触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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愛情表現

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「ただい……はっ!? シオン殿下っ!?」

 絶妙のタイミングで戻ってきたジンは、シオン様を見るなり膝を付いて頭を下げる。

「君がもう一人の討伐メンバーだね。シグルズ、その騎士君にも事情を説明しておいてくれ。出来れば戦力になって貰いたい」
「承知いたしました」
「では、明日の朝また来るよ。途中まで一緒に帰ろう」

 風の力を後一時間残しておくと言い残し、シオン様は部屋を出て行った。


 簡潔に話を聞いたジンは、顔を青くする。ジンは一家の稼ぎ頭だ。王命の戦争でもない反逆に、そう簡単に手を貸すとは答えられない。
 シグルズは、どうせシオン様も同行するから別れるまでに決めればいいと言った。

「……ジンジャー。シオン殿下と顔見知りか?」
「まさかっ! 俺なんかがどうやって殿下とお知り合いになるんすか!」

 ガバッと顔を上げたジンは、ブンブンと首を横に振る。

「夜中に、伝令鳥を飛ばしていたな」
「っ……」
「誰に宛てた物だ?」

 シグルズの声も瞳も、凍えるほどに冷たい。ジンは目を見開き、唇を震わせる。
 伝令鳥は伝書鳩みたいなものだろう。わざわざ夜中に抜け出して連絡を取っていたなら……俺やシグルズには知られたくない相手、ということだ。

 俺は固唾を吞んでジンの言葉を待つ。ジンが悪いことを考えるとは思えない。でもそう言って割って入るには、ジンのこともこの世界のことも、俺は知らなすぎる。
 ジンは、グッと拳を握った。


「……母さんに、無事だって伝えてたんです」

 うつむいて、声を絞り出す。

「俺が騎士になるのも反対してましたし、せめて安心させたくて。……伝令鳥を私的な理由で使用した処罰は受けます。申し訳ありませんでした」

 お母さんに……。ドッと脱力した。
 これだけ緊迫した雰囲気なら、多分伝令鳥は騎士団のもので、緊急時以外は利用禁止とかそういうものだろう。
 シグルズを窺うと、特に咎めることなくただそっと息を吐いた。

「そうか。それなら必要な伝令だ」
「っ……」
「疑って悪かった」
「いえっ、疑われるような行動をして申し訳ありませんでしたっ!」

 ジンは深く頭を下げた。シグルズが安堵した顔をして、俺もまた脱力する。
 これが小説なら、裏切り者ポジションなんだよなぁ。なんて、理由が分かった俺は呑気に考える。
 元の世界のキャラだと、明るくて可愛い陽キャこそ暗くて重い過去があったり、家族を人質に取られて裏切りがちだ。最後に改心して主人公を庇って死ぬ展開も多い。

 でもまあ、そうなっても、俺を庇うジンを庇うわな。
 神聖力が蓄えられてるなら、多少傷を負っても自動回復するのではと期待している。少し傷を付けて試そうと思ったものの、痛いのが怖くてまだ試せていない。


「アオバ?」
「っ、……ごめん」
「どうした?」
「……ちょっと、元の世界を思い出してて」

 嘘はついてない。でも咄嗟に出た言葉は、二人に悲しい顔をさせてしまった。

「あ、前も少し言ったけど、家族も恋人も元々いなかったから平気だって」
「でも、アオ様……」
「今は二人がいるから、俺はこの世界でも楽しく過ごせてるしさ」

 全く未練がないとは言わないけど、他の人より少ないと思う。そう考えると、幸せな家族の誰かじゃなくて俺で良かった。
 明るく笑ったのに、二人はますます表情を曇らせる。

「アオバ。君を幸せにしたい」
「えっ、ええっと……美味いもん食べさせて貰えて、布団もふかふかで、俺は幸せだよ」
「違う。君が天寿を全うする日までだ」

 天寿を全うするまで。そこまで言われて、今まで通りではいけない気がした。


「……ごめん。気持ちはすごく嬉しいけど……本音言うと、そんな先までシグルズが俺を好きでいてくれるとは思えないんだ。俺にそんな魅力があるとも思えないし」
「私の気持ちを疑っているのか?」
「疑うってか、……俺が俺を信じられないっていうか」
「そうか。それなら安心してくれ。君を好きになるなど絶対ないと思っていたところから、今に至っている。君がどれほど駄目な人間になろうと、今より察しが悪くなろうと、私の気持ちは変わらない」
「んんっ、殴ったり撫でたりしてくるっ」

 本気かわざとか、それとも天然か。思わず両手で顔を覆って天を仰いだ。

「お互いを信じるにはあまりに短い時間ですもんねっ。出逢って数日で、永遠の愛だと信じてる、なんて言えないの分かりますっ。お二人にはもっとお互いを知る時間が必要なんですよ」

 俺たちを見かねたのか、ジンが仲介に入った。するとシグルズはハッとする。

「アオバ」
「お、おお」
「王都に戻ったら覚えていろ」
「なんで喧嘩腰なんだよ」
「シグルズ様ーっ! アオ様もっ、これは熱烈な愛情表現ですからねっ!?」
「ジンも大変だな」

 シグルズの恋をこんなに応援して、いい奴だ。心労が絶えないだろうとそこで会話を終わらせることにした。


「恋人になるのはまだでも、ほら、あれですよ! 殿下がご一緒ならしばらくお預けですし、お二人は思う存分えっちなことしてくださいね!」

 明るく笑うジンに、今度は俺の心労が増えてしまう。

「してない」
「え?」
「誤解だから。シグルズとはしてないから」
「えっ!? してないんすか!?」
「してない。擦り合いみたいのはしたけど」
「え…………だって、てっきりもう……」

 ジンは困ったように視線を彷徨わせる。何をそんなに、と声を掛けようとした時、ガシッとジンに手を掴まれた。

「この機会にしておきませんか!?」
「どの機会だよ」
「後はアオバが頷いてくれるだけなんだがな」
「悪いな、男が男に尻差し出すには相当覚悟がいるんだわ」
「……そうだな。すまない」

 腰に腕を回されてつい軽くあしらうと、シグルズは素直に謝り肩を落とす。シグルズの気持ちを知りながらこの対応は酷かったなと反省した。

「俺も、ごめん。尻はまだ無理だけど、シグルズのことが嫌いな訳じゃないから」
「アオバ……」
「ジンの言う通り、シグルズのこともっと知ってから考えたい」
「私もアオバのことを知りたい。君が何を好み、何に感動するかを知って……君の生きる日々を、幸せで満たしたい」
「っ……イケメンがすぎる」

 顔を覆ってベッドに突っ伏した。まともに受け止めるには攻撃力が高過ぎる。心臓もドキドキして、もしかしてこれが恋? と錯覚しそうだ。


「……あのさ、何してんの?」
「抱き締めたくなった」
「そっか……」

 喘がされないならいいか。
 ……なんかやっぱ、人の体温っていいな。
 最後に彼女と手を繋いだのも、もう何年も前だ。ハグしたのもその時以来。人の体温は、心の奥からじわじわと暖かな気持ちになる。
 俺、甘えたいタイプだったのかも……。抱き締める側だった頃より、こうして抱き締められる方が落ち着く。
 まるで、そう……意思を持った羽毛布団にきつく抱き締められているような感覚。

「あったかくて、ねむ……」

 シグルズから伝わる暖かさが、眠気を誘った。

「二人が風呂上がったら、起こして……」

 きちんと伝えられたか分からないくらい、急速に意識は落ちていった。


◆◆◆


 すーすーと規則正しい寝息が聞こえ、シグルズは腕を緩める。そっと碧葉の頬をつついてみる。それでも碧葉は起きない。

「アオ様、そんな無防備な……」

 ジンジャーがぽそりと呟く。

「信じて貰えているなら、手は出せないな」
「っすね」

 ヒソヒソと返しながら、気持ち良さそうに眠る碧葉を見つめた。

 アオ様、鈍い……。鈍すぎる……。

 同性にベッドで本気のハグをされて、体温の心地よさに眠気を誘われたうえに熟睡。そんなのもう、好きに決まっている。
 どうしたら自覚してくれるのか。ジンジャーは頭を悩ませるが、自覚させるより体の関係から始める方が簡単かもしれないと思ってしまう。今はもう抱かれていると思っていたのに、酷い誤算だ。

「ジンジャー。先に」
「あ、はい。では失礼して」

 シグルズに促され、先にバスルームへと向かう。
 碧葉を見つめるシグルズの表情があまりに甘くて、その顔を碧葉に見せてあげたいとそっと溜め息をついた。


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