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プロローグ
しおりを挟む未来の国民的アイドル、SYUNNです。
SHUNNじゃないよ、SYUNNです。
本名も隼音です。
アイドルだって恋をする。人間だもの。
アイドルが恋をしたら駄目なんだけど……。
それは分かってる。でも、どうしようもなく好きになってしまったんだ。
え? お相手?
一般人ですよ。パティシエのかたなんですけど、俺、ほぼ毎週通ってて。甘い物好きで良かったー。
甘いと人気の低音ボイスをワンオクターブ上げて流れるように話す隼音の耳に、大きな溜め息が届いた。
「アイドルが甘いもん毎週食うな」
呆れた顔で溜め息を吐いたのは、同じユニットメンバーのDAIだ。本名は大地。名前からどっしりして格好良い、と隼音は思っている。
アッシュブルーの短髪が似合う長身で、男らしい顔つきをしている。
二十三歳で、メンバーの中で最年少の隼音より三つ年上だ。
「俺、太らない体質だし」
「うちのダンスレッスンが鬼だからだろ。あと若さな。それがなかったら今頃豚だ」
「大がひどいこと言うよー」
「ドラマ出てんならもっと感情込めろ」
棒読み、と溜め息をつく。
大地は、口は悪いが面倒見は良い。大事な話があると言って訪ねて来た隼音のこのノリに付き合うくらいだ。
「お前ってほんと、喋らなければイケメンなのにな」
「喋ってもイケメンは変わりません」
「変わるくらい喋りが酷い」
泣き真似をしてみせると大地はまた溜め息をついた。
隼音は一見クールな見た目をしている。仕事柄頻繁に髪色を変えるが、今はサラリとした黒髪だ。
青みがかった薄紫の双眸と、健康的でありながらも白い肌。薄い唇。身長は173cmで、まだまだ成長中だ。
声も良く、愛を囁かれたいアイドル特集で一位を取るほど。
だが、口を開けばこれだ。
大地も初対面の時には驚きで声も出なかった。良く言えばフレンドリーなのだが。
「でも、俺が見た目通りだったらイケメンすぎて近付きにくいし、嫌味だろ?」
「自分で言うな。……ま、それはそうだな」
「な? 俺がこんなだから、花楓さんも構ってくれるんだと思うし」
初対面から笑顔で話してくれたのもきっと、この緩い喋り方のおかげだ。
笑っているつもりでも微笑にしか見えない隼音は、生きる中で、声で感情を表す術を身に付けていた。
それでも、見た目の良さが目を惹く。見た目に惹かれて近寄る相手が多すぎて、どんな美人にも興味を持てなくなった。
「お前がそんなに好きってんなら、相当可愛い子なんだろうな」
「可愛いよ? 男だけど」
「……は?」
「可愛いよ?」
「その後」
「男だけど」
「……男?」
「俺が恋したパティシエさんは、男です。二十六歳、彼女なし!」
大地はぽかんと口を開けたまま隼音を見つめた。
「年上だけど、そのくらいの歳の差なんともないよね」
「……いや、歳より、男ってなんだよ?」
隼音が男好きとは聞いた事がない。たまにそんな相手に絡まれても、面倒臭そうにあしらうだけなのに。
「恋したら男だったんだよ」
「は?」
「だから、一目惚れしたら男で、毎週通ってみたけどやっぱり恋なんだって」
「……はあ」
毎週通ったのか。
「大も花楓さんを見たら俺の気持ちが分かると思う。というわけで、お店にゴー」
「いや、ゴー、じゃねぇわ。甘いもん苦手なんだよ。つか俺らアイドルだろ」
「大丈夫大丈夫。持ち帰り専門店だから。今の時間なら人も少ないし、バイトさんもいない時間帯だから花楓さんが店に出てるはずだし」
「把握しすぎてもはやストーカーだな」
「ただのいちファンです」
キリッと顔を決める。本当に顔だけは良いのに。
大地は何度目にもなる溜め息をつきながら、隼音に引っ張られるままに家を出た。
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