言わなくても“会いたい”だけで四六時中べったりしても許される。
「だから、優斗は男だ」
不思議そうにする叶多に、隆晴は素っ気なく答えた。
「…………まあ、そうだよな」
男でも好きなんだろ、と返しかけて、呑み込んだ。叶多から見れば気持ちが駄々漏れなのだが、隠しているつもりなら知らないふりをしておいてやろう。
優斗の為を思って言わないのか、想いを伝える勇気がないのか、はたまた何かしら仕掛けている最中で時期を待っているのか。……隆晴の事だから、一番最後の理由な気はするが。
だが、これだけ構われて気付かない優斗も大概だ。鈍いにも程がある。
いくら仕掛けてもスルーされる隆晴。あの隆晴が、意識もされない。なんだそれ面白すぎる。叶多は笑いを堪えた。
「横から掻っ攫われなければいいな?」
軽く発破をかけるつもりで言えば、ピクッと肩を震わせた隆晴に思いきり睨まれた。
俺じゃありません、と両手を挙げてみせたのだが、後から考えると既にもう他の誰かとその状態なのでは、と気付く。
隆晴が“横から攫われそう”と危機感を抱くような相手。それなら……。叶多は口元に弧を描かせた。
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