アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき

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イルミネーション

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 ハロウィンが終われば、街は一足飛びにクリスマスの装いに変わる。

 大学も冬休みに入り、仕事量の増える時期。クリスマスに向けた音楽番組やバラエティの収録、百貨店でのローストビーフのPRの仕事もあった。
 今も、大地だいちのマンションでマネージャーの車待ちだ。
 隼音しゅんの住んでいるマンションはこの隣の建物。いっそ同じマンションに住めと言われた事もあるが、間取りや内装などそれぞれに拘りがあるのだ。

 大地の部屋からは少し離れた並木道のイルミネーションが一望出来る。


花楓かえでさんと、イルミネーションを見に行きたかったんだけど」
「ああ」
「クリスマスでしたよねー」

 休みを合わせようと思ったのに、見事に擦れ違いで合わなかった。
 この時期は客も多いため店に足を運ぶ事も控えている。メールや電話はお互い疲れているかもと気を遣って、週に一度するかしないか。

「俺もレジとか箱詰めとかお手伝いしたかったけど、どう考えても国民的アイドルSYUNN君であることを隠せそうになくて」
「冷静だな」
「冷静にもなります。あのドラマ以降、ありがたいことに、お子様からお父さんお母さん、ひいてはおじおばあちゃん世代からも人気が出まして」
「いや、知ってるけどな」
「改めて口にして、己の言動が与える影響について考える日々です」
「いつも以上に変だぞ? どうした?」
「変っ、大ってばひどいっ」

 あ、戻った。大地は呆れながらもどこか心配そうな顔をする。花楓不足でおかしくなったのでは。そんな顔だ。隼音は違わないけど違うからと首を振った。


「でも、考えてるのは本当」

 ライブグッズのクッションを抱き、溜め息をつく。

 今まで若い女の子のファンが圧倒的に多かったのだが、先日、九十歳のマダムからファンレターを貰った。
 達筆な字で、ドラマの感想や、初めてアイドルのCDを買った事、隼音とD-BlinKを応援する事が生き甲斐になったという事が綴られていた。

 改めて、考えさせられた。
 アイドルは夢を与える仕事。華やかな姿も、一生懸命に頑張る姿も、癒しを届けられる姿も、そう言った綺麗なものを見せ続けなければならない。

 ファンレターをくれた人は、隼音の浮き名に驚いたものの、そんな人には見えないと綴ってくれていた。ただただ優しく、暖かい手紙だった。


 それで、思ったのだ。
 世間が勝手に勘違いするSYUNNの姿も、勘違いさせようとしたSYUNN自身の行動も、改める時ではないか。
 違うやり方で、隼音らしいやり方で、もっと上手く立ち回れないか。
 芸能界は綺麗事だけで生きていける世界ではない。それでも、自分らしさを貫ける方法を探したい、と。
 隼音はふうと息を吐いた。


「二十歳にもなったし、そろそろ落ち着きも身につけないとなーと思いました」
「隼音が、まともなことを……」
「感想がそれって酷くない?」
「いや、まあ、悪い」

 本気で驚いている大地の肩を、まあ許してあげよう、と言ってポンポンと叩いた。

「それに、花楓さんに迷惑掛けたくないし、掛けたら出禁にされるし」
「ああ、店長か」
「店長さん、ライバルかと思ったら本当にお義父さんだった」
「ライバルだったら最初から追い払われてんだろ」
「ですよねー」

 ライバルだったら、きっともう二人はお付き合いしている。あの反則的な内外イケメンに過保護な程に愛されて、もし迫られでもしたらノーと言える人はいないだろう。
 大人の余裕……大人の色気……落ち着き……。
 ふ、と思考が現実逃避する。

「ホラーは長生きの秘訣なのかな」
「話飛んだな?」
「だとしたら、花楓さんは長生きだな。良かったー」
「まあ、そうだな?」
「来年は花楓さんのハロウィン魔女衣装とかクリスマスサンタさんとか見れたらいいな」
「発想がオヤジ臭くなってんぞ」


 そこでマネージャーから連絡が入った。
 車内から見るイルミネーションは白からオレンジに移り変わり、青へと変わる。
 光で雰囲気の変わる街を眺め、隼音はコツリと窓に頭を預けた。

(花楓さんも、どこかで見てたらいいな)

 きっと眩しそうに目を細めて、綺麗だねと柔らかな笑顔を浮かべるのだろう。
 花楓さんの方が綺麗です。
 そう言ってしまうのを我慢出来る気がしない。それでもきっと、少し驚きながらも、ありがとうと恥ずかしそうに笑ってくれる。


 ……会いたい。


 花楓の笑顔を思い出し、そっと目を閉じた。




 店を閉め、ベージュのノーカラーコートとオフホワイトのマフラーを着てふらりと表通りに出た。
 キラキラと目映く輝くイルミネーション。この辺りはオレンジの光で溢れている。青と白も雪みたいで好きだが、仕事終わりはこの暖かな光の方が好きだなと思った。

「隼音君もどこかで見てるかなあ」

 今日も仕事だろう彼は、場所の移動中などに見ているかもしれない。
 クリスマス時期は出演する番組が幾つもあると知り、先日自分の部屋に録画機能付きのテレビを買った。
 きっと、頑張っている彼を見れば元気を貰える。明日からも頑張ろうと思える。そんな気持ちにさせてくれる彼の事が、すごいなと思うのだ。
 画面の中で見るアイドルとしての彼の姿はまだ少しだけ、不思議な感じがするけれど。


 ……会いたいなあ。


 ぼんやりとイルミネーションを見つめる。
 来年は、隼音の予定に合わせてどこかで休みを取ろう。この眩しい光景に目をキラキラさせる彼の笑顔を見たいから。

 それまで、愛想を尽かさずにいてくれるなら。
 そう思うと胸がチクリと痛む。
 そこで、メールの着信音が鳴った。差出人は隼音だ。

『花楓さん、イルミネーションが綺麗です』

 添付された画像は、どこかの広場の大きなツリーだ。背景にキラキラとしたオレンジの光が写っている。
 花楓は、胸が暖かくなるのを感じた。




 突然スマホを抱き締める隼音に、大地は怪訝な視線を向ける。皆イルミネーションに夢中だとはいえ、不審すぎると目立ってしまう。
 どうした、と訊く前に、ラベンダーカラーのマフラーを目元まで上げた隼音が画面を大に見せた。
 画面には、夜空とオレンジのイルミネーションの写真。差出人は花楓だ。

『一緒に見てるみたいだね』

 あー、と大地は納得しながらも、花楓の天然さと隼音の忍耐に感服すらした。
 もういっそ押し切って付き合ってしまえ。
 そう思うのだが、隼音の幸せそうな顔を見ると、今日も何も言えなくなってしまうのだった。


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