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10. バンド仲間
しおりを挟む「あいつらのことだけど、ロアは、バンドのリーダーでボーカル」
紹介は義務、とロアさんが言っていたなと思い出す。
「金髪がライト。ギター。黒髪がソラ。ドラム。ロア以外は本名をカタカナにして使ってる。俺もそのままカタカナでセナ」
そこまで話して、聖凪さんは口を閉ざした。
……本当に紹介だけで終わった。
「えっと……もうちょっと聞きたいです。そうだ、ロアさんはハーフなんですか? 目が薄茶色で綺麗でした」
「そう。母親が北欧で、髪も地毛が瞳と同じ色だよ。本名は英字表記。あと……ソラは無口だけどいい奴で、こだわるところにはこだわるし意外と頑固。ライトは、うるさい」
ライトさんの紹介、雑すぎじゃありませんか……。でもそれだけ仲がいいってことかな。
もっと聞きたいけど、踏み込みすぎるのは迷惑かな……いや、今までのままじゃ、いつまで経っても聖凪さんとみなさんみたいに仲良くなれない気がする。
「……みなさんとは、どこで出逢ったか訊いてもいいですか?」
意を決して訊ねたのに、あっさりと答えは返ってきた。
「俺とソラは高一から同じクラスで、ロアとライトは二年の秋に学祭で。二人は隣の県の高校だったけど、俺とソラが学祭でバンド演奏した時に、たまたま来てたロアが俺とソラのことを気に入ったからって声をかけてきたんだ。で、そのままバンドを組んだ」
「高校の学祭でバンド……かっこよすぎじゃないですか?」
「高校生ならそんなに珍しくもないだろ?」
エントリーが多すぎて予選があったくらいだし、とサラッと言う。さすが都会の高校は違うなぁ……。
「まあ、最初は断ったけど。噂のこともあったし。でもロアは人を見る目はあるって言って聞かないし、ライトはバンドやろーぜ、しか言わないし……断る方が面倒だなって」
聖凪さんは眉間に皺を寄せて溜め息をついた。ライトさんは見たまま押しが強そうだけど、ロアさんも優しそうに見えて押しが強いらしい。
「でもそのおかげで俺は聖凪さんが楽器演奏してる姿を見られるんですね。ロアさんたちに感謝です」
送られてきたメッセージを開いて、共有された動画のサムネイルを見つめる。
「見ないの?」
「お風呂に入ってからゆっくりじっくり堪能します」
「そんな改まられると緊張するんだけど。じゃあ、そろそろ帰るか」
聖凪さんに続いて立ち上がる。時計を見たら、もう日付が変わっていた。
隣に並んで歩きながら、ふと思う。バイト終わりにこうして一緒に帰る人がいるって、すごく幸せなことだよなぁ……。
◇◇◇
帰宅してお風呂上がりに動画を観た俺は、興奮が収まらなかった。
サイトに上がっているライブ動画を全部観た。雑談やショートもあって、それには聖凪さんとソラさんはほとんど出ていなかったけど、みなさんがどういう人なのかも、仲がいいのも伝わってきた。
その後に寝る時間はあったのに、ドキドキして一睡もできなかった。
朝になってリビングに向かうと、聖凪さんがソファに座っていた。
「聖凪さん……観ました」
「そっか。ありがと。……もしかして徹夜した?」
目の下のクマがすごいと言われて、バイト前に少し仮眠しようと決めた。
「眠れなかったです。だって、ライブすごくかっこよかったですっ。何度も聴きましたっ。どの曲も上手でロアさんの力強いのに綺麗な歌声も聞き惚れますし、聖凪さんのベースに集中して聴いてたら体がこう、自然とリズムを刻んで……心身共に興奮して一睡もできませんでした」
一息に言い切る。
ちょっと気持ち悪かったかな……。心配になって聖凪さんを見ると、口元に手を当てていた。その耳元が赤くなっている。もしかして、照れてる?
「……ありがと」
んんっ……なんだろこれ、胸がぎゅうっとなる……嬉しいというか、叫び出したい感じだ。
でも叫ぶわけにもいかず、ぎゅっと胸を押えて気持ちを落ち着けた。
「それと、驚いたんですけど、登録者が七千人もいるんですけど……」
「ああ。バンド仲間の中では少ない方」
「これで少ないんですかっ?」
基準が全く分からない。でも、みなさんくらいかっこよくて演奏も歌も上手いなら、数万規模でもおかしくない。
「うちは動画にそんなに力入れてないから」
「そういうものなんですね……」
よく分からないけど、動画に力を入れると登録者数が増えるのか。
「あの、みなさんに、プロへのお誘いは……」
「ロアが言うにはたまに来てるらしい」
「えっ?」
「でもみんな、アマチュアで自由気ままにやるのが楽しいって意見で一致してる。プロの世界で生き残れるかと言われたら正直難しいし、その覚悟もない。音楽だけをやって生きて行くには、みんな他にやりたいこともあるから」
……その気持ちは、俺にもよく分かる。
俺も高校でサッカーの大会に出た後に、スカウトを貰ったことがある。サッカーは好きだし、仕事にできたら嬉しいと思った。
でも、大学に入って留学するのが俺のやりたいことだったし、卒業してからも、サッカーだけに力を注いで生きていけるかと考えたら……急に怖くなった。
俺には、どうしてもその道で生きて行く、という覚悟がない。才能もあるわけじゃない。それなのに努力もできなくなったら、どうしようもなくなる。そう考えたら、スカウトを受けることができなかった。
その後も何度か大会はあったけど、俺は受験勉強を理由に早めに引退した。志望校の合否判定がいまいち思わしくなかった以上に、ボールに触れるのが怖くなったからだ。
聖凪さんたちみたいに自由気ままにやるのが楽しいと思えれば良かったのに、妙なところで臆病になってしまった。
「……俺も、同じことを考えたことがあります」
そう言ったら、聖凪さんは知りたいと言ってくれた。
俺が話す内容を真剣に聞いてくれて、最後まで話したら、何故か「だからか」と呟いた。
「好きだからこそ、ってあるよね。またやりたいと思えるようになったら教えて。俺、たまにバンド仲間とフットサルやってるから」
バンド仲間とフットサル……どうして聖凪さんはこう、突然インパクトの強い単語を突っ込んでくるんだろう。かっこいいことこの上ない。いや、都会だと普通なの?
「なんだか話したらすっきりしました。近いうちにお願いするかもしれません」
「ん。楽しみにしてる」
それは俺の台詞なのに、聖凪さんは本当に嬉しそうに目を細めた。
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