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高校時代2

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 お礼を言いに、と廊下へ出て二つ隣のクラスの前を通った時、突然呼び止められた。後ろから歩いて来たのは。

竹之内たけのうち先輩?」

 どうしてここに、と首を傾げると、同じサッカー部の後輩のところへ来ていたと言う。

「あっ、あの、この前はありがとうございました」
「ん? ああ、いいって。ってか、また重いもん買う時は手伝うから、声かけろよ?」
「えっ? それはさすがに申し訳なく……」
「どうせ帰り道だしさ」
「それは、そうですけど……」

 そんな会話をしていると、奥の窓側で弁当を広げている女子生徒たちがざわついた。

「やばっ、竹之内先輩、イケメンすぎっ」
「ってか、隣の誰? なんか地味っぽいんだけど」

 サイズが大きめの制服に、少し癖のある黒髪。後ろ姿からも派手さがなく、釣り合わない、と女子たちは言った。
 だが、優斗ゆうとが顔を横向けた途端。

「っ……!! え、可愛いんだけど??」
「えー、なに、ちっさいし、あれ、男子?」
「あんた動揺しすぎ。でもほんと小さ……あれ? そうでもない?」

 そばを通り過ぎる同じ学年の生徒とはそこまで変わらない。

「あ、先輩が背が高いからだ」
「ムキムキだしね」
「…………彼女とか、いるかな?」
「どっちに?」
「どっちも」
「アンタ、節操なさすぎ」

 ……全部聞こえてんだよな。隆晴りゅうせいは視線を向けずに思う。慌てている優斗には聞こえないだろうが、隆晴は冷静で、耳も良い。

 可愛い、と言う女子生徒たち。やはり優斗は可愛い部類に入るのか。何となく、ホッとした。



 そのまま夏休みに入り、ほぼ毎日図書室に通う優斗と、部活のある隆晴は良く顔を合わせた。

 図書室に来れば家の冷房代が節約出来て、本も読めて、勉強も出来る。一石二鳥どころか一石三鳥だ。
 いつの間にか、そんな理由や優斗の境遇を知るまでに仲良くなっていた。

 だが、隆晴の態度は変わらない。今まで通り、会えば話をして、時間があれば図書室で勉強を見て、たまに帰り道に買い物をして帰る。
 そんな時間が、気付けば当たり前のようになっていた。



 夏の終わり。
 うだるような暑さは幾分和らぎ、朝晩は過ごしやすい日が増えてきた。

 今日は練習がないからと教室を訪れた隆晴と共に昇降口を出たところで、校庭にいる女子生徒たちの視線が向けられた。

「先輩、やばっ、今日もかっこいいっ」
「立花君可愛いっ……、あーっ、好き……」
「イケメンと可愛いでお似合いじゃん……」

 キャーキャー言う生徒たちに優斗が視線を向けると、皆サッと視線を反らす。
 先輩、すごい人気だな。分かるけど。優斗はチラリと隆晴を見上げた。

「ん?」
「あ、いえ、今日もまだ少し暑いですね」
「そうだな」

 校庭に背を向けるとまた女子生徒たちの声が聞こえ始め、隆晴は優斗を見る。聞こえていないのか、気にしていないのか、優斗は涼しい顔をしていた。

 ……ま、今のこいつに女と付き合う余裕はないか。隆晴はそう解釈する。

『あれ、立花君だよ。立花優斗。母子家庭で家のこと全部してて大変そうだし、うちのクラスではそっと見守ろうってことになってんだけど』
『そうなんだ……。じゃ、告白とか迷惑だね』
『だろうね』

 いつか、女子生徒たちがそんな事を言っていた。だから優斗に告白する者もなく、直接“可愛い”など伝える者もいない。


 隆晴が卒業しても、優斗はまだ二年この高校に通う。もしかしたら、隆晴のように世話を焼く人物が現れるかもしれない。
 後輩が入ってくれば、優斗がその子を好きになるかもしれない。

 それは普通の流れではあるのだが……何故か胸がムカムカして、その感情を逃がすように隆晴はそっと息を吐いた。

「先輩、お願いがあるんですけど……」
「ん?」
「帰りに、その……付き合って欲しい場所が、ありまして」

 そっと差し出された物。
 そこには卵の特売を告げる文字と、お一人様1パックまで、と書かれている。時間は10時と17時の二回。

「そのくらい、今更畏まらなくても」
「いえ、特売は戦争なので。それと、これなんですけど……」

 優斗がそっと指さす先には、トイレットペーパー特売の文字。これも一人一個まで。

「先輩にトイレットペーパーを持たせるのは非常に心苦しいのですが」
「何でだよ?」
「何だか、こう、女の子たちのイメージが崩れるというか」
「それで崩れるってどんだけ脆いんだか」

 肩を竦める隆晴に、それもそうだ、と思い直す。何をしても格好良い人が、その程度で崩れはしない。

 納得する優斗の頭を、ポンと撫でる。最近、こうして撫でるようになった。
 最初は衝動的にしてしまったのだが、優斗が驚きながらも恥ずかしそうに……嬉しそうにするものだから、気付けばやめられなくなってしまったのだ。

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