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攻城
しおりを挟む『キイィィィッーー!!』
「は……?」
バキンッ!! と何かが壊れる音がして、触手が蠢き出す。今までぐったりしていたパキュはツヤと元気を取り戻し、ブンブンと暴れた。
「なんで……?」
突然元気になり、薬も抜けてる様子。思い返してみても、原因はお姫様の涙か、王子様のキスか。混乱した頭がそんなことを考える。
力はまだ流れ出てるのに、パキュは元気だ。
「……この檻って、鉄製だったよな?」
唖然とする俺の目の前で、触手が檻をバキバキに折り、忌々しげに投げ捨てる。
雄叫びを上げたパキュは裸の俺を包み込み、太い触手を脚のように使って動き出した。
「え……? 蔦型パキュロスって、歩くの……?」
水棲も走って跳ねて飛んでいた。蔦型は何やら大型恐竜のように威厳を持って進んでいく。……小屋の扉をバキバキに壊して。
『キィィ!!』
触手が地面を叩き、炎に土を掛けていく。気のせいじゃない。触手が増えてる。太くなってる。バンバン!! と勢い良く地面を叩き、進路を確保した。
「なっ、どうなっている!? 火の囲いはどうした!?」
「来るなっ! うわっうわああああっ!!」
見張りと思われる兵たちを触手が捕らえて、ヌメヌメにして地面に落とす。
『キィッ!』
毬藻部分が兵の上を通り、パキュはドシドシと音を立てて進んだ。
「あ、良かった、生きてる」
踏まれたと思った兵たちは起き上がり、呆然と俺たちを見つめている。パキュにも彼らが敵じゃないと分かったみたいだ。
『キイ、キイイッ』
『キィイッ』
触手たちは向かい合い、何やら会話をしている。
会話……今までもしてたけど、よく考えたらこれって……。
「あのさ、毬藻一個から出てる触手って、一個体だよな……?」
『キィ』
「えっ、違うの?」
触手が横に揺れて、違うと示す。
「もしかして、それぞれに意志がある……? え……俺、毎回乱交してたってこと……?」
『キキュっ』
「そうなの!?」
触手たちが元気に頷いて、驚愕した。まさか、毎回十数人、いや、十数個体と致してたなんて……。
『キュゥ?』
『キュ、キュ』
会話してるけど……でも胴体は一つだし、一応一個体なんかな……。痛々しく焼け落ちたとこもなんか、ニョキッて生えてきたし……。ってか、一個体だな。そう思いたい……。
『ピィッ』
『ギッ!』
「増えたっ?」
森から次々に水棲と肉型が現れる。蔦型も後から威厳を持って現れた。
『ピィィンッ!』
『ギィギィ!』
雄叫びを上げたパキュたちは、街に向かって走り出す。
「……妖怪大戦争か」
この場に相応しくないと思いつつ、ツッコミを入れてしまった。
怒りで巨大化した……と思われるパキュたちが、敵を薙ぎ払っていく。青い腕章を着けた兵たちを避けて。
「もしかして、さっき話してたのって、青い腕章は味方だってこと?」
『ピィ!』
「知能高っ」
『キィキィッ』
蔦型も自慢げに鳴いた。
『キィ……』
「んっ、んぅ」
補給が必要になったのか、触手が口に入れられて液体が注ぎ込まれる。いつもより瑞々しくほんのりした甘さで、少しだけ苦い。
「ん……あれ? 最初からこうして飲ませてくれたら良かったんじゃ」
『キィ?』
「あ、まさかお前、確信犯か」
『キュゥン……?』
「そんな風にも鳴けるのかよ……って、誤魔化そうとしてるな?」
『キュゥ、キュィン』
この鳴き方、もはや犬だ。大変愛らしい。可愛いからあっさり許してしまった。
「でもやっぱ、気持ちいい方が甘いのか」
苦いのは初めてだ。致してる時の方がパキュも嬉しそうだし、その方が甘くて濃厚なら、パキュたちは俺に甘いのを飲ませたくて頑張ってくれてるんだろう。
「愛情感じる」
俺を包んでくれてる触手に、頬を擦り寄せた。
「そうだ。みんなパキュってのもあれだし、とりあえず今は、ピキュとキキュとギキュな」
水棲はピキュ、蔦型はキキュ、肉型はギキュ。まとめて呼ぶ時は元の通りパキュにしよう。
鳴き声から仮の名前を付けると、パキュたちは可愛く鳴きながら触手を上げて人間みたいに喜びを表した。
「人間のことすごい学習してんだな」
『キィ! キ!』
「ははっ、くすぐったいって」
触手がじゃれるように俺の頬を撫でた。
『ピィーーッ!』
前を歩いていた水棲のピキュが、警笛のように鳴いた。
「パキュロスを連れている! あれが聖者か!」
「火矢を放て!」
『ピィィッ!』
ピキュたちからビシャアッと水が吐き出され、空中の矢は地面に落ちた。一本だけ届いた矢がキキュに火を付ける。でもすぐに水を掛けて消してくれた。
「ピキュ、ありがと! キキュ、今治してやるからな」
『キィ……』
考えるだけで光は傷を治した。元気になったキキュは俺の頬に擦り寄る。
「聖者っ、死ねっ!」
『ギィィッ!!』
剣を振りかざし襲ってくる敵を、ギキュの肉球……いや、触手が、野球ボールのように打ち返した。
「ホームラ……ストライク?」
ボーリングのように他の敵も巻き込んで倒れた。
「うわっ、うわあああ!」
「こっちもいる!」
城の裏にも前にもパキュたちが溢れ、敵を次々と薙ぎ倒していく。シオン様側の兵たちは唖然としながらも、倒れた敵を処理していった。
「聖者様だ……聖者様がお力をお貸しくださった!」
「聖者様!」
声が上がり、兵たちの志気が一気に上がる。
「我らには聖者様がついている! 恐れるな! 進め!」
兵たちの中心でシオン様が指揮を執っているのが見えた。
『キキィィッ!?』
「どの口が、って? まぁそうだけどさ、シオン様も仲間と国のために必死だったんだよ」
『キィ』
「背負ってるものが違うよな……。でもそれはそれで、全部終わったら慰謝料請求するけど」
『キ!』
たんまり取ってやれと言わんばかりに触手の先を膨らませて、ガッツポーズを作る。段々器用になっていくな、と子供の成長を喜ぶようにキキュを撫でた。
「っ……!」
そばで金属音がして、飛んできたナイフが弾かれる。目の前にいた数人の兵も薙ぎ払われた。誰かの、剣で。
「シグルズ……?」
剣を振る姿が綺麗な、剣と同じ白銀の鎧を着た、銀色の髪の……。どこまでも澄んだ氷河の瞳が、俺を映す。
「アオバ」
名前を呼ばれて、じわりと視界が滲んだ。たった数時間会えなかっただけで、酷く恋しい。
シグルズは手を伸ばして、パキュから俺を受け取る。白いマントで包み込んだ俺を、約束通りきつく抱き締めてくれた。
「シグルズっ……」
布に巻かれて抱き締め返せない代わりに、頬を擦り寄せる。
会いたかった。シグルズに、こうして抱き締められたかった。
零れた涙を、シグルズが指先でそっと拭ってくれる。その暖かさに、優しい視線に、胸が締め付けられた。
俺、シグルズのこと……。
胸に一つの想いが込み上げた途端、パキュが鳴き、敵を叩き返した。そうだ、ここは戦場の真っ直中だった。
「シグルズは、どうしてここに?」
「出遅れた訳じゃない。一仕事してきた」
「責めてるわけじゃないよ」
主張するシグルズに、クスリと笑う。
「君が危険だと、これが教えてくれた」
『ピ……』
シグルズの鎧の中から、子供のパキュがそっと顔を出す。
「パキュ! 無事だったんだな!」
『ピィンッ!!』
勢い良く飛びつくパキュを抱き止めると、鳴きながら俺に頬擦りした。
「あまりに鳴くから君が危険に晒されていると思い、他のパキュロスにアオバを守れと伝えるよう頼んだんだ」
「だからパキュが大集合したのか。ありがとう、シグルズ」
こんなにも集まったのは、シグルズと子供パキュロスのおかげだった。少しだけ迷ったけど、シグルズの頬にキスをした。
「っ、アオバ……」
「でもシグルズ、家のことは?」
「本家で、事情を話してきた。今まで家族とはろくに話をしたこともなかったが……やるなら勝てば良いだけだと言われたよ」
「そっか。なんか、シグルズの家族って感じでかっこいいな」
「……ありがとう、アオバ」
優しく微笑んで俺の頬にキスをする。そしてまたキキュに俺を預けると、触手は俺を守るように包み込んだ。
「パキュロスのおかげで優勢だ。シオン殿下が指揮を執り、先程城に攻め入ったところだ」
「シグルズ。俺、シオン様のとこに行かないと。シオン様が死んだら終わりだろ? 守らなきゃ」
「君ならそう言うと思った」
シグルズは満足そうに口の端を上げた。
俺を抱えたキキュを先導しながら歩くシグルズ。その道を、パキュたちが敵を薙ぎ倒して作る。
なんか、すごい光景だな……。
巨大化したパキュたちが雄叫びを上げながら暴れ回る光景は、恐竜時代を思い起こさせた。
俺から兵たちに流れる力は、今も止まっていない。パキュは定期的に俺の口に体液を注ぎ、俺は神聖力を増幅して、兵やパキュの傷を治していく。
階段を上がり、城の前の広場に出ると、兵たちが混戦していた。
「シグルズ様っ!?」
「何故パキュロスと共にっ」
王側の兵たちがシグルズに気付き声を上げる。
「私はシオン殿下に忠誠を誓った。これは王政を本来あるべき姿に戻す、革命だ」
シグルズとは思えない高らかな声で宣言する。
「想いを同じくする者は、剣を捨て、降伏しろ」
そう告げた途端、剣のぶつかる音が止む。そして次々に剣が捨てられ、その場に跪いた。
「剣を捨てた者は我らの同志だ。丁重に扱ってくれ」
「はっ!」
その場の指揮官と思われる人に声を掛け、シグルズは城に入る。その後ろからパキュに抱かれてついていく俺を、「聖者様……」と兵たちが膝を付いて見送っていた。
「シグルズすっご……。最初からそれしてたら良かったんじゃ……って、それじゃシグルズが王様にされるんだったな」
支持はシグルズの方が上どころか、さっき見た感じだと、すぐにでも王様になって欲しいと願われそうだ。でも今なら、兵を率いるシオン様にも支持が集まっている。
「それもあるが、家門のこともありすぐには行動出来なかった。まさか話して分かる人たちだとは思っていなかったよ」
「あるよな、そういうの。でも家の人に話しに行った時点で、シグルズはもうやること決めてたと思うんだけど」
「君は今日も察しがいいな……。そうだ。私は家と縁を切り、戦いに参加するつもりだった」
家門の者でなければ、反逆者の親族として処刑はされない。でもこの世界で貴族が縁を切るというのは、相当の覚悟がいるものだと思う。
「シグルズって、かっこいいな」
「好感度は上がったか?」
「すごい上がった。全部終わったら、どれだけ上がったか話してやるよ」
ニッと笑うと、シグルズもそっと目を細めた。
「私は王にはならないが、今から私は、殿下の前で敵兵たちを屈服させる。私には勝てないと殿下に認めさせてみせよう」
「……もしかして、多分だけど、シオン様より自分がかっこいいって見せようとしてる?」
「ああ。君は先程、指揮を執る殿下を見ていただろう?」
「んんっ、そういうことかぁ……。……ちゃんと見てるから、かっこいいとこ見せてくれよ?」
そう答えると、シグルズは前から襲ってくる敵を次々に倒していく。王に忠誠を、と叫ぶ十人以上いる敵をあっさりと薙ぎ払った。
「いや、もうかっこいいわ」
最強の騎士様の本領発揮にドキドキして、そっと胸を押さえた。
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